異世界転移してしまった俺はジョブクラス・ノーティラスで無双する 〜美少女クラーケンとヤンデレ船精霊と共に行く異世海冒険記〜

藤平クレハル

第1話 家に帰るまでが遠足です

「まあ、遠足じゃなくて修学旅行中だけど」


 おっと急になんの話だと思うだろうから、説明させて欲しい。


 俺の名前は海央守かいおうまもる、高校二年生。今は修学旅行の真っ最中で、豪華客船ってやつの上にいる。金持ちやエリート共の多い進学校だけあって行き先が海外だったこともあり、本当にちょっとした旅行だ。


 ちなみに、俺の家は特段金持ちとかではない。けど親戚が貿易や旅行を手掛ける会社ということもあって、客船や船旅そのものには馴染みが深かった。大きな声では言えないが、子どもの頃から色々乗らせてもらったものだ。


「おーい、なにしけたツラしてんだよ守。もう後は帰るだけなんだし、最後の船旅を楽しもうぜ!」

「うっせーな。景色を楽しんでるんだよ、ほっとけ」


 甲板で一人黄昏ていると、クラス一明るく賑やかな陽キャラ、成瀬輝なるせあきらが話しかけながら肩を組んできた。成績優秀でスポーツ万能でイケメンというパーフェクト人間で、男女問わず人気を集める太陽のようなヤツだ。


 輝とは小学校の頃からの付き合いで、いわゆる幼なじみなんだが、俺はコイツの明るさが少し苦手だったりする。


「にしてもめっちゃ楽しい修学旅行だったよな!」

「まあ、結構楽しめた方かな。珍しい景色とか、美味い物も食べれたし」

「なんだよ〜、みんなとの思い出だってあるだろ?」

「はいはい、そうだな」


 途中完全に一人で歩き回っていた身としては、耳が痛い話だなあ。集団行動って苦手なんだよ昔から。


「あ、そうだ。レクリエーションルームでビンゴゲームやるから、守も来いよ。めぐみも来て欲しいって言ってるしさ」


 恵とは俺と輝の同級生であり、もう一人の幼なじみの女子だ。賑やかに騒ぐのが大好きなやつで、輝とは特に相性が良かった。


「俺はいいって。海眺めてたいからさ」

「んな寂しいこと言うなって〜」


 完全に善意からの申し出なんだろうが、あまりしつこいと嫌われるぞ人気者め。


 ひねた感想とともにため息を付きつつも、まあ付き合ってやるかと甲板を後にしようとした俺の目は、船の進行方向に釘付けになった。


「な、なあ輝」

「どうしたんだよ、守」


 幼なじみの肩を叩いて、今自分が見ている方角へと振り向かせる。


「霧か……?」


 そうだ。船の進む先には、奥をまったく見通せないほど濃い霧がかかっていた。


 別に海で霧が発生すること自体は珍しくない。気温の変化なんかでよくあることだ。だけど問題なのは、さっきまで海の上は晴れていたし、ここら辺の温かい水温で海の霧が発生する可能性は低いだろうってことだ。


「まあ、ほっとけば霧なんて晴れるんじゃね?」

「いや…なんかおかしいって。ちょっと乗務員に確認してくるよ」

「あっ、おい」


 輝の静止を無視して、船のインフォメーションカウンターへ走る。そういえば、こんなにスムーズに船内を走れるのもおかしい。


 船速二十二ノット、時速四十一キロメートルほどで進む船内は全く揺れないなんてあり得ないはずなのに、揺れが一切ない。つまり前に進んでいるのかもわからない状況ってことだ。


「どうなってるんだよ、一体…」


 同じくこの異常に気付いている他のクラスメイト達でざわつく船内を駆け抜けて、俺は船首手前の最上階にある操舵室ブリッジにたどり着いた。


 一般客は場所すら知らず立ち入らないエリアだが、趣味の延長線上で船の構造図を見たことがある俺なら近くまではいける。ここなら事態を把握しているスタッフがいるはず、そう思ってクルー室を探した。


 だが。


「なん、だ、これ…?」


 そこに広がっていたのはとてつもなく異様な光景だった。


 数えきれない程のスタッフが折り重なるようにして、通路のそこかしこにバタバタと倒れている。生きているのか死んでいるのかパッと見ではわからない。


「まさか有毒ガスが漏れたりとか…、いや、そんなまさかな」


 とりあえず一番近くで倒れている人を揺り起こそうと手を近づける。


「!?」


 ここですぐに触れなかったのは我ながらナイス判断だったと、後になって思い返す。


 なにせ、触ろうとしたスタッフの体が急にドロッと溶けたかと思えばサラサラとした粒子に変わってしまったのだから。


 あり得ない。異常事態過ぎる。


 慌ててみんなと合流しようと一般区画に戻ると、そこでは更なる異変が起きていた。


「うわぁあああ! く、来るなよぉあ!?」

「なんなのよこれぇっ!」

「おい冗談だろ……」


 逃げ惑う生徒と、そこに群がる大量の――――カニ。それも普通のサイズじゃない。人間に楽々覆い被さることができる程にバカでかい。もはやモンスターだ。


 うっかり窓の外に視線をやると、そこにも巨大カニがびっしり張り付いている。まるで悪夢。しかも。


「って、どうしてこっちに来るんだよっ!」


 他の生徒に群がっていたカニ共が、俺の姿を見るや否や一斉に襲ってきやがった。俺がなにしたっていうんだ!


 そう愚痴ったところで、聞いてくれる人間なんて誰もいない。


 慌てて船内から甲板に戻る、少なくとも閉所で相手をするよりは目があるし、外の状況もわかると思ったからだ。しかし、その目算はあっけなく外れる。


「は?」


 さっきまで空は晴れ渡り穏やかだったはず。だが、海はこの数分で豪雨と嵐に塗れて無茶苦茶になっていた。そして追い打ちをかけるように甲板に衝撃。


『あら、ここにいたのね!』


 突然頭上からの声。でも今甲板には俺一人しかいない。そもそもこの嵐の中で甲板に出てくるヤツが他にいるわけが。


『やっと見つけたわよ!』

「………………は?」


 声は頭の上からした。ならばと見上げた先で、人の身長など遥かに超える長さの触手がグルグルととぐろを巻いていた。


 その奥に煌めく人の頭サイズの二つの目と、船を覆うほどの巨大な三角のやじりのような頭部。コイツを俺は知っている。爺ちゃんに教えてもらったことがある、物語にだけ出てくる想像上の怪物。そのはずなのに、今実際に目の前にコイツは存在している。


「クラーケン……!!?」

『にゃはは、その通りよ。よく知っているじゃない。さすがね!』


 見た目の不気味さなんて全く置いてけぼりにする、圧倒的に能天気な明るい声。


 うむ。クラーケンが喋りかけてくるわけがない。こんなの夢だ。いつの間にか疲れて寝てしまっているだけで、目が覚めたらもう日本の港に着いているはず。そうに、決まってる。


 現実逃避気味に天を仰いだが、異変は終わらないどころか、次の瞬間、天から目も眩むような閃光が降り注いだ。

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