第二話「わたし本当おバカだよね?」

 結論から先に伝えることが正解なのか。実際のところ自分でもわかんない。


 ビジネスの世界なら当前とされてるね。回りくどいのが苦手な関西人だし。

わかりやすい説明が最初に求められるの。前提になる共通の基盤も必要だね。


 なるべくなら一言にまとめて説明する。冒頭から伝えたい言葉で始まりだ。

とんとん拍子に流された成り行きだから。どこかしら引用違いの感じもする。



 人生すべて成り行き任せみたいなもの。金髪で赤スーツのクイズ芸人さん?


 どこかでインタビュー記事を読んだよ。なんとなく自分に似てたんだよね。

あらゆることに自然体で執着しないひと。他人の評価を気にせず無欲でいる。


 自分がやれないことは気軽に口にせずやりたいことをやりたいようにやる。


 常務理事の個別面談。いろんな意味で長くなることから選択肢も増加した。


 わけがわからないよ。笑いながら退職を選択させる上司なんてありえない。

ひとりでも生きられる。一人でも多くのひとを助けるため闘って生きるんだ。


 そんな生き方もある。福祉的な意味あいで共生社会の実現にも近いのかな。

オリンピックは表世界。肉体と精神のバランスを高め文化と教育に融合する。


 ローマで始まる裏のパラリンピック。インクルーシブ社会の実現が目標だ。



 環境を整えるんだ。共生社会の実現を目指すバリアフリー。多様性の実現。

なにも問題ないから幸せだと断言できる。そんなひとはきっと少数だと思う。


 それぞれが違う悩みを抱えての妥協……受容することから社会は成立する。


「嫌味じゃなくてこの病院に君がいる。それだけで助かるひとも少なくない。

それでも断言しよう。辞めることで助けられる数は倍増どころじゃなくなる」


 常務はなにがいいたいんだろう。わたしが認められていないわけじゃない。


「先の謝罪で申しわけない。優子さんに生い立ちから一部始終を聴いたんだ。

心中まで見えるわけもない。それでもごく一部にせよ見えるものはあるから」


 双眸が優しいから本気かもしれない。隣の美女も微笑みが増した気がする。



「最初に伝えたが選択肢は少なくない。それに答えは一つだけじゃないんだ」


「流されつづけた人生。そう周囲には見えますよね……ゆうこりん優しいし。

ほんとは主体性なんてない成り行き任せなんですよね。後悔したこともない」


 天使みたいな妹がいて優しく導いてもらえる従姉がいた。恵まれた人生だ。


「その都度やりたいと感じることをやりたいようにやる。幸せな人生だよね。

それでも捨てたものはすくなくないはず。別の可能性もあったかもしれない」


 恵まれた体格。高身長で誘われたバレーボール。プロに届かないレベルだ。


「バレーボールは趣味です。その道を極める才能もない。妹のため頑張れた。

世話になった優秀な従姉を助けたかった。皆さんの助けがありきの合格です」


 なんとなく考えた。勇者の記憶が芽生えたけど……プロにはなりたくない。



「ケアマネージャー。人口の多い大阪でも有資格者は圧倒的に足りてないよ。

専門性の高さが看護師より上で受験要件は厳しい。成り手が余りにすくない」


「そうかもしれません。看護職が取得しても相談員。福祉の現場にでません」


 医療にまつわる国家資格。取得してから五年間の実務経験は半端ないよね。

若いうちに取得したいと考える。そんな医療の関係者がいたとしても難しい。


「厚生労働省にはそれなりツテがある。正確な数字を聴いて笑えなかったよ。

ここ数年に絞って……二十代は四桁に届かない。つまり減少することになる」


 そんなの当たり前だよね。昨今の状況だから男は最初から除外するにせよ。

女だらけで一番厳しいのが介護士。介護福祉士になるのも実務経験は三年だ。



 そもそも介護業について実務三年。まともに務められる若い女はすくない。

わたしの高校……同期卒業生も同じ。業界人は数えるほどしかいなくなった。


 結婚して子育てなら復帰できる可能性はある。でも過半数はそうじゃない。


「厚生労働省にもお願いしてくださいよ。なりたくても厳しすぎる現状です。

それに試験は難しすぎる内容で八割正答率。忙しい仕事の合間に難しいから」


 仕事と勉強の兼ねあい。合格した自分だからグチになるのも許してほしい。


「介護士看護師。ともに離職率の高さでも他の職種と比較するとすぐわかる。

そもそもの問題として現場。職場の環境づくりに取り組むべきかもしれない。

言葉づかいもそれでいいからね。お互い本音で話すほうが後々のためになる」


 ニヤリと口端をゆがめて発する言葉。嫌みのないイケボイスが胸に届いた。



 しくったじゃん。難しいからはまんまのタメ言葉じゃん。わたしバカだよ。

「常務すみませんです。大阪下町生まれなんで……もちろんご存じですよね」


 正面の二人は微笑みを崩さない。いずれ親戚になる相手だから問題ないか。

なんとなく常務と秘書が謎すぎる。おバカなわたしになにをさせたいのかな。

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