大文字伝子が行く107

クライングフリーマン

大文字伝子が行く107

 ======== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

 大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

 斉藤理事官・・・EITO創設者で、司令官。

 一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。

 草薙あきら・・・警察庁情報課からのEITO出向。民間登用。ホワイトハッカー。

 渡伸也一曹・・・陸自からのEITO出向。

 青山たかし警部補・・・元丸髷署生活安全課所属。退職した後、EITO採用。

 増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

 金森和子1等空曹・・・空自からのEITO出向。

 早乙女愛警部補・・・警視庁白バイ隊からのEITO出向。

 大町恵美子1等陸曹・・・陸自からのEITO出向。

 田坂ちえみ1等陸曹・・・陸自からのEITO出向。

 馬越友理奈2等空曹・・・空自からのEITO出向。

 安藤詩3等海曹・・・海自からのEITO出向。

 浜田なお3等空曹・・・空自からのEITO出向。

 日向さやか1等陸佐・・・陸自からのEITO出向。

 飯星満里奈・・・元陸自看護官。

 稲森花純1等海曹・・・海自からの出向。

 新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からのEITO出向。

 結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。

 物部一朗太・・・伝子の大学翻訳部同輩。当時、副部長。

 物部(逢坂)栞・・・一朗太の妻。伝子と同輩。

 南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。

 愛宕寛治・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。階級は巡査。後に警部補。後に警部。妻はEITO出向の、みちる。

 南原蘭・・・南原の妹。

 南原(大田原)文子・・・南原の押しかけ婚約者だったが、結婚。

 福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。

 福本祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間で、福本の妻。

 福本明子・・・福本の母。

 福本日出夫・・・福本の叔父。

 服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

 服部コウ・・・服部の妻。

 久保田管理官・・・EITO前指揮官。あつこと結婚した久保田警部補の叔父。

 久保田警部補・・・あつこの夫。

 河野事務官・・・EITO作戦室勤務。主に警視庁との連絡係をしている。草薙同様、民間登用。

 吉田支配人・・・やすらぎほのかホテル伊豆の支配人。

 中津健二・・・中津興信所所長。警視庁中津警部補の実弟。

 筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。伝子と一時付き合っていた。警視庁副総監直属の警部。



 ==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==


 午前10時。やすらぎほのかホテル伊豆。

 服部はギターを持って、コウと、ホテルを出て川津桜を見に出掛けた。

 「オトロシアがオコルワナに侵攻して1年か。早いね、コウ。」

 「ええ。早く終って欲しいわね。ねえ、この辺でいいんじゃない?今日は私に歌わせて。」

 「いいよ。僕が伴奏しよう。」

 2人は桜の木の下で歌い出した。


 遠い世界に 旅に出ようか

 それとも 赤い風船に乗って

 雲の上を 歩いてみようか

 太陽の光で 虹を作った

 お空の風を もらって帰って

 暗い霧を 吹き飛ばしたい


 ボクらの住んでる この街にも

 明るい太陽 顔を見せても

 心の中は いつも悲しい

 力を合わせて 生きる事さえ

 今ではみんな 忘れてしまった

 だけどボクたち 若者がいる


 雲にかくれた 小さな雲は

 これが日本だ 私の国だ

 若い力を 体に感じて

 みんなで歩こう 長い道だが

 一つの道を 力のかぎり

 明日の世界を さがしに行こう


 回りで聞いていた、花見客から拍手が起こった。

 と、突然、コウを目がけて突進して来た男がナイフでコウに切りつけた。

 コウは咄嗟に避けたが、左腕を負傷した。

 花見客の一人が、その男を取り押さえ、他の見物客が110番をした。

 午前11時。伊豆島田病院。コウの病室。

 やすらぎほのかホテル伊豆の支配人吉田が見舞いに来た。

 「服部様。とんだ災難でございましたねえ。東京の依田支配人からも大文字様からもご心配の声をお聞きしております。ささやかでございますが、お見舞いでございます。」

 服部は、「それは、どうもご丁寧に。先輩にも依田さんにも一報は入れてあります。容態に変化があればお知らせ致します。それと、宿泊ですが・・・。」と、言い淀んだ。

 「料金はご心配なさらずに。お部屋は引き続き利用頂けます。」吉田は短く頭を下げ、出て行った。

 中津健二が入って来た。「どうも、お久しぶりです。実は、たまたま仕事に来ていたら、出くわすことになりました。奥さんも歌、お上手ですね。」

 「ええ。音楽の教師をやっていたことがあるんですよ。」

 「成程。それで、奥さんが挿された後、そっと離れた不審な人物がいたので、こちらの掛布刑事に写真を提供しました。」

 中津と一緒に入って来た、掛布刑事が挨拶した。

 「伊豆島田署の掛布です。実は、中津さん以外にも目撃者が多数いて、あの男は、直前に時計を見ていたそうなんです。挿す前までは大人しくしていて、挿す瞬間は何か喚いていた。違和感があります。ご主人は、喚いていた言葉を判別出来ましたか?」

 「多分、『これで恨みが晴らせる』、そう言ったんだと思います。どこかの訛りがかなり強かったと思います。」

 「私にも、そう聞こえました。」腕を押えながら、コウが言った。

 「顔見知りでしたか?あの男と。」と掛布刑事が尋ねると、「いいえ。恨まれる覚えもありません。」と、コウは応えた。

 正午。伝子のマンション。

 「コウは、恨まれて挿されたんじゃない。テラーサンタに踊らされた男に挿されたんだ。」伝子はカレーライスを頬張りながら言った。

 「服部さん、ショックだろうね。作曲のコンテストに入賞したお祝いの小旅行だったのに、台無しだ。」高遠は言った。

 「池上先生のルートで確認したが、明日は退院出来るらしいが、養生はした方がいいそうだ。ヨーダが掛け合って、宿泊費は無料にして貰ったそうだ。ホテルのPRソングを提供して貰う代わりにな。」「ヨーダにしては、上出来だね。」「ああ、褒めてやっていい。」

 「ありがとうございます、先輩。」側に依田が立っていた。

 「いつの間に?チャイム鳴らせよな。」と言った伝子に、「ちょっと、様子見てきますよ、先輩。」と依田は言った。

 「ああ、頼む。ついでに川津桜の写真、撮ってきてくれ。」「了解。」

 依田は出て行った。

 午後1時。EITOのPCが起動した。理事官が映っている。

 「服部夫妻は災難だったな。お見舞い申し上げる。中津興信所の中津健二から提供された写真と、周囲にいた人達の証言から、この件は、テラーサンタ絡みの事件ということで、EITOの預かりとなった。警視が、奴のヤサに向かったよ。」

 「コウに直接恨みがないとして、奴は、殺傷することで誰かへの恨みを晴らした積もりなのかも知れませんね。」

 伝子に続けて、「理事官。その恨みの対象はもう亡くなっているかも知れませんね。」と高遠は言った。

 「では、君たちは『憂さ晴らし代替殺傷』事件だと言うのだね。闇サイトの特徴か。」と、理事官は言った。

 「今回は、ナイフを提供され、誰でもいいから、この時間に挿せと唆されたか。厄介だな。類似事件は多発しそうだ。」

理事官の懸念は当たった。都内5カ所で、ナイフや銃で誰彼構わず襲う事件が起こったのだ。EITOにも警視庁にもクレームが寄せられた。理事官はコウの事件は伏せておいた。コウの事件は静岡県だ。被疑者が都内の人間だとしても、危険なのは全国区だと騒ぐ連中がいるに違いないからだ。

 警察署は、どの署でも頭を抱えた。直接の怨恨ではない怨恨事件で、未然に防ぎようがない。加害者が特定出来ないからだ。

 御池都知事は、緊急記者会見で、外出自粛を呼びかけた。そして、もう囮しか方法がない、と久保田管理官と斉藤理事官は決断した。

 翌日午前10時。コロニーの後、廃校になった小学校の運動場。

 ある男が、椅子に座らされ、手足を縛られている。

 その横には、ある男が拳銃を持ってたたずんでいる。その男の隣に一組の男女が立っている。

 そこに、ヤクザが野球のユニフォームを着て、野球道具を持ってやって来た。

 「お前らか。俺達を呼んだのは。俺達は忙しいんだ。ヤクはどこだ。」

 ヤクザの組長の言葉を受け、「この人達の兄弟を、ここにいる元校長とつるんで、あの世に送ったのは、お前らか?」と拳銃の男は言った。

 「何言ってんのか、分からないな。あんた、頭が悪いのか?」組長は言った。

 「この2人に、ここに座っている男と、お前らを葬って欲しい、と頼まれてね。言わば、正義の味方だ。」

 どこからか、運動場に那珂国人の集団が現れた。

 「取り敢えず、そいつらからやっちまえ!」拳銃の男は言った。

那珂国人の集団が、ヤクザ達を襲おうとした時、「ちょっと待ったあ。」と、伝子率いるエマージェンシーガールズが現れた。

 戦闘が始まった。実質的にエマージェンシーガールズにヤクザの集団を加えた集団が那珂国人マフィアと対決したが。わずか30分で終了した。

 形勢不利と見るや、拳銃の男は、縛っていた男に拳銃を向けたが、いない。

 依頼してきた男女もいない。拳銃の男は、いきなり手刀で拳銃を落とされた。

 そして、今度は拳銃の男が椅子に縛り付けられた。

 時間を遡ること19時間前。午後3時。公安が用意した民家。

 PCの前で、天童と副島が座っていた。

 「引き受けてくれるんですか?」と天童が言い、「恨みを晴らしてくれるんですね、間違いなく。私たちも現場に言っていいですか?見届けたいんです。」と副島が言った。

 「ああ。大丈夫だ。お前達が殺したがっている校長は、お前達が始末しろ。拳銃は用意する。ヤクザ達はちょろいもんだ。楽しみにしておけ。」合成音声は途切れ、画面が切れたので、天童はPCをシャットダウンした。

 「はい。カット。上手いなあ、皆。」と利根川は感心した。PCの陰から利根川と福本と祥子が出てきた。

 「無音で話すって難しいわね。大文字も変なことをさせる。」と、副島は言った。

 「いや、なかなか面白かった。器用ですな、福本さんも奥さんも。」と、天童も感心した。

 「まさか、吹き替えやらされるとはね。高遠も、よくこんなこと思いついたもんだ。」と、福本は言った。

実は、画面に向かって話していたのは、副島と天童ではなく、福本と祥子だった。

現在。小学校の運動場。

 エマージェンシーガール姿の伝子がやって来た。

 「実は、あんたを呼び出したかったんだよ。リヴァイアサンバージョン2の使い手の使い魔、いや、枝さん。テラーサンタのお気に入りの枝さん。」

警察官姿のあつこがやって来て、拳銃の男のロープを解いた。

 拳銃の男は、開放されたと勘違いして、「ありがとう、婦警さん。」と言った。

 あつこは、男に往復ビンタをした。「もっぺん、言ってみろ!」と襟首を掴んで凄んだ。

 警察官姿で来ていたみちるが、「ダメよ、そんなことしちゃ。」と言った。しかし、金蹴りを食らわした。

 「貴女たち、乱暴ねえ。」と言って、なぎさは、男にアッパーカットを食らわした。

 なぎさは、男を抱き起して、「何か忘れていない?」と、あつことみちるに言った。

 「あらやだあ。」と笑って、あつこは男の左手に手錠をかけた。

 「あらやだあ。」と笑って、みちるは男の右手に手錠をかけた。

 そして、2人は、手錠のかかっていない方の輪を持って、男を引きずって、去って行った。

 鈴木校長は、言った。「今見たのは、何だろう?コントかな?」

 横から天童が言った。「気のせいです。」副島が同調して言った。「気のせいです。」

 増田がやって来て、「アンバサダー。久保田警部補から連絡です。」と、伝子にスマホを渡した。伝子はスピーカーをオンにした。

 「リヴァイアサンバージョン2の闇サイトのヤサ、詰まり、そこに行った藤島太郎のヤサを押え、闇サイトを閉鎖しました。」

 エマージェンシーガールズが歓喜している所から離れた所に、窪内組組長が久保田管理官と話していた。

 「お前達の『矜持』に頼って助かったよ。」「旦那。この後、折角だから野球して帰りたいんだが。」「野球が好きなんだな、本当に。もうヤクザ閉業しろよ、って言っても無理か。地主には言っとくよ。でも、あの片付け隊が撤収してからだぞ。」

 警官隊が逮捕連行した後、地味な格好をした、男達がトラックで登場した。

 「え?闘いの後、片付けしてるんですか?」「ああ。専門チームがいる。そんなに散らかっていない時は、エマージェンシーガールズ自身が行う。」

 聞いていた組員達が、シューター等の片付けを手伝い始めた。

 「ボランティア活動か?やっぱり、もう足を洗えよ。」と、久保田管理官はぼやいた。

 筒井がホバーバイクで、伝子の近くに来た。

 「やっぱり、スナイパーはいなかった。テラーサンタは、奴を見限ったな。」と筒井は伝子に言った。

 「今、総理に報告したところだ。リヴァイアサンバージョン2の脅威は去った、と。」と、伝子は笑った。

 正午のチャイムが、どこかで鳴った。

 伊豆島田病院。服部の病室。

 蘭と南原夫妻がやって来た。「コウさん。今、全て終ったと、先輩が連絡をくれました。」と、南原が言った。

 服部が歌い出した。


 ―完―


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