第75話

「良いよ。もう少し詳しく説明しようか」


純度の高い魔素を吸収すれば能力が向上するけど、そのためには必要なことがある。

それはより多くの魔素を吸収することだ。


では、どうすれば多くの魔素を吸収できるか?

より強いモンスターと戦って勝てば良い。


では、より強いモンスターとなると・・・そう、より上の階層に上がる必要がある。

より上の階層でより強いモンスターと戦えば、戦闘経験も上がる。


結果、基礎的な肉体の強さも強くなるだろうし、そうなれば魔素にも耐えられるようになる。


「・・・耐える?」

「そこも説明が必要だね」


魔素を吸収しただけでは強くはなれない。

魔素によって活性化された細胞と、その力に耐えられる肉体的な強さが必要なのだ。


そのためにも、より強いモンスターに勝てなければならないってことだ。


「・・・何となく理解できた気がします。でも、何処まで行けば良いんですか?」

「何階層か・ってことかな?目安は五十階層くらいかな」


「・・・五十・・・まだまだ先だな」

「そうでも無いと思うけど。良い武器を手に入れただろう?」


確かにソロであるタケルには少し厳しいかもしれないが、それでも武器によるハンデは無くなったのだから希望は充分にあると思う。

後は、その潜在能力がどのくらいあるか?だろうか・・・


「その魔素が充分に吸収できたら、あなたに・・・勝てますか?」

「直ぐには無理だろうけど、訓練すれば今の状況よりは断然可能性があるだろうね」


まだ本当のことは言えないけど、体に魔素が吸収されて細胞が活性化するのは身体強化魔法の影響なのだ。

体外に放出する魔法は魔力器官で魔力に変換しないと使えないが、体内だけに作用する魔法は一部が魔素のままでも使用できるのだ。

その代表が身体強化で、才能があれば自己治癒や自己解毒なども使えることがあるらしい。

俺は普通の治癒魔法や解毒魔法が使えるから、試したことが無いんだけどな。


これは絶対に秘匿するべき内容で、これが外部に漏れると「地球人は魔法が使えない」と言う言葉を否定することになる。

だからタケルにも現時点では教えることはできない。

じゃあ将来的には?と聞かれても、それを今の時点で判断はできないのだ。


「つまり現時点では、俺は涼木さんには絶対に勝てないってことだけは確定なんですね」

「確定って言われると、あれだけど、まあそうだろうね」


「分かりました。色々と話を聞かせてくれて感謝します」


ああ、一つお願いしないと!


「ところで、相談なんだけど・・・」

「何ですか?」


「ダンジョンに入って、帰ってきたら魔素の検査をさせてくれないか?」

「それって、俺がどのくらい魔素を吸収したかを調べたいってことで当たってます?」


「その通り。今後の目安として知りたいんだ。協力してくれないか?」

「・・・良いですよ。その代わり魔素が吸収できたら、また訓練に付き合って下さいね」


・・・次の約束をさせられたが、タケルはそれが目的だったしな。

あとは、口約束だけで終わらせるか?って問題だが・・・契約書いるよな・・・どっちにするか?

ここは普通のより・・・魔法契約・・・だよな、やっぱり。


「少し待っててくれるか?」

「何か用事でも?」


「流石に普通では話せない内容をバンバン話してるからな。守秘契約を書面で、って思ったんだ」

「あぁ、それはあった方が俺も安心できます」


・・・絶対に普通の契約だと思ってる口だよな。

まあ、この世界で魔法で契約するって考える人間が何人いるんだよって話だけど。


手早く専用の紙に専用のインクで書類を書く。

内容は簡単で「今日二人で話した内容を地球人には伝えない」ってだけ。

無視して伝えようとすると「咳が出て何もできなくなる」って縛り付きだ。

命懸けとかは、やり過ぎだと思うんで、こんなもんにした。


「これ読んでくれるか」


俺が書いた内容を読んで首を傾げるタケル。

不思議なんだろうな、縛りの内容が・・・


「あの・・・この「咳」って・・・」

「それ魔法の紙だから。それに血判したら成立するよ」


「じゃあ、本当に咳が出て喋れなくなる?」

「勿論。激しい咳だと行動もできなくなよ。まあ、色々と細かく書いてある契約書なんて理解し辛いだろ?これなら簡単で良いだろ?」


まあ内容が「咳」だけだし、それで良いのか?って悩んでるのかな?


「・・・血判でしたね。これで良いですか?」

「確認するよ」


受け取った書類を確認すると、タケルと書類の間で魔力的な繋がりができているのが分かる。

きちんと契約魔法が発動した証拠だな。

契約魔法を解除するには、タケルの血判の上に俺が血判を押せば良いだけだが、当分その予定は無いな。


「OK。これで問題無いよ」


俺は契約書を巻き取って置く。

魔法契約の書類って面倒だけど折ったらダメなんだよな。

師匠曰く、折り目が良く無いらしい。


「それにしても、本当に異世界人と交流があるんですね。こんな魔法の道具まで持ってるなんて」

「そうだな。最上階にも行ったことがあるけど、これも秘密だぞ」


魔法契約をしたから、こういうちょっと踏み込んだ話もできるってもんだ!

気が楽になったな。


「じゃあ、今後のタケルの予定を考えようか」

「俺の予定?」


「計画的に進めて、その経過を調べたいからな」

「・・・何か、実験用のモルモットになった気分なんですが?」


「そ、そんなことは思ってないぞ!」

「そこで吃音どもると余計に怪しいですよ」


一瞬だけ、同じ様なことを考えたとは言えず、言葉に詰まったところを指摘されてしまった。

すまん、ほんのでき心だったんだ、許してくれ!

そう心の中で謝っておいた。

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