Devium

榑樹那津

プロローグ――Alone

その日は雨だった。窓ガラスを殴りつけるように打ちつける強い雨だった。6月とは思えない異常気象。人は地球温暖化が原因と言う。せっかくの誕生日が雨で台無しになってしまって、当時の私はガッカリしていた。

しかし、家族と過ごせるだけで私は嬉しかった。両親はいつも仕事で忙しくて、帰ってくるのは夜遅い。けれど誕生日だけは、休みを取って一日中一緒に過ごしてくれた。

しかしその夜はいつもと違った。両親はいつも私を寝かしつけるとナイトキャップにグレンフィディックをロックでたしなみながら、ふたりの時間を過ごしていた。

 トイレで起きた私は電気がついているリビングに向かう。まだ両親は起きているのか、どんな話をしているのか、まだ子供だった私の幼い好奇心がリビングへと向かわせた。


「おとうさん?おかあさん?」


割れて雨が降りつける空間にぶぬれになってよこたわる両親。

——わたしは、ひとりになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る