8. デスマーチ・プロジェクト

「…………」

 キーボードを叩く音が止んだ。

 イヤホンをしていた者も皆それを取って、PMの方を見ている。

 俺はというと目をぱちくりとして、「は?」と思わず口にしてしまった。

 有り得ないだろ、この間までピンピンしてたんだぞ。

「今朝トラックに轢かれたらしい。彼女独身で身寄りも無くて、スマホだけが無事だったんで連絡先を漁ったら私が一番最初に出てきたらしくて。それで確認してほしいって」

 PMは顔を覆った。

「……冗談でこんな話はしないよ?」

 分かっている。冗談にもならないし、冗談だとしたらぶん殴るレベルの不謹慎話だ。

「……じゃあ、本当に?」

「うん……。上には後でメールするけど、もしこっちに来るようなことがあれば頼むよ。浅川署だから……林場か。あっちの方行ってるから、うん」

 そう言ってPMはタタタタタと慌てて出ていった。

 バタン。

 乱暴にドアが閉められ、それを皮切りに辺りが騒然となった。

「マジかよ」

「ムリナが!?」

「ホントだ、トラックの事故だって」

 ネットの記事か何かを見ながら皆がザワザワとしている。

 頭がクラクラする。――ムリナの事は変な奴だとは思っていたが悪くも思ってはいなかった。同僚として、プログラマー、いや、システムエンジニアとしては尊敬するレベルだった。サササと実装を考えてパパパと実装するその速さと正確さは恐ろしいものがあった。普段の勤務態度はそりゃちょっと特殊というか変な奴だと思うところではあったが、しかし、それと釣り合う実力は持っていた。

 それが急に居なくなるのは、驚くというか、呆然するしかなかった。

 今までも突然人が変わるという事はあった。人員の入れ替え。時期と予算の都合でそんな事はままあるもので、そこまで気に留めるでもなかった。が、全く会う事が出来なくなるわけでは無い。また別の現場では会うこともあるかもしれない、その時は挨拶しよう、くらいの気持ちであった。

 理那は違う。二度と会えない。

 そして、正直不謹慎かもしれないが、それ以上の問題が今目の前に一つある。

「……ねえ、裕二さん」

 横の梨花が話しかけてきた。

「……なんだよ」

「……これどうするんです」

 これ、と言って彼女はディスプレイ上のゲーム画面を指差した。原因不明のバグが残された、ゲームの画面を。

「…………俺も今それを考えていた」

 どうするんだよコレ。

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