7. 現実世界に戻りまして
「ダメだぁっ!!」
俺は立ち上がりながらキーボードをババーンと叩いた。別に楽器の方のキーボードでは無いので音が鳴り響くことはないが、俺が打ちやすいからという理由で使っている青軸キーボード特有のうるっさい打鍵音が鳴り響く。
周りのプログラマーデバッガーSEその他の視線が集まる。が、誰も口にはしない。何やら温かい目というか、気持ちは分かるがもう少し静かにしてね、という目だ。俺はいそいそと座りキーボードの位置を整え――どうすればいいか分からなくなって頬杖をついた。
「全くわからん。なんで滅亡するんだ」
あれから四回程プレイを繰り返した。が、やっぱり二日経過すると滅亡する。一応挙動は変化している。悪役のお嬢様キャラの処遇が変わったり。ある周回では突然土下座したりしたし、発狂して刃物を振りかざしたりもした、AIの思考によるものなのだろうか。でも結局滅亡した。
そもそもなんで滅亡するのか、そこが全く掴めない。ループする三日という範囲内で、プレイヤーが出来ることは限られている。悪役の追放がチュートリアルみたいなものなのだから当然である。そのチュートリアルが終了するとゲームオーバーになるわけで、そんなゲーム売れるわけが無い。色んな意味で。何とか直さねばならない。
しかし、取っ掛かりが無い。バグらしき兆候も挙動も無いせいで、何が悪さしているのか全く理解が出来ない。
「そっちはどーだー」
梨花に尋ねる。
「あー、そのバグに関係するかは分からないですけど、別のもんを見っけました」
「別のバグか?勘弁してくれ」
「バグ……なんですかね、これ」
意味がよく分からない。俺は梨花のディスプレイの方へと近付いた。
「ムリナが来ないので、出来るだけ調べてみようと思って各NPCの学習内容を確認していたんです。するとこれ」
そう言って彼女はとあるNPC――クレア・シャフィーレのAIの学習内容を開く。
ノイズだらけだ。
データとして読めるものは何もなく、ぐっちゃぐちゃで、稼働させていない今も常に書き換わり続けている。
「なんだこりゃ」
「分からないです。分からないけれど、どうにも挙動がおかしいように見えたので、データのバックアップ取って一度リセットかけようとしたんです。でもダメでした。すぐにこの状態に戻るというか、リセット命令自体受け付けていないようなんです」
「そんなことがあるか?プログラムだぞ」
そう言って梨花の言う通り自分でもリセットをかけてみる。マスターの方を弄る事にしてみた。梨花の言う通りに手続きを踏んだが、俺から見ても手順は正しい。誤った事はしていない。だが、データは消えない。
「……あったな」
「はい。この学習内容の書き換わり速度といい、到底通常の挙動とは思えません。が、学習結果だとすればバグでは無いとも言えますし、何とも判断がつかなくて。これが影響しているかどうかは別として、ですけれど、ちょっと設計者に見てもらわないとこれ以上は判断がつかないかなって思ってます」
「そう、だなぁ……。もう、ムリナはまだ来ないのか?」
俺は不在の席を見ながら言う。
と、突然。
「は?はい!?え、あ、本当ですか!?え、えっと、すぐ行きます!!」
上司である小泉啓太PM(プロジェクトマネージャー)が叫び声を上げた。その声には驚愕と同時に恐怖や悲痛の色が濃く出ているように聞こえた。
「どうしました?」
慌ててスーツを着込んで外に出る準備をしている彼に、俺は声を掛けた。
「……お、落ち聞いて着いてくれ」
「あんたが落ち着いて下さい」
「あ、ああ……。いやしかしな、こんな事態全く……、いや、うん、落ち着こう」
すーはーすーはーと深呼吸して、彼は口を開いた。
「理那君が死んだらしい」
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