第5話

 昼休みになってようやく、呼び出された親たちが次々と子どもたちを引き取りにやってきた。

 スメラギも美月も黙ったまま、いじめグループはそれぞれが勝手なことをわめきたてるだけで、何故、誰が騒ぎを引き起こしたのかということは、その場にいなかった担任や角田には何ひとつわからなかった。教師ですらそうなのだから、学校から連絡を受けてかけつけた親には、何が何だかさっぱり事情がのみこめていない。どうやら子どもたちがケンカしたらしいとだけ聞かされた親たちは、スメラギをちらりと見て、眉をしかめた。その視線はあきらかにスメラギの白髪へと向いていた。

「ウサギ、大事に面倒みてただろ?」

「……」

「ウサギを殺したの、あいつらだろ」

「……」

「いいのかよ、勝手なこと言わせておいて」

 母親たちに連れられて帰っていく生徒たちは、口々にスメラギの悪口を言っているだろう。アイツ、銀髪に染めててさ、いっつも紫色の変なメガネかけてて、目つき悪いし、気持ち悪いんだよ、今日はウサギを殺して、食べろって言ってきてさぁ、そんなの食べるわけないじゃん、そしたらいきなり殴りかかってきてさ―

 何だか気にくわないヤツだから、そいつが大事にしていたウサギを殺してやったんだという真実を口にする生徒は、誰ひとりいない。白髪、紫色のメガネをかけたスメラギの外見を目にした親たちは、あんな格好の子だから問題を起こすんだと、スメラギを色眼鏡で見てしまっていた。

 スメラギの凄みに負けて、担任と角田に何を聞かれようと一切口を開かなかった美月だったが、今になって悔しさがこみあげてきた。黙っているスメラギにも腹がたった。黙っていたら、言いたい放題言われるばかりではないか。どうしてスメラギは、いじめられていたこと、かわいがっていたウサギを殺されてカっとなってしまったことを言わないのか。

「黙ってないで―」

 何とか言ったらどうだ、と続けようとしたのを、スメラギがさえぎった。 

「ウソつきは閻魔に舌抜かれるんだぜ」

「エン…マ?」

「地獄の閻魔王。だから、あいつらには言いたい放題言わせておくさ」

 ウソつくと閻魔様に舌を抜かれるわよ ― たしか、母親が幼い頃にそう言ってウソをつく美月をたしなめた。怖がらせてウソをつかないようにしようという躾の一環だと今はわかっているが、スメラギはどうやら閻魔王の存在を本気で信じているらしい。くやしまぎれとも冗談ともとれない口ぶりで、ネコやイヌのように珍しくもないもののように閻魔王の名をさらりと口にした。

 応接室に並んで立たされたまま、親の迎えを待つ美月の隣に立つスメラギは、中学1年生にしては背が高く、身長だけでいったら高校生に見られなくもない。いつもどこか宙をみすえる遠い目をしているせいで大人びてみえたスメラギの横顔が、今日に限っていたいけな子どもにみえた。閻魔王がいるなんていう話をするからだ。今時の子どもだって信じていない閻魔王の存在を信じているスメラギが、美月にはどことなく愛おしく感じられた。

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