没落貴族はいつまで経っても貧乏から抜け出せない
@Taya_Tomone
白い髪をした姉妹
序章
第1話 サイラス・ヴァイカウント・ドゥ・タルボット
まったくもって働き甲斐のないのどかな昼下がりを、依頼斡旋所の受付を担当するヘレンは、人間観察をすることで時間を潰していた。
今日の観察対象はサイラス・ヴァイカウント・ドゥ・タルボット。知り合いの子供から貰ったというぬいぐるみを抱き、廃棄寸前の、捨て値でまとめ売りされているような薄汚れたボロボロの服を何枚も重ねて着る彼は、名前から分かる通り、貴族である。一応、ではあるが。
タルボット家。
かつては貴族院に名を連ねる名門として、タルボット領からかなり離れた地に住まうヘレンたちの耳に届くほど栄えた存在も、今となっては没落貴族の一員だ。七年前の王位継承を巡る内戦が原因で落ちるとこまで落ちたタルボット家は、領主が外で稼がないと生計を立てられないくらいには、落ちぶれてしまっていた。
そんな事情があって、
しばらくして、サイラスが一枚の依頼状を手に受付へとやってきた。
「決まりましたか?」
「ええ。この依頼にしようかなと」
サイラスから受け取った依頼書に目を落とせば、それは実績が二つ星以上であれば受けられる、とても簡単な依頼内容だった。この依頼斡旋所では新顔の部類に入るとはいえ、中堅である四つ星のサイラスが受けるには幾分相応しいものではない。
「
「
二歩下がったサイラスは、おもむろに剣を抜いた。ショートソードに分類されるその剣は、素人であるヘレンから見ても質の悪い品であることは一目瞭然で、貴族が持つ剣としては似つかわしくないものであることは言わずもがなだった。
「使いやすくていい剣なんですけど、
「そうですか……分かりました。では、受注処理をしますので、その場で少々お待ちください」
ヘレンとしては、知らない仲ではないこの
「複数受注できない依頼ですので、競争にはなりませんが、猫の無傷が条件ですからお気をつけて。依頼主は怪我などがあった場合、報酬は出さないと言っています」
「忠告ありがとうございます。早速探しに行こうかと思うんですが、特徴とかって聞いてたりしませんか?」
「名前はチャコ。茶色の体毛に黄緑色の瞳、額には逆三角形の模様があると依頼主は言っていました。それと、猫のお気に入りのブランケットを預かってます」
ヘレンは保管庫の中からブランケットを取り出すと、サイラスへと手渡した。
「おお、これがあればすぐに見つけられそうです。じゃあ、行ってきます」
「え、ええ。頑張ってください」
どうしてブランケットがあればすぐに見つかるのか疑問ではあったが、特に詮索する必要もないと思い、ヘレンは爽やかな笑みを残して依頼斡旋所から出ていくサイラスを見送った。
「あれ、もしかしてサイラスさん来てた?」
入れ替わるように昼休憩から戻ってきたアメリアが綺麗な形をした鼻をスンスンと鳴らしながら言った。
「いたわよ。どうして分かったの?」
「匂いよ。サイラスさん、ああ見えていい匂いがするのよね。他の人たちも見習ってほしいわ」
「ふぅん」
そんな他愛もない話をしているうちに、サイラスが戻ってきた。陽はまだ高い。それどころか彼以外の利用者はまだ誰も来ていない。
忘れ物だろうか?
そんな疑問を吹き飛ばすように、サイラスが抱えたブランケットの中から出てきた猫が「ニャー」と可愛らしく鳴いた。
暗めの茶色の体毛に、澄んだ黄緑色の瞳。そして、最も特徴的な額の逆三角形。
サイラスが連れてきたのは、紛れもなく
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