第48話 救出完了
「取り乱してる子はいないみたいだね。えらいえらい」
クレアはまず構えていた
それから、エントランスホール中央の階段上にいるリルダへ合図を送った。
合図を受けたリルダは階段を駆け下り、玄関の扉へ移動して外へ向けて合図を送る。
「クレア。下、終わったよー」
のんびりとした声が聞こえ、扉から
クレアとアイコンタクトで互いに問題のないことを確認すると、背後に向けて手招きをする。
扉から出てきたエイルがクレアの方へ下がって道を開けると、扉を潜ってゾロゾロと不安そうな顔の少女たちが続いて出てきた。
言葉にするまでもなく伝わっている事実を、あえてクレアに向かって口にしたのは、この少女たちにクレアたちの存在をあらかじめ意識させておくのが目的だったようだ。
「このおねーちゃんと、あそこの玄関に立ってるおねーちゃん。あと外にいるおねーちゃんたちと一緒に、村までみんなを送っていくからねー」
少女たちがエイルの視線を追ってクレアに気づく。
エイルのここまでの苦労を無駄にしないよう、クレアはニッコリと微笑んで小さく手を振ってみた。
(こ、これで大丈夫かな……あー、やっぱり子供苦手…………)
子供たちは、クレアに向かってとくに騒ぎ立てることもなく、そのままエイルに付いてぞろぞろと玄関へ向かっていく。
怖がられて騒ぎにならなかったことにほっと胸をなでおろしつつ、クレアはエイルを先頭にして進む少女たちの列の最後尾に付いて館を出た。
まあ、クレアの心配は杞憂というものだ。
子供たちは、別に温室育ちのお嬢様ではない。
小さくとも、常に猛獣やモンスターに襲われる危険に
敵でないと理解した以上、戦闘でべったり付いた返り血や、血塗れの
「はぐれずについてきてねー」
のんびりした優しいエイルの声。
見知らぬ獣人のエイルたちを怖がる様子もなく、人間の子供は黙ってエイルについていく。
その目には、エイルへの信頼の色が浮かんでいた。
エイルの服の裾をギュッと掴んでいる子もいる。
こんな短時間でこんなにも子供たちの信頼を得るなど、自分には到底真似などできない偉業だ。
(これはもう、エイルの才能だよねー……この後のこともあるし、エイルがいてくれてよかったよ)
クレアは、エイルと子供たちと共に、正門へと向かう。
自分たちの次の仕事は、この夜の危険な時間帯に子供たちが乗る馬車を村まで護衛することだ。
今、馬車をこちらへ運んでいるアルテアの班と共に村まで行くことになっているし、隊長以下四名は後を追ってきて村で合流する予定ではある。
しかし、アルテアの班は御者と周囲の護衛が役割であり、道中の子供たちの面倒を見るのは自分たちの役割だ。
エイルがいなければ、涙目でビクビクする子供たちを連れての、非常に疲れる移動になっていたに違いない。
そしてルックアあたりが、イライラの限界を超えてキレていたに違いない。
(今回の作戦、エイルが参加してくれててホントよかったよ……)
エイルのお陰で道中子供たち相手に余計な神経をすり減らす必要がなさそうなのは、心底ありがたかった。
「順調?」
門に近づいていくと、木の陰から出てきた少女が、先頭を歩くエイルに声をかけてきた。
「なーんも問題なしだよ、ルックア」
「そ」
のーんびりとしたエイルの回答を受け、ルックアが
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短い呪文を呟くと、空に向けられた右掌に
火蜥蜴は、おもむろに天を見上げると大きな口を開け、天に向かって炎の玉を吐きだす。
炎の玉は一直線に空へと向かって
その位置から一瞬人間かと思ってしまうが、しかし種族固有の特徴である先の尖った耳は、彼女がエルフであることを雄弁に物語っている。
エイルに率いられた子供たちほどではないが、その若い顔立ちと低めの身長や華奢な体つきは、成熟する前の少女にしか見えない――それもまた、エルフの特徴だ。
彼女は別に子供なのではない。
エイルもクレアも、彼女が自分たちよりもずっと前に生まれていることを知っていた。
というか、自分たちの親よりも先に生まれているかもしれない。いや、祖(以下略)。
――そのあたりを詮索する勇気は隊の誰も持ちあわせていないので、
「おー……こりゃまた派手だなー」
クレアが炎が散った空を見上げながら感嘆の声を上げた。
「派手じゃないと、意味ない」
ルックアが淡々と答える。
本来攻撃を目的とする魔法なのだが、今回は物や敵の破壊が目的ではない。
この派手な合図で、離れた場所に待機する仲間が馬車をこちらに移動させることになっているのだ。
――さらに、館の中に残る隊長以下の仲間に、子供たちの脱出完了を知らせる合図でもあった。
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