闇を鎮めしは7つの刀
二郎マコト
第1話 プロローグ:襲撃&終劇
日の本には昔から、闇払いという存在がいる。
古き時代には陰陽師とも呼ばれていたが、時と共に表の世界から姿を消して以降、姿形を変えそんな風に呼ばれるようになっている。
八百万などの日本の神々の加護のもと、神々から与えられた異能を使い、悪霊や人の心に救う鬼などの闇を鎮め、祓い、光と闇のバランスを保つ存在。
昔こそ悪霊、怨霊を鎮め世に平穏をもたらす存在であることから人々の尊敬も厚く、その数も多かったが科学や文明の進歩などがあり、表舞台から姿を消し、数も激減した。
しかし、一部の一族はその技術、素質を伝え、守り、今の世においても陰ながら光と闇のバランスの維持に努めている。
で、その末裔の1人が――――――、
「お前だよな。七瀬」
「ん、まぁそうだけど……。どうしたの、今更」
「いや、相変わらずそんなふうには見えねぇなと」
「む。どういう意味さ、それ」
僕こと、
闇払いの一族の末裔であることを除けば、こんな風に学校帰りに親友とだべったり、進路に頭を悩ませるごく普通の高校生だ。
「だってよ。そんな切った張ったの世界に生きてきた一族な訳だろ? お前の祖先って。それをおっとり七瀬、男の娘の七瀬ちゃんなんて呼ばれてるお前から想像しろって言われても……」
「やめてよそれ気にしてるんだから。それに、そんな仕事が僕に向いてるわけないなんて自分でも思ってるしさ。そんなの、他人じゃ君が一番よく知ってるはずでしょ?」
「ま、小さい頃からの付き合いだしそりゃわかってますよそんくらい。親父もあいつは闇払いにゃ向かんっつってたし」
闇払いは古くからある伝統的なもの。本来であれば家業を継いで、その伝統を守っていくのが一番いいんだろうけど。
闇払いは人にとって災厄とも呼べる存在を鎮め、払う存在。危険なところへ自ら飛び込んでいかなくてはならない職業。
生憎、僕には向いてないことだ。
争いごと、勝負事は苦手。腕っぷしは弱い。そんなことより自然のままに身を置くことの方が好き。
こんな僕じゃ、闇払いとしてやっていくことなんて無理ってもんだろう。
「でも、勿体ねぇとも言ってたぜ? ゆくゆくは神社を受け継ぐ俺とお前は親友の仲。家自体も昔から関係が深い。そんな2人が将来的には地域や神様を守っていくなんて未来も悪くねえのになー、ってな」
「確かに、それがベストではあると思うよ? でも、地域を守るとか、神様とか、そんな大きな存在はちょっと荷が重すぎるというか……」
「それ神社の神主の息子である俺にいうかぁ?」
「ごめんて……。それに、僕は身近な家族とか、今自分の周りにある小さな自然とかがあればそれでいいと思ってるからさ」
「のほほんとしてんねぇ相変わらず……。おっとりとしすぎてて逆に心配だぜ親友よ。家業継がねえとなると将来のこととか考えてるんか?」
「これでもしっかり考えてますよ。家の農業手伝うとか、勉強して生物関係の研究者になるとかさ」
我が家には父親がいない。主な収入源は母さんが営む農業と、全国を飛び回ってる姉からの仕送り。そんな家族を近くで支えるのも悪くないと思ってる
いくら「おっとり七瀬」でも、それくらいはちゃんと考えてますっての。親友のあからさまに呆れたような表情に、ムッとしながらそう返す。
「へいへいそうかよ……っと、俺ん家はこっちだから、今日はこの辺でお別れか。お前このあとなんか予定あんの?」
「うん。部活の研究課題、やる予定だよ。田んぼの昆虫の生態の研究、してるから」
「あー、生物研究部だっけ? じゃあ俺も混ぜてくれよ。何やってんのか気になるわ」
「オッケー。じゃあ帰ったら僕の家まで来てよ。家の田んぼでやる予定だからさ」
「了解、んじゃまたな」
お互いにそんな言葉を掛け合い、一度別れる。
賑やかな友人が隣からいなくなったからか、帰り道がより静かに感じる。
ここは都市に比べたらそこそこ田舎だから、そこかしこに森や畑、田んぼがそれなりにある。それがのどかで穏やかな雰囲気を生み出している。僕はそれが、たまらなく好きだ。
都会にはあまり出たことがないからわからないけど、僕にはこうして、のどかに、のんびり暮らす方が性分に合っている――――――、なんて呑気に考えていた、その時。
「っ……。今日はちょっと風が強いな」
一際、強い風が吹いた。
今は六月上旬。初夏の風が心地よい……、はずなんだけど。
「なんだろ今の風。なんか、妙に胸が」
ザワつく。
そう直感した。
気づけば、家に向かって走り出していた。根拠はないけど、何か良くない事が起こっている気がしたから。
ここから家まではそんなに遠くない。だから、走れば3分くらいで着いてしまえる。
急ぐ気持ちそのままに、駆け込むように思い切り家のドアを開けた
「ただいま母さん――――――って、いない? もしかして田んぼの方かな?」
急いで、裏手にある田んぼに向かう。
庭を抜けて、そこそこ広い田んぼが目に飛び込んでくる。
そしてその手前には、人が倒れていた。
間違いない。あれは――――――!
「母さんっ!?」
うつ伏せに倒れている母さんの前まで駆け寄り、抱き抱える。
外傷はない、けど意識もない。息はあるけど、ゆすっても全く反応がないのだ。これは……、まずいかも知れない。
「と、とりあえず救急車を――――――」
呼ばなきゃ、そう思って携帯をポケットから取り出した、その時。
何かに弾き飛ばされるような衝撃を、手元に感じた。
「――――――っっ!!??」
痛みで一瞬、動きが止まる。
鈍い音が後ろで聞こえてそこに視線を向けると、粉砕された、僕の携帯があった。
「く、そ。何が……」
起こってるんだ。そう心の中で呟くのと同時に、
「やっと、来た」
そんな声が聞こえた。
反射的にそちらに体を向ける。
「やっと来たよ、ミカ姉。あれが……」
「うん、闇払いの一族、日ノ下家の嫡男。ここら辺に住んでるとは聞いてたけど、まさか見つけられるとは、思ってなかったかな」
黒い衣装を着た、女性が2人。
スレンダーな体型で、瑠璃色の髪色をした美女。双子なのか、瓜二つの見た目をしている。
でも、今はそんな事、どうでもいい。
僕が気になっていることは、別にある。
「ねぇ、まさか、君たちが母さんを――――――」
「あぁ、そこの女? ちょっと抵抗してきたからおねんねしてもらっただけ。命に別状はないよ。最も」
「いつ目覚めるかは、私達にもわからないけど、ね」
その言葉を聞いた瞬間、彼女たちに向かって飛びかかっていた。こいつらが、母さんを。そう思うとじっとしてなんていられなかった。でも、
振り上げた拳は、あっけなく受け止められる。
「……遅いし、軽すぎ。避けるまでもないよ。足はちょっと速いみたいだけどね」
「なんだ、この程度なら私が出るまでもないね。ルカだけで十分そうだ。ほら、はやくやっちゃってよ」
「解ってるよ……ふふ」
僕の拳を掴んでいる方の女性は、そう、嘲笑うような笑みを浮かべた。
その、次の瞬間、
――――――何かが腹を、貫く感覚。
沸騰するような、焼けるような激烈な痛みを感じてそこを見ると、
黒い何かに、僕の腹部は貫かれていた。
「ぅ……、ぁ――――――!」
そんな情けない声と共に赤い血がとめどなく流れ、僕はその場に倒れ込む
「うわ
「まぁ、もうちょっと徹底的にやっとくべきだとは思うけど、変に目立ったら厄介だし、ほっといてもこのまま死にそうだから、こんなところでいいんじゃないかな」
血が抜けていって、体が重く、冷たくなっていく。
意識が遠のく。そんな中、彼女達の姿を、僕は必死で捉える。
「それに……、どうせ運良く生き残ったところでこの子、そんな脅威でもないでしょ。だからほら、もう行くよ。ルカ」
「ちぇ、消化不良。でも偶然闇払いの一族を見つけられて、サクッと数を減らせたんだから、まぁラッキーか。あーあ、早く帰って寝よ」
そう言い残して、彼女達は闇に紛れるように、姿を消した。
「く、そ……。ま、てよ。ま……って――――――」
手は、虚しく空を切る。
情けない限りだ。家族を、身の回りのものを守れればそれでいいなんて軽々しく言ってた数十分前の自分をぶん殴ってやりたい。
痛みと、感覚と、意識が遠のく中、僕は確かにこう思った。
「身近な存在、も、守れ、ない、くらい……、弱かったっ、て、こと、かぁ……」
流石に悔しいなぁ、これ。なんて。
そう、心で呟いて。
僕の意識は、深い闇へと落ちていった。
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