固執していた男
高校1年の冬…少し暗いけど何故か惹かれる女の子に告白して付き合い始めた。
俺もだけど、彼女は誰とも付き合った事がなかったんだと思う。少しずつ…少しずつ仲を深め、1年かけて恋人らしくなった。
…だけど、高校2年の冬休み明け…彼女はいきなり高校を辞め、連絡もとれなくなった。俺は彼女の家を知らない。彼女が教えてくれなかったから…無理に聞くのも嫌がられそうだと思ったからね。
友人達の励ましもあり、高校3年になる頃には少し立ち直る事が出来た。
高校を辞める直前…冬休み前の彼女はよく笑うようになってくれていたのに…本当に何があったのかわからない。ずっと気になってはいるけど、彼女は友人もいなかったから現状を知る術が俺にはなかった。
1年経った…大学は実家から離れた大学に通っている。高校2年の時、彼女もここを目指していた。もしかしたら会えるかもしれないと少し期待していたけど…大学で彼女の姿を見つける事はできなかった。現実はそう甘くないよな。
…流石にもう諦めたほうが良いのはわかっている。どこにいるかすらわからない彼女を想い続けるのは辛すぎるから…
そう考えていたある日、地元の大学に通っている友人から画像付きでメールが届いた。
近所の公園で見かけた
画像には1歳くらいの子供を抱えた彼女の姿が写っていた。彼女の表情は無表情…子供に対する愛情を一切感じない。撮影した一瞬だけの表情だからなんとも言えないけど…少なくとも俺は彼女のこんな表情を見た事がなかった。
…彼女の事、調べられるか?
ダメ元で友人に頼んでみる。抱いている子供が彼女の子供とは限らないし…辞めた時期から計算すると多分、彼女の子供だとは思うんだけど…
少し時間をくれ
ありがとう。よろしく頼む。
できれば自分で動きたかったけど…大学を休む訳にもいかない。今は友人だけが頼りだ。
ちょくちょく友人から情報が届くようになった。2ヶ月くらい情報を集めてもらい、浮かび上がってきたのは…彼女の子供は彼女の兄との子供かもしれないという事だ。
『…心を病んで大学を辞めた兄がいるらしい』
「…彼女の…お兄さんか…」
『近所の人の話だと、時々暴れているそうだ。怒声が聞こえてくるんだとよ』
「…大学についていけなかったとかか?」
『…大学のサークルで彼女を寝取られた…って話だ』
「…………」
『彼女さん…お兄さんにバラされた後に自殺したんだってよ。ちょっとヘビーすぎて信憑性が無いけど、信用できる先輩からの情報なんだよなぁ…』
「大学って怖いところだよな。俺の通っている大学にもヤバい奴がいるっぽいし…」
『クズサークルの奴らは彼女さんの残した遺書のおかげでほぼ逮捕されたらしいけどな。余罪が馬鹿みたいに出てきたってよ』
友人からの情報をPCで検索すると…確かに記事が出てきた。4年前か…
「…お兄さんは4年前からずっと?」
『ああ。かなり危うい状態らしい。…妹の事が彼女さんに見えているのかもな』
……だから、彼女の子供はお兄さんとの子供の可能性があるって事か…
「……彼女も含め、家族でお兄さんを守ろうとしてるって事か?」
『かもな』
「…そうか」
正直、間違ってると思う。でも…彼女や彼女の家族にとってはそれが正しい事なのかもしれない…
『どうするんだ?』
「…俺にはどうする事もできない…かな」
『…そうだな』
彼女がお兄さんとの関係を受け入れたのなら部外者が口を挟む問題じゃない。兄妹で子供を作る事自体は違法じゃないしな…結婚できないが認知はできるし。本人達の倫理観がそれを許すのならば…不幸って事は無いはずだ。
『まあ…そういう感じみたいだからよ…お前もそろそろ他の相手を探すんだな』
「予想でしか無いけど、俺には彼女の家庭を引っかき回す度胸も無いさ。…本当にありがとうな」
『おう。新しい彼女が出来たら教えろよ?地元に帰ってきた時に祝ってやるからよ』
「プレッシャーをかけるのはやめて下さい。…まあ、そのうちな」
友人との電話を切り、子供を抱いた彼女の画像を見る。やはり…幸せそうには見えないけど…俺との連絡を絶った時点で彼女の中で俺との関係は終わっていたのだろう。できればちゃんと話し合って別れて欲しかったけど…お兄さんとの関係を隠したかったのかもな…
それからは彼女…元カノに対する固執はほとんどなくなった。ちゃんと別れていなかったから新しい彼女を作る気になれなかったんだけど…友人からの情報のおかげで気持ちの整理はついたからな。今は楽しく大学生活を送ってるよ。
一般的な普通の恋愛って簡単そうだけどさ…実際はかなり難しいと思う。障害になるクズなんて本当にどこにでもいるから。大学でも先週まで大人しそうな雰囲気だったのにギャルっぽく変身する女とかいるしな…ただのイメチェンかもしれないけどさ…なんか想像しちゃうよね。
さて…出会いを求めて今日も合コンに行くとしよう。今回の参加費はいつもより高かったから期待してもいいよね?
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