第59話

「ご覧下さい!今一人の日本人男性がダンジョンから出てきました。何と彼は今回の認定試験で合格した直後からダンジョンに入り、そして今出てきたそうです」


唯一ダンジョンの前での撮影を許可された放送局のニュースキャスターが驚きの声を上げていた。

と言うのも、昨日終わったばかりの認定試験で許可が出た日本人男性の一人が今朝一番からダンジョンに入っていて、今無事に出てきたところだったからである。


成人したばかりに見えるその男性は、普段着の腰に日本刀を携え背中にリュックを背負っただけの非常に軽装な格好だった。

誰がどう見てもダンジョンを舐めているように見えるのだが、怪我も無く出てきた姿を考えると・・・何かしら・・・日本刀を持っていることから考えて剣術などの高位の使い手なのだろう。


「すみません。日本人の方ですよね?もし宜しければインタビューさせていただけませんか?」


近付いて来た男性にニュースキャスターが突撃取材を敢行したようだ。


「構いませんよ。ただ、疲れているので手短にお願いできますか?」


男性は快くインタビューを受けたようだ。

だが、男性が言うように命を懸けた戦闘をしてきた直後なのだから疲れているのは確かだろう。


「では、手短に。ダンジョンの中はどのような場所でしたか?」


ニュースキャスターは、個人的な情報は聞かず皆が知りたそうなことだけを手短に聞くことにしたようだった。



*** *** *** *** *** ***



「おいおい、生きが良いヤツがいるなぁ!」


工場のテレビを見ていると突然飛び込みで入ったニュースでダンジョンが映っていた。

何かあったのかな?と見ていると、日本人男性がダンジョンにいきなり突撃して、その上で無事に帰ってきたと言っていたのだ。

それを見たモリトは、つい「生きが良い」と言ってしまったのだった。


「それにしても・・・バトルジャンキーなのか?」


異世界では割とよく見掛けた存在なので不思議にも思わなかったが、日本では一部の危ない人達の中にしかいないと思っていた。

なにせ「日本は平和ボケ」と言われるくらいだから、そんな判断になってもおかしくは無いはずだった。

そんな中で即日ダンジョンに入った日本人男性は目立つ。

現にテレビに映っている人物は日本中に知られた訳だ。


「何か訳がありそうだな・・・」


ここまで積極的に何かをする場合、それにはそれなりの理由があると思ったのだ。

まあ、それが何かまでは勿論分かりはしないのだが、多少は気になっていた。



その翌日。

別のニュースで、また彼がインタビューを受けている姿を見た。


「ふぅん、京極 尊ねぇ。随分と目立ってるというか目立つように行動してるよな」


姿、名前、簡単なプロフィールまで公開しているとなると、それを出す以上の見返りを期待している目的がなんだろう。


「京極 尊、20歳、現役の京大生、古武術の経験者・・・若くてイケメン頭も良いってデキ過ぎじゃないのか?」


普通に生活しても何も困ったりしそうに無いハイスペックな彼が求めるのは何なのか?

昨日よりも興味を引かれていた。


「まあダンジョンに来てるんなら、どこかでバッタリって可能性もあるか・・・」


モリトは頭の隅に彼のことを記憶して、現在の最重要課題である「ポーション」の問題に取り掛かるのだった。



*** *** *** *** *** ***



「ふぅ~、疲れたな。慣れないことはするもんじゃ無いな」


殺風景な賃貸マンションの一室で、一人の男性が愚痴をこぼしていた。


彼は、京極 尊。

現在世界で唯一、国家や企業に関係の無い完全にフリーのダンジョンからの帰還者である。


ここはダンジョンの直ぐ近くに建てられてばかりの真新しいワンルームマンションで、彼が自分で借りた賃貸物件である。

現役の京大生としては学業とダンジョンの両立は難しいのだが、彼には何やら目的があるようで、どうしても大学よりもコチラを優先させたかったようだった。


「態々目立つように振舞ったけど、目的の人物は見てくれたんだろうか?そこが一番気になるんだけど・・・」


目的の人物?

誰かに見てもらいたくて態々目立つことをしていたらしい。


そんな彼の前には一台のノートパソコンがあり、を再生しているようだ。


「これがゴーレム?見る目の無い人がこれほど多いとは思わなかったけど・・・これは間違い無く人の動きだ。俺は師匠から叩き込まれたから絶対に間違えたりしない!って言いたいところだけど、魔法は範囲外なんだよな・・・」


見ていたのは、モリトが生活費を稼ぐために投稿していたダンジョン内の動画だったようだ。

政府の公式発表では「この動画内で戦闘をしているのは賢者の所有する戦闘ゴーレムである」と言われている。


しかし彼は、それを否定し「これは人間だ!」と言っている。

ただ、その発言に根拠は無いようで言葉の最後の方は自信無さ気だった。


ゴーレムが人であることと、彼の目的にしている人に何か関係がありそうな気配である。

もしかすると彼が見て欲しいと思っている目的の人物とは、ゴーレムでは無く人だと言っている動画の中の人物なのだろうか?


と言うことは、それは〈モリト〉と言うことになるのだが、それを知るのはモリトと師匠である賢者以外にいない。


それと、彼が望んでいた「目的の人物が見てくれていたか?」だが、間違い無くモリトは彼のことを見ていたし、興味も持っていた。

ただそれが、今後どうなるか?までは誰にも分からない。



しかし、確かに、何処かで、何かの歯車が、少しだけ動き出していた・・・


モリトと尊、二人が出会うのは、そう遠くないのかもしれない・・・どんな出会いになるかは分からないけれど・・・

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