第17話 大事なことは、夜決まる
「……なぜだ?」
あっさりと
「あれは事前にティア様が評価されていた通り――いや、それ以上の
ティアが二人へ事前に提示していた才能と技術を持っているということは、マリアも否定しない。それ以上だとすら評価している。
「これは半ば勘ですが、いざという時、あいつはわたしより早く的確に判断するでしょう――そんな下っ端がいると、本人がどう頑張っても、組織としてお互いやり難いだけですよ」
もちろん、わたしも含めて――と、マリアは締めくくって再びジョッキを
つまり下っ端に向いていないのだ、と。
「ほう、あの
「ええ。これも勘でしかないのですが……あいつはあの年齢にも関わらず、おそらく実戦経験がケタ外れています」
ティアの表情は変わらない。
ただ、じっとマリアの言葉を聞いていた。
「長年冒険者パーティのリーダーでもやってたのか、それとも一級の戦闘指揮者の下で経験を積んだのか――少なくとも、命のやり取りをする場での瞬時の判断は、わたしやサイカでは足元にも及びませんね」
「……なるほどな」
(
レオナの
それを、一日一緒にいただけで、嗅ぎ当ててしまう。
(――ま、あわよくば程度に思っていたが、今回は運よくうまくいったようだ)
ティアは、元々それを考えていた。
レオナを有効活用するには、それしかないと。
能力に見合わない地位に就けるのも、能力に見合った地位に就けないのも、どちらも本人のみならず、組織にとっても百害あって一利なしだ。
だから、この想定していた中で
最後に、マリアがそれを口にする。
「ということで、レオナが隊長になるのであれば、隊に受け入れましょう。ただし――」
表情も変えず「そうか」と重々しく承諾を与えようとしたティアだったが、マリアの言葉にはまだ続きがあった。
内心の意外さを表に出さず、ティアは自身の言葉を飲み込んで
「ちょっとした条件を付けさせていただきます」
「条件?」
ティアは思わず聞き返す。
いったい
そこでマリアが、サイカに視線を送った。
サイカが軽く
「ええ、たいしたことではありません。
しばらく黙ってその条件を聞いていたティアが、最後に破顔した。
「ハハハッ! なるほど。そっちの方がいいかもしれん」
「はい。あいつは、威厳や恐怖で部下を従えるにしては――可愛すぎます。おそらくこれまでも、力ずくで人を動かしていたわけではないでしょう」
「たしかにそうだな。いいだろう」
それで決定だった。
ただ、そうなると。
「隊長の予定だったお前はどうするんだ?」
「副隊長にでもしてもらいましょうか。隊長に必要なのは戦闘経験だけじゃない。まだ尻に殻が付いている
レオナをその条件で使うのであれば、たしかにマリアやサイカが
さすがのレオナも、その条件を意識的にうまく使えるほど、人生経験はない。
「レオナが隊長で、マリアとサイカが副隊長か……」
「いえ、
「なっ!?」
サイカの言葉を聞いたマリアが驚きの声を上げた。
副隊長は隊長に次ぐ権限を持つが、副官というのはただの役割で、委任されない限り特別な権限はない――マリアが驚くのも無理はないなと、ティアも内心驚いていた。
まぁそれも、マリアが次に口を開くまでだったが。
「ちょっと待て。まさかお前、レオナを独り占めする気か?」
――ん?
「気づくのが遅いですよ、マリア。あなたはもう、副隊長を自ら選んだんです。作戦は班に分かれてそれぞれの役割を受け持つのが
「キサマ、作戦中もレオナとイチャつくつもりか!?」
――んん?
「作戦中だけじゃないですよ。どんなときも隊長の
ニッコリ微笑むサイカに、マリアも微笑みを返す。
そして、サイカの腰に手を回して引き寄せ、顔をグッと近づける。
「…………なあ、サイカ。副隊長と副官の肩書、交換しないか?」
「お断りします。レオナの副官の座は、もう永遠に
「おい、それはズル――」
「そこまでだ」
なにやら妙な方向へ脱線しかかっている酔っ払い二人の会話を、ティアは制止した。
後半は話の流れがおかしな方向へ進んでいたが、
「……いいだろう。レオナを隊長とする。副隊長はマリア。サイカはレオナの副官だ。だが、レオナが
「お任せあれ。さっきも言った通り、そのための副隊長です」
「もちろんですっ。
「……ちょっと待て」
興奮気味に妙な宣言をするサイカに、ティアが待ったをかける。
「勘違いしているところ悪いが、レオナはこれまで通り私付きの使用人を続けてもらう。というか、そっちが本職だ。お前たちと同じく、隊としての行動は、訓練を含む作戦行動中のみだからな。副官としての役割は、そのときだけだぞ?」
「……では、一緒に食事したり、一緒にお風呂に入ったり、毎晩一緒に寝たりする副官の任務、は?」
「風呂に入ったり寝たりする任務など最初から、ない」
「そんな!」
絶望の表情を見せるサイカに、ティアは心中で溜息を盛大に
「いえ……あの訓練所へうまく誘導すれば、せめて……」
(
それはティアの
もちろん――。
(まあ、それも人生経験……だな)
その後、見事に的中することになる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます