戦う女

 半年ほど前、ずっと片思いだった先輩が彼女と別れたと言ってきた。私は絶好の機会を逃す訳にはいかないと思って先輩を家に招いて襲った。後悔はしていない。むしろ先輩の初めてを奪えた事に満足している。私も初めてだったけど…ずっと我慢してきた想いを抑える事ができなかった。

 私の両親も昔から私の相手をしてくれていた先輩の事を気に入っている。このまま私から離れられないようにして結婚してもらうつもりだ。あまりグダグダ言うなら既成事実を作る事も考えている。……もう作っちゃおうかな?


 「なあ…後輩。何か良からぬ事を考えているところを邪魔するようで悪いんだが…相談がある」


 「…なんすか?今、子供の名前を考えてたんすけど…」


 「…聞かなかった事にする。俺さ…そろそろ進路を考える時期だと思うんだけどよ」


 「そう言えばもうすぐ進級っすね。…ん?先輩って進級できるんすよね?」


 「できるはずだ。俺は自分を信じてる」


 …先輩、成績が割と悲惨らしいから厳しいかも…ん?留年したら私と同学年?是非とも留年してもらわねば…


 「先輩~。進級は諦めて私と一緒に2年生やりましょうよ?」


 「…俺に留年しろと?」


 「私が先輩と同じ学年になったらダーリンって呼んで甘々なスクールライフっすね」


 「…ちょっと待て。メリットとデメリットを考えるから…」


 なんでこの先輩はこんなにチョロくて可愛いのか…もう一押しで本当に留年してくれる気がする。


 「最大のメリットとして…授業中も私とずっと一緒にいられるっす」


 「……お前と同じクラスになる保証が無いんだよな」


 「チッ…意外と鋭いっすね」


 「舌打ちは止めなさい。俺相手ならいいけど癖になると他の人の前でもしちゃうだろ?」


 「…はいっす」


 他の人からどう思われても構わないけど…先輩に嫌われたくないから気を付けよう。


 「同じ学年になったら私が勉強を教えてあげるっす。わからない所は何度でも体に叩き込んであげるっすよ?」


 「体に叩き込むってどんな勉強だよ…お前、成績良かったっけ?」


 「この前の中間で学年10位っす」


 「…下か「上からっす」」


 これでも成績は良い。私は変な性格らしいから友達が少ない。だから家で勉強しているだけだ。先輩と付き合うようになってから勉強する時間が減ったから10位に落ちたけど…付き合う前、1学期の間は5位以上にいた。


 「ん~…お前と一緒にいられるのは嬉しいけどな。俺にも男としての意地がある」


 「…意地っすか?」


 「将来、お前と結婚するなら…ちゃんと卒業して自立できる男になりたい」


 先輩…そこまでちゃんと考えてくれているなんて…無理に既成事実を作るのはやめておこう。先輩とちゃんとした家庭を持って…自然と子供を授かるのを待つとしよう。


 「先輩はやっぱりカッコいいっす」


 「…そうか?」


 「そうっすよ」


 先輩はそれから大学を目指して勉強を頑張った。高校を卒業した後は実家から地元の大学に通っている。独り暮らしだったら同棲してたのに…残念だ。

 同じ高校に通えなくなったのは学校に行きたくなくなるくらい残念だったけど…1年耐えれば先輩と同じ大学に通える。頑張ろう。

 先輩は時間のある時はウチに来てくれたから…なんとか我慢して1年耐えた。



 私が先輩と同じ大学に入ってすぐ…見たくない物を見てしまった… 

 

 「ねえ。私と付き合ってよ…貴方みたいな良い体をした男がタイプなの…」


 「離せ!俺には彼女がいるって言ってるだろうが!」


 大学の構内で変な女が先輩に付き纏っていた…先輩は断っているけど右腕に抱き付かれて逃げられないみたい。…私より大きい。…ほとんどの女は私より大きいんだけど…

 公衆の面前で胸を押しつけるビッチから先輩を助けなきゃ…先輩は全く喜んでない。私にはわかる。先輩はちっぱいが好きだから…


 「そこの糞ビッチ。先輩から離れるっす」


 「は?糞ビッチって…私の事?」


 「先輩は私の婚約者っす。糞ビッチは糞ビッチらしくヤリサーでも入ってればいいっすよ」


 糞ビッチは先輩から離れて私と向き合った。なんか怒ってる。


 「…失礼すぎるガキね。アンタみたいなお子様が婚約者?あり得ないでしょ」


 「誰がお子様っすか」


 「背は低いし胸も無い。大学に迷い込んだ中学生じゃないの?」


 「立派な大学生っすよ。先輩はちっぱい好きなんす。私の胸に赤ちゃんみたいに吸い付いてくるのが好きなんすよ」


 「ちょっ…何言ってんだ!」


 「ふ~ん。小さいから吸い付くしかできないだけじゃないの?」


 「…ちなみに体も小さいほうが好きっす。先輩は正常位より駅弁のほうが好きだから小さくて軽い女のほうが好きなんす」


 「だから…そういう事は…」


 「…本当に恋人…婚約者みたいね。わかったわ…」


 「なんで今のでわかるんだ!?」


 糞ビッチは私の近くに歩いてくると頭を下げてきた。


 「貴女の婚約者を誘惑しちゃってごめんなさい。チョロそうだったからつい…」


 「…わかってくれればいいんす。もう先輩を誘惑したりしないで下さいよ。先輩は本当にチョロいんでつい乗っちゃうかもしれませんから…」


 「俺、ちゃんと断ってたよな!?」


 「私は今年入学した新入生なの。貴女は先輩かしら?」


 「私も今年からっす」


 「こうして知り合ったのも何かの縁だし…私の友人になってくれないかしら?」


 「この流れで友人とか…」


 「いいっすよ」


 「いいの?嬉しいわ」


 「…お前ら…凄ぇな…」


 先輩を守る事が出来たし、新しい友人も出来た。これからの私の大学生活はきっと楽しくなるだろう。

 

 「ところでヤリサーってどこにあるのかしら?」


 「…入るのか?」


 「3年の〇〇って人に言ったら入れてもらえると思うっすよ」


 「なんでお前が知ってるんだよ!?」


 「誘われたからっす。あ、もちろん断ったっすよ」


 「3年の〇〇…ありがとう。行ってくるわね」


 ビッチに手を振って見送った。彼女ならきっとヤリサーの主要メンバーになれるだろう。


 「…なんか…叫びすぎて疲れたよ…」


 「先輩」


 先輩の右腕に抱き付く。ここは私だけの居場所だ。誰にも渡さない。


 「大好きっす」


 「…俺もだよ」


 好きって気持ちだけじゃ恋愛はできないと思う。時には人を傷つけてでも戦わなきゃいけない時がある。自分が傷ついても守らなきゃいけない時がある。

 これからも私は私の好きな人を…大切な居場所を守る為に戦い続けるだろう。障害は全て排除する。恋愛とは過酷な争奪戦なのだから…

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