126 基準からしておかしい

「シヴァ殿、倒れてたの?」


 美味しく夕食を食べていると、そこにテレストが来た。


「いや、寝てただけ。何だった?」


「お仲間たちが一斉にどこかに行っちゃったから、何かあったのかと思って」


「魔力使うからね。いくらシヴァでも、そろそろキツかったワケ」


 何に、とは言わない賢いアカネである。


「…まさか、ずっと維持してなきゃならない魔法なの?」


 テレストはシヴァの前の席に座り、小声で訊いて来た。


「そのまさか。維持だけなら大して魔力は使わねぇんだが、それぞれガンガン魔法使ってると、他から魔力供給してても燃費悪いんで、どんどんこっちの維持魔力が嵩む。もうちょっと効率化出来るといいんだが」


「でも、魔力消費削減の称号持ってるんだから、もうこれ以上の効率化は無理じゃない?」


「【大地の杖】みたいなマジックアイテムを作って装備すればいい。かなりレア素材が必要だけどな」


 【アイテム創造】で作れば何とかなりそうだと思うワケで。


「って、もう細かい仕事なんだから、みんなでゆっくりやればいいでしょ」


「そのつもりだが、今後のために」


「備えとくのは基本は基本か。現にお役立ちなものがたくさんあるしね」


「その用意周到さはすごいものがあるわよね。…ああ、有難う」


 アカネは話しながらも、テレストにも紅茶を淹れて出してあげた。


「ところで、精霊みたいなのもいない?隠蔽か幻影をかけているようだけど」


 テレストのカンも中々だ。カンがよくなければ、生き残ってないのだろう。


「ああ。おれらの仲間だから気にすんな。情報とサポートをお願いしてある」


「本当に出し惜しみしてないわね…。ちょっとやり過ぎて『神様も見守ってくれてるんだ!』ってみんなが喜んでるわよ。まぁ、神獣様の眷属っぽく思われてる感じで」


「大差ねぇから問題ない」


「…大差ないの?」


「ないな。おれが使役してるワケじゃなく、あくまで仲間だし」


 世界のバランスを保つのが神獣の役目だが、人類を鍛え、有用なアイテムを与え、魔力バランスを崩さないようにし、万が一に備えるのがダンジョンコアの役目だ。大差ない。

 魔力面でのバランスが崩れるとスタンピードになるが、それはもうしょうがない。オーバーフローだ。


「…何かもう底知れないわね、シヴァ殿って」


「まだまだ能力は成長過渡期だしな。テイムスキルが生えたし。使いようがないが」


「移動も癒やしもまったく問題ないしね。そういえば、レベルの頭打ちってどのぐらいなの?」


「999か9999じゃねぇ?」


「…ちょっと待って。100以上なの?」


「おう」


「うん。わたしたち以外では見ないよね。100以上の人って。…あ、魔物も見てない」


「それはアカネがまだ中級ぐらいまでしか行ってないから。大規模ダンジョンの深層ならゴロゴロいるぞ」


「じゃ、頑張らないと!」


「いや、クリアしねぇとってことはないだろ」


「そうだけど、そんなレベルの高い魔物がいるダンジョンって、ドロップもかなり期待出来るし」


「まぁ、それはそうだけどな」


「それに、魔力量を上げないと使えない魔法もあるから、レベルを上げるのが早道。だよね?」


「確かに」


「アカネさん、そんなに魔力が低いようには思えないんだけど」


「ああ。アカネの魔力量はテレストの十倍以上あるけど、影魔法や錬金術を使うには足りねぇんだって。影転移にしても距離によって魔力食うし」


「ってことでした。魔力補助アイテムを使っても全然不足するし」


「…基準からしておかしいわ…」


「シヴァが色々と便利な魔法を使うからね。錬成するのもものすごく速いし、練習しようにも魔力不足で中断になっちゃうから、まずは魔力量を上げよう、と。シヴァだって努力して魔力量を上げて、練度も上げたんだしね」


「おれは最初から魔力量が6ケタだったけどな。3ケタまでしか表示しねぇ冒険者ギルドの測定魔道具だったから、正確な数字までは分からねぇけど、自分でステータスを見れるようになった時はレベル22で15万だったし」


「元々の基礎能力が違うからってのもありそうだよね。髪の色や目の色のように」


 アカネは別にズルイとは思わず、個性扱いらしい。

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