第41話 いわゆる、【飲み回】
夜。
ここは、屋敷から地下水道で繋がっている例の酒場である。
ここに今、隊員十六名が勢揃いしていた。
なぜなら――レオナ隊の発足を記念して、店を貸し切っての飲み会の真っ最中なのだ。
「おらー、呑め呑めーっ!」
「誰かおかわり持ってきてー!!」
「自分で行け、自分で! ――あ、取りに行くんだったら、アタシ魚食べたい、魚!」
「おまえこそ、自分で行けよ! ちなみにボクは肉ね!」
「あーもーっ! 全員で行くよ!! ――マスター、ごはんちょーだーい!!」
しかも、普段は隊員が交代で店員を務めている店なので、もう勝手知ったる好き放題。酒場のマスターも「メシは作ってやるから、酒もメシも勝手に持っていけ」と言って厨房に籠っている。
「ねー、干しワカメない~!?」
「出されたモン黙って食っとけ!」
「おいしーっ! これ、なんかキレイ! これもおいしーんですけどー!」
とどめとばかりに、ここのお代については「全部持ってやる」と
「あははははっ! たのしー!!」
「優勝~~~~!!」
「酒を頭から被ってんじゃねー! 全部口の中へ入れやがれっ! 口から飲まねーんなら、あたしに樽ごと寄越せーっ」
……こんなどこにも歯止めがかかってない宴会など、行く末は誰の目にも明らかというものだった。
■■■
「そんなわけで、屋敷に戻ってからがもう大変だったんですよぅ……」
未だどんちゃん騒ぎの
レオナがテーブルにあごを乗せて涙目になっている。
頭の上のホワイトブリムも、心なしか元気なさそうに
「あっはっは。隊長と
テーブルをはさんでレオナの正面に座るカーラは、笑いながら自分の木製ジョッキを一気に空けた。
レオナも釣られるようにジョッキを傾け、中身を空にする。
ジョッキをテーブルに置くと、すぐさま隣から伸びた手が持つピッチャーからエールが注がれる。
カーラの方は面倒くさいとばかりに、テーブル横の樽へジョッキを突っ込み、直にエールを汲み上げていた。
普段なら、店の地下にある樽から店員がいちいち
だが、今回は他に客のいない貸し切りなのをいいことに、「店の中央に樽を置き、一旦どでかいピッチャーに汲んで各テーブルへ配り、あとはピッチャーから呑む分だけ各々のジョッキに注ぐ」というドワーフ文化に
なお、調子に乗ったやつがピッチャーから直接飲み始めるのも、この文化の伝統だ。
「ほんとですよーもーーー」
レオナは、ジョッキの取っ手に手を掛け、なみなみと注がれたエールをグイっと
ゴンと、勢いよくテーブルに置かれたジョッキに、隣からまたエールが注がれる。
「おー、いい飲みっぷりじゃねーか。ホントに今日が人生初めての酒かよ?」
「ホントですよぅ。わたしは、成人してまだ一年経ってない
嘘偽りなく、レオナとしては人生初めてのアルコール摂取だ。
だが、今日のレオナは、前世の記憶が「今日はトコトン飲め!」と全力で叫んでいた。
命のやり取りまで含むとんでもない大仕事が終わった後の、この解放感と疲労感。
それが合わさり、ただただ喉越しとアルコールによる酩酊を、
初めてにも関わらず熟練の呑みっぷりになるのも当然というもの。
ただ誤算があったとすれば、呑む感覚は前世のものでも、呑んだ酒を収めるのは
「おーい隊長。初めて酒飲むってのに、そんな
もちろん、心配そうに声をかけられたら、答えは決まっている。
「だいじょーぶですよぅ」
もちろん、酒を飲んでるヤツの『大丈夫』が、大丈夫なわけはなかった。
「う~……」
レオナが、何の前触れもなく立ち上がる。
「なんだよ、急にどうしたんだ隊長?」
「花に水やりしなくちゃ……」
「ちょ、どこに花なんかあるんだよ――って、店の外行くんじゃねーって。とにかく座って座って!」
「ん~……乾いてるのにぃ……」
「なにがっ」
クレアにツッコまれつつムリヤリ元の席に座らされると、今度はなぜかユラユラと左右に揺れ始めた。
「……おーい、隊長? 大丈夫かー?」
「だいじょうぶですよぅ。何年、お酒と付き合ってきたと思ってるんですか」
「今日初めてだろーがっ」
「だいじょうぶ……たいちょーだし……」
「おーい」
「…………」
クレアがレオナの顔の前で手をヒラヒラさせていると、突然レオナの揺れがぴたりと止まった。
そして。
ごんっ。
いきなりテーブルに額を打ち付け、突っ伏してしまう。
そして、そのままピクリとも動かなくなった。
「おい、隊長。ホントに大丈夫か?」
だが、心配になってクレアが手を伸ばしたところで、無事(?)可愛い寝息が聞こえ始める。
とりあえず逆流の気配はないことを確認し、クレアはほっと胸を撫で下ろした。
「あーあ、言わんこっちゃない――オマエら、初心者に呑ませ過ぎだっちゅーの」
「そーか? オレが子供の頃は、もっと呑んでたぜ? それに、酒なんて潰れるまで呑んでナンボじゃね?」
「
「
「サーイーカー、オマエなー」
「うふふ、大丈夫ですよ。隊長が潰れてからが、副官の出番じゃないですか。じゅるり」
「サイカ。お前、ヨダレたれてるぞ?」
「ふくたいちょー、助けてー! サイカがおかしいんだってばよーっ」
これは手に負えないと、クレアは副隊長のマリアに泣きついた。
カウンターの隅で、ひとり静かになにやらキツそうな酒を
「サイカがおかしいのは、今に始まったことじゃないだろう?」
「いや、今日のサイカはいつもどころじゃないって。このままじゃ、隊長がナニされるか……」
「何もしませんよ。失礼な……うふふ」
「サイカ。お前、ヨダレたれてるぞ?」
「安心しろ、クレア。
「……マリア? 今、なにか最後に余計なものを付け加えませんでした?」
「いいや?
「……」
「わーっ! サイカ、笑顔で刀抜いてんじゃねーよ!!
「う~ん……アイシャ、ゴメンってばぁ……」
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