もうあの頃には。
懋助零
第1話 いつもの日々
「いやぁぁぁぁ"あ"!!!!」
「まだ死にたくないぃぃ"!!!!」
街に響き渡る人々の断末魔。
「グァァァァァァア"!!!」
「ヴォォォォォ」
街に響き渡る謎の生物の唸り声。
「グシャッッッッ」
街に響き渡る潰れる音。
__全てはいつも通りに進むはずだった。
「おはよー!」
「よっ、来たか。」
彼は浅野 海斗。私はいつも一緒に登校してる。
「ねぇ、今日って体育あった?」
「うーん、あったんじゃね?」
「げ、最悪〜泣いていい?」
「え、泣けよwwwwww」
私は密かに海斗に恋をしている。
小さい頃からの幼なじみだし、今更かなと思ってしまう。振られた時も怖いし。
なんて考えているうちに、学校の校門に着いていた。もう朝のホームルームが始まる10分前だったから、下駄箱で海斗と別れて、それぞれ自分の教室へと向かった。
ガラガラ……
「んね、朝日、来たよww」
「ガチで笑えるww」
「噂をすればやってくるwwwww」
そう、私は虐められている。
小学三年生の時、自分の両親を亡くして、叔母さんに引き取られたけど、結局捨てられちゃって。今はバイトをしながら一人暮らしをしている。
だから、貧乏で。それがバレちゃったみたいで。
「ねぇ、茜。今日もおひとりで?ww」
「あの彼が居ないとなーんにもできないもんねえ」
「ガチでやめてやれよwwwww草www」
もう慣れたからあまり気にしていない。
「そういえば次の教科体育だよ?ジャージは?w」
私はしっかり持ってきた。忘れたはずがない…思っていたが、さっきまで机に置いていたはずのジャージがない。
「茜、忘れてんじゃんwww今日の体育は見学だねぇwwwwww」
「私、持ってきたよ!どうして……!」
どうしても悔しくって、言い返してしまった。
「茜が忘れたからここにないんでしょ、考えなよ。」
「………」
これ以上何を言っても、もっと酷くされるだけだと思い、黙った。体育は仕方がない。謝って大人しく見学しようと思う。
階段を降りている時、海斗と出会った。
「どうして海斗もここにいるの?」
「今日1、2組合同体育だろ?」
「え。嘘……私ジャージ忘れちゃってさ、出れないんだよね。海斗とやりたかったなぁ…なんて。」
忘れてしまったと嘘をついた時、さっき起こったことを思い出してしまい、泣きそうになった。
「お前、持ってただろ、朝。」
「……え?いや、持ってなかったよ…」
「……ふーん……ま、俺も忘れたんだけどさw」
「海斗も!?んじゃ、2人で見学だねぇw」
少し、嬉しいと感じてしまった。
下駄箱で靴を履き替えて、グラウンドに向かうと、他の生徒達は授業前のランニングを始めていた。
その時だった。
校門の隙間から、目を赤くした、小さな犬がすごい勢いでグラウンドに入ってきた。
「ねぇ海斗。あの犬、入ってきちゃったよ。」
「それにしても目が赤くないか?」
「……だよね」
「ワン"!!!!ヴォーン」
そう聞こえた瞬間、クラスメイトの大人しい女子が断末魔をあげた。
「イヤァァァァァァ!!!!!!!!」
犬に噛まれたのだ。
彼女は倒れた。そして痙攣が始まった。
「……これ、ヤバいんじゃ………」
周りの生徒は皆、悲鳴をあげている。
私は思わず彼女の元に走っていった。
「ねぇ、琴葉さん!大丈夫??!!」
「琴葉ぁ……琴葉…何で急に…!!」
彼女…琴葉さんと仲が良かった友達、亜里沙ちゃんは、琴葉さんの上に顔を埋めて泣いている。
その時、琴葉さんはゆっくり立ち上がった。
身体中に血管を浮き上がらせて、血を体の穴という穴から垂れさせながら。
まるで、人間じゃない別の生物に変わったように。
「嘘、なんで。」
あまりの惨さに何も言えなくなり、その場に立ちつくした。そして彼女が私に向かって襲ってくる時間は、とても長く感じた。
あぁ、ここで謎の生物に襲われて死ぬんだ。そう思った。その瞬間、後ろからグイッと何者かに引っ張られた。
海斗だった。
「おい!危ねぇぞ周り見てろ!」
「ご、ごめん……!!」
琴葉さんの周りにいたクラスメイト達は、暴れ狂って叫んでいる。決して琴葉さんの動く速さは速くないが、噛まれている者は沢山出てきている。
そして、噛まれたものの殆どが30秒後位に、謎の生物に変貌するのだ。
そして今になって、先程の恐怖が私の心に押し寄せてきた。今まで感じたことの無い不安。思わず海斗に近付いた。
海斗は、震えている私を何も言わずに引き寄せて、手を繋いでくれた。
「大丈夫だ。大丈夫。きっとなにかの…間違いだ」
そう私たちが話している間にも、グラウンドにいたほとんどの生徒、先生達は謎の生物に変わり果てていた。
逃げないと。本能がそう言っている気がした。
私は海斗の手をギュっと握り、校舎へと走り出した。
「逃げて!みんな逃げて!」
そう叫びながら廊下を走るけど、いじめられっ子の私の話なんか誰も聞いてくれはしない。
「本当なの!血だらけの人達が襲ってくる!早く!!!」
心からの叫びを聞いて貰えない。これは緊急事態なのにもかかわらず。
「お前ら!聞け!!」
手を叩いて、海斗が立ち止まった。
「この学校は今危険だ。外には謎の生物がうじゃうじゃいる。早く、早く逃げるんだ。でもグラウンドには近付くな。奴らがいる。」
いつもふざけている海斗のガチなトーンに、さっきまで無視していた人たちも信じ始めた。が、やっぱりバカにしている人達は、大声で叫び始めた。
『その謎の生物って、なんですかァ?www』
『きゃあーこわーいwwwwww』
その中に、あの朝日もいた。
「あ、朝日……逃げて。お願い」
「は?あんたのつまんない嘘に付き合ってる暇ないから。ごめんねーwww」
その瞬間、下駄箱からガタガタと大きな音と、なにかが迫ってくるような音がした。
アイツらだった。
「……海斗、来た……!!!」
「あぁ、わかってる。お前ら!死にたくなければ付いてこい!」
もう一度海斗は私の手を握り直して走り出した。
海斗の後ろで走っている私の後ろには、僅かではあるが人が着いてきていた。
でもまたその後ろには、アイツらがいる。
さっきまでバカにして笑っていた人達も、みんな噛まれて奴らの仲間となっている。
3階まで登った時、奴らに先を越されたのか、4階への階段を塞がれていた。
「クソッ……」
海斗は本当に微かに聞こえる声で本音を漏らしていた。普段温厚な海斗の怒った顔を久しぶりに見た。
その時、後ろに着いてきていたさっきの琴葉さんのお友達、亜里沙ちゃんは、持っていた琴葉さんの名札を落とした。せめて持っていたいと、本人が言って持ってきたものだ。
名札は運の悪いことにピンの部分が階段のアルミの手すりに当たり、カツンと音を立てた。
その音に反応し、4階への階段を塞いでいた奴らが振り向き、こちらに向かって走ってきた。
「逃げろ!!!みんな連れて逃げろ!」
海斗は、私の背中を押してそう言った。
「嫌だ、無理だよ海斗を置いてなんて……!」
「行けよ!!お願いだから聞いてくれ!」
溢れ出そうな涙をぐっと堪え、みんなに声をかけながら、海斗にはこう言った。
「必ず生きてもう一度会おう。」
私たちのいつもの日々は、一体どこに行ったんだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます