第72話
京極の聞き取りを皮切りに、全員が聞き取りを終えるまでに二週間半、特に問題無く聞き取りは終了した。
そして更に一週間後の今日、全員の新しい武器を受け渡すことになっている。
本来ならできあがった順に渡す予定だったのだが、それだともう一週間ほど余分に時間が掛かりそうだったのだ。
鍛冶なら鍛冶、それ以外ならそれ以外で纏めた方が手間が減るので早くなるってことである。
その辺りを打診したところ、全体が早くなるなら問題無いと返事を貰い、今回の様な集団引渡しになったのだ。
正直言って、オークションの意味は無かったのかもしれないが・・・
もう少ししたら、いつも通り御戸部さんが全員を連れて来るはずだ。
今回武器の引渡しが終了すると同時に、もう一つ渡す物がある。
それは警察署のドアを開けるためのカードキーだ。
彼等は今後、武器の調整や修理が必要になった時に、ここを訪れることができる訳だ。
まあ年中無休とか二十四時間営業をする気は無いので、専用サイトで営業時間や休日の確認をしてもらうことにはなるんだけど。
そんなことを考えている俺の背後には机が五つ、その上に沢山の武器が置かれている。
刀、槍、薙刀、両手剣、短剣、両手斧、大盾、杖、半両手剣、片手剣、短槍、大槌、戦槌などなど。
好みの武器がこれほどバラバラだとは思わなかった。
見た目は実用一辺倒で装飾も何も無いが、彼等が五十階層に行くまで使える程度の能力はある武器達だ。
まあその辺は実際に使ってみないと実感はできないだろうけど。
その武器の中で、一つだけ京極君の刀は波紋がとても綺麗に出たので、見た目もかなり気に入っている。
まあ俺の物じゃないので、気に入ってもどうにもならないんだけど。
・・・外が騒がしくなったな。
みなが来たようだし、迎えに出るか。
「いらっしゃい、みなさん。奥に用意してますよ」
御戸部さんに連れられて来たみなを奥に誘導する。
「武器に名札が付いていますんで、間違わないようにして下さい。それとここで素振りはしないように!流石に全員が素振りできるほどの広さは無いですからね」
何人か振り上げ掻けた武器をそっと下ろすのが見えた。
そこへ御戸部さんが中庭へ誘導してくれている。
俺の工場は上から見ると大文字のEの形をしてるのだ。
中庭ってのは、前は駐車場にしてた部分のことである。
今は車が出入りしたりしないから、使い道が無いんだよな。
そんなみなの姿を見ていると、フラワーガーデンの藤香さんが話し掛けてきた。
「これって凄いしっくりくるわ!手に馴染むって言うのかしら?」
「そう言う風になるように作ってもらいましたから」
「ちょっと聞きたいのだけど、前の武器を同じように調整とかしてもらえたりしないのかしら?」
藤香さんの質問は、元々使ってた武器を新しい武器と同じになるように調整できないか?ってことだった。
「それはできますけど、凄く高く付きますよ」
「どれぐらいなのかしら?」
「ほとんど同額になりますね」
「えー、それって高過ぎでしょ」
「作業自体は余り変わらないので、値段もそんなに変わらないんですよ。私から何か言えるものじゃないんで、どうにもならないんです。何処か、普通の所でやってもらった方が安くできると思います」
俺が作ったこれらの武器が普通の武器と違うのは、魔石を素材として使うのと鍛冶魔法を使っていることだけなのだ。
魔石は俺ならいくらでも手に入るので、結果として代金のほとんどが鍛冶魔法の技術費用なのである。
そうなると、ただの鉄で作るのも、魔石を混ぜた鉄で作るのも、差異は無いと言うことのだ。
つまり、費用もほとんど一緒になるのである。
「そうなのねぇ。これも練習用に使いたかったのだけど、費用的に無理ね」
残念そうにしている藤香さんの後ろで、同じようにガックリしてる人が何人かいる。
もしかして、同じことを考えてたのかな?
可哀想ではあるけど、そこは譲歩でき無いし諦めてもらうしかないな。
そんな話をしていたところ、中庭で素振りをしていた幾人かが室内に戻って来た。
「涼木さん!これ凄いな。完璧に注文通りで驚いたぞ」
「こんなにしっくりくる武器なんて初めてだ!」
俺の耳に入ってきたのは、武器を絶賛している言葉だった。
「そうですか?それは良かったですね。しかし何かあるようでしたら、遠慮せずに言って下さいね。有料にはなりますが調整してもらいますので」
「ちぇっ!しっかりしてるぜ。少しぐらいマケてくれても良いんじゃないかい?」
「私ができる作業だったら、その意見も考慮できるんでしょうが、実質的に作業するのは別人ですので・・・」
「あっ!そうだったな。そりゃあ無理は言えねえや」
「ところで、皆さん受け取られた武器に不備などはありませんでしたか?」
そう聞いてみたが、誰も何も言わない。
つまり、今のところ皆が満足していると言うことだろう。
「じゃあ最後に、御戸部さん、例の物を」
「ええ、分かりました」
そう返事をして、俺の背後に立っていた御戸部さんが前に出てきた。
「これからコレを配りします」
そう言って一枚のカードを前に差し出した。
あのカードが、彼等個人個人のカードキーなのだ。
御戸部さんが、そのカードキーの説明を始めた。
「・・・なるほど。あの地下牢のドアの鍵ってことか」
「受付を通り抜けるのにも必要なので身分証の役割もありますよ」
今は彼等だけだが、今後俺の店舗に来る人間には必ず必要になる物だからな。
最後に御戸部さんが、それぞれにカードを配るのを待って解散となった。
皆がそれぞれの新しい武器を手に順次帰って行くのを見送る。
最後まで残ったのは、京極だった。
たぶん練習相手の件で話をしたいのかな?
まあ良い機会だし、約束もあるから無碍にはできないな。
「京極君は、例の件の話かな?」
「ええ、その相談をしたかったんです」
やっぱりね。
「それで武器の方は問題無かったかな?」
「全く問題無かったです。これほど注文通りな武器なんて初めてでした」
「納得してもらえたなら良かった。じゃあ、午後からでどうです?」
「午後からですか?」
「ええ、昼食を摂ってからが良いんじゃないですか」
俺は時間を確認して、直ぐに昼になるのを確認して提案した。
「確かに、もう直ぐ昼になりますね。では、昼食後にもう一度来ますね」
「ええ、そうですね」
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