脳食願望

顎(あご)

プロローグ

キッチンの中、大きな鍋から熱い湯気が立ち上ってきた。黄金色のスープの中で、刻まれたタマネギやニンジン、セロリ達がぷくぷくと踊っている。

陽子はそれを見て満足げに微笑むと、ローリエの葉を一枚、それからレモンタイムも少し、鍋の中へ放り込んだ。アパートの狭いキッチンには、あっという間に爽やかな薫りが充満し、彼女の鼻腔を満たした。


「さて……と」


陽子は鍋の火加減を調整すると、隣に置いてあるレシプロソーを適当な場所に片付けた。そうして空いた場所に透明なボウルを持ってくる。

ボウルの中には薄紅色の物体が入っていた。

形を崩さないよう、ゆっくりとそれを取りだす。

両手に乗ったそれを、少しの間うっとりと見つめると、ゆっくり鍋の中へ沈めた。


鍋がグツグツ煮え始める。

それを聴くと彼女の胸も、言い得ぬ多好感に包まれていくのだった。

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