371 ある人たちは待ちかねている頭部強化薬ゲリラ
「あ、ついでにサービス。頭部特化薬」
シヴァは錠剤と木のカップに水を注いでジョンに渡した。
ジョンは四十三歳にしては大分頭部が淋しい。
「頭?頭も何か出来てたのか?」
「いや、徐々に失われて行ってるものがあるだろ?毛根細胞を復活させ血流を…と言っても分からねぇか。簡単に言えば、髪の毛生え薬」
「…はぁっ?ホントに?」
「ああ。徐々に生えて来るけど、この薬は本当に個人差が激しくてな。一晩でまとまって生える人もいれば、一ヶ月以上かかった人もいるから、出来る限りデータが欲しい。まぁ、悪くなりようがねぇからそれは安心しろ。どのぐらいで抜け毛が減って、どのぐらいで生えて来てどんな状況なのか、ヒルシュに伝えるだけでいい」
毛生えゲリラをやる時は隠蔽した飛行カメラで追跡させているが、ヒルシュの友人なら感想を聞いた方が早い。
「そうか!それはありがとう!治してくれたことも!…あっ!お代はどのぐらいで?」
錠剤をすぐに飲んでから、ジョンはようやく治療費が気になったらしい。
「別にいらねぇよ。新しい薬を使ったからどんな感じか教えてくれるだけでいい。別に問題なし?かゆいとか何か気持ち悪いとかは?」
「あ、ああ。全然そんなことなく爽快だ。身体も軽い」
ジョンはベッドから降りて、ストレッチを始めたが、嘘ではないようで動きもスムーズで楽しそうだった。
「それならよかった。また腫瘍…身体の中にデキモノが出来る可能性が高いから、定期的に検診も受けてもらう。最初にやったように手をかざすだけだ。三ヶ月に一度ぐらいでいい。それ以前に何か調子が悪かったらヒルシュに言ってくれ。おれに連絡が出来るようになってるから」
「分かった。で、娘も同じ病気の可能性があるって最初に言ってたよな?」
「ああ。今から診断する。…いや、そのままでいいから」
ベッドに腰かけようとしたアイシャを止め、立たせたまま【診断】する。
「デキモノはねぇけど、貧血だな。冷え性で月のモノが重い?」
「……あ、えっと…はい」
「こればっかりは体質だから、地道に体質改善するしかねぇ。身体を冷やさず温め、レバーや魚介類やほうれん草やひじき…っても、内陸じゃ中々手に入らねぇから鉄分不足になるんだよな。サプリで補うしかねぇか」
造血剤程、効果があるものだと身体に負担がかかるので、サプリぐらいゆったりした効果が望ましい。
シヴァは作業台を出すと、貝、赤身魚、レバー、ほうれん草、ひじき、と鉄分が多い食材を並べ、吸収がいいヘム鉄サプリを錬成した。
アクリルもどき瓶に入れて、『貧血改善サプリ』一日三回一錠ずつ食後に水と共に服用、と用法ラベルも錬成して貼る。
一ヶ月分を一本にして十本作り、そのうち二本をアイシャに渡した。
「毎食後に飲め。二週間もすれば効果がよく分かる。お母さんも似た体質だろう?もう一本は渡してくれ。初回はお試しサービス。次は金取るからな。見てた通り、材料費だけでもかなりかかってるんで一本銀貨5枚」
「いや、安過ぎだろ。さっき出した貝や赤身魚って海の魚だろ?旅費だけでも相当行くのに」
シヴァの規格外さを少しは知ってるヒルシュからツッコミが入る。
シヴァが錬成した時点でジョンとアイシャは呆然だ。
「まぁ、食材も色々と貯め込んでるからな。錬成代と瓶代も入ってねぇお得価格」
「激安だろ…」
「鉄分ってのはそんなに必要なのか?刃物に使ってある鉄とどう違う?」
「一緒。鉄分は身体に必要不可欠。極端に少なければ血の巡りが悪くなって死ぬ。娘さんの今の状態はかなり鉄分が足りねぇ状態だから、鉄のフライパンや鉄のポットからしみ出して摂れる鉄分程度では足りねぇ状態なんだって。朝、中々起きれなかったり、立ちくらみを起こしたり、手足が冷えたり、舌や爪が白かったりするのは典型的な貧血症状」
「…そのまんまだよ…やっぱり、お医者さん?」
「だから、医療知識があるだけだって。ちなみに、貧血が改善されて血の巡りがよくなれば、肌もキレイになり張りもよくなる。健康になるってことなんで」
「…今、さらっと恐ろしいことを言わなかったか?」
「女性陣なら目の色変えるだろうけど、サプリ程度じゃまだまだ甘いって。健康的に食生活を改善すれば、ツヤツヤサラサラの髪で肌の色艶もかなりよくなる。バランスよく美味しく食べるだけでいいんだけど、肉も魚も野菜も果物も、となると庶民には中々難しいだろうし」
「シーズンじゃなくても、となると費用がとんでもなくなるな」
「そう。しかし、シーズン以外でもダンジョンなら手に入るワケだ。果樹がたくさんあるダンジョンも多いしな」
「…シヴァの興味がどの辺にあるのかよく分かる発言だな…」
「ほとんどが食べ頃で
「ダンジョンなら魔物がたくさんいるんじゃないのか?」
ツッコミを入れたのはジョンだ。
「それが何か?」
「シヴァって無茶苦茶強いんだよ。面倒だからランクを上げてないだけで」
「すみません。ツヤツヤサラサラの辺りをもっと詳しく知りたいんですが」
アイシャはまだ十三歳でも…いや、思春期だからこそ、気になる所らしい。
「いいぞ。肉、魚、野菜、果物、豆類、全部バランスよく食べることを続けてるだけで健康になり、ツヤツヤサラサラになる。それはどうしてか?というと、身体を構成する大半はタンパク質で、このタンパク質は温度が上がり過ぎても下がり過ぎても…」
「シヴァ、難し過ぎる…」
ヒルシュがツッコミを入れた。
「詳しくっていうと、こうなるんだけど。じゃ、栄養失調って知ってる?」
「あ、何か倒れちゃう病気ですよね?」
「正確には食事バランスが悪いか、量が少なくてエネルギーが足りない状態。その逆をやれば健康になるというのは分かるだろ?」
「はい。健康だから肌も髪もツヤツヤサラサラになるってことですか?」
「そう。簡単に言えばな。義務的に食べないとで食べるんじゃなく、バランスよく美味しく料理した物を食べねぇと、意味がない。食べる時の気分によって消化やエネルギー摂取量がかなり違って来るからな。少量でも美味しいものを食べると、それだけで満足するだろ?そんな感じ」
「女の子が誰か好きな子が出来た時、キレイになるのも同じ?」
ヒルシュがそう訊く。
「その通り。ドーパミンという快楽物質が脳味噌に出て…」
「難しいって!」
「まぁ、超簡単に言うと、キレイになりたけりゃ努力しろってことだな。刃物と一緒で髪や肌も手入れすると、更にキレイになる。どうせ、荒れるし、で放って置くのは女子力が足りねぇ」
「女子力?」
「あ、言わねぇのか。この辺じゃ。男が好感を持つ態度や仕草、女らしさ。料理上手だったり、気配り上手だったり、身だしなみに気を付けたり。おれの奥さんは更に物理的な力まである、女子力の高さ」
「…それはちょっと違うような…」
「久々にボア肉食いたいなぁ、とか言うとさらっと狩って来るんだぞ?解体も自分でやるし、美味い料理ももちろん作ってくれるし。かっこよ過ぎ!毎度惚れ直してる」
いつの間にか、解体スキルを持ってたりするアカネである。錬金術の派生らしい。
「……それ、女子力か?戦闘力では」
「いや、女子力。旦那のために!という辺りが」
そんな雑談をしていたが、お互いそろそろ昼食の仕込みをしないとならないので、その辺で雑談は切り上げて、それぞれ宿に戻った。
「腰痛は通りすがりの薬剤師に治してもらった」
病人怪我人が押しかけて来そうなので、そんな風に口裏を合わせてから。
シヴァはそのまま、物陰からディメンションハウス経由で自宅へ帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます