押しかけ店員
木苺
第1話 修業時代
苦節10年
バイトの掛け持ちで小金をため、板前修業で腕を磨き、
やっとささやかながらも自分の店を持つことができる、と思った。
◇ ◇
漁師の手伝いも 卸売市場の清掃員も デリバリーの配達員も ファーストフードの店員も 飲食関連産業のバイトはいろいろやった。
なにしろ寿司屋の板前見習いなんて、「技を教えてやってんだから それだけでありがたく思え」って感じで、給金なしでこき使われるばかりだったから。
人生は厳しい。
小金持ちの家の子が見習い職人になる時には、修行先に「授業料」を支払ってから入門するから、すぐに職人仕事の見習いから小僧・下働きの職人と、順々に梯子をのぼりつつ「技」を身に着け磨いていくことができる。
一方授業料の払えぬ者は いつまでたっても ただ働きの雑用係で 到底技など身につけられぬ。
(本職の雑用係なら 仕事に見合った給金がもらえるのに)
僕は すし職人になりたかった。
「授業料」の払えぬ僕は、すしを握りたければ、自分の店を持つしかなかった。
寿司屋を開くには、開店資金と「板さん」の看板が必要だった。
「板さん」の看板を買うには、一流のすし屋で、先輩職人の下で修業したという職歴証明書が必要だった。
職歴証明書を手に入れるには、「板さん組合」に求人登録して、「見習い職人」を募集している店をあっせんしてもらい、店から「見習い職人として在籍中」と届けを出してもらい、その届け出のあった期間が職歴と認定され、職歴証明書に記載されるのであった。
もちろん求人登録をするにも、あっせんしてもらうのも、雇用主に毎月「在職中」の届を出してもらうのも、職歴証明書を発行してもらうのも費用がかかる。
つまり「板さん」になるのに必要なのは、板前の腕ではなくて、看板を飼う費用と職歴証明書を入手するための諸費用なのであった!
というわけで 僕は せっせとバイトと修行先での「ただ働きの雑用」に励んだのであった。
それでも バイト先を飲食業関連に絞り込んだところに 僕の意地と工夫がある。
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