第3章・妻もCランク冒険者

072 幸運Aのアカネのドロップはかなりいい

 アカネは当然ながらCランク昇格試験に合格した。

 副ギルドマスターからだけじゃなく、隠れてついていた試験官からAランクでもいい、と聞いたらしく、ギルドマスター直々にAランク昇格試験についての話があったが、これも当然断った。


 高ランク冒険者が多く出るのは、ギルド側としても喜ばしいし、ギルマスの功績にもなるからか、しつこく勧め始めた所でスルーして帰った。


 ちなみに、Aランク昇格試験はパラゴダンジョン攻略。

 いくら、特例での昇格は条件が厳し目になるにしても、ソロで攻略出来たらSランクだろ?という話である。

 ライフルを使えば、あっさり討伐出来るだろうが、アカネはそんな武器頼りの攻略はよしとしないだろう。キマイラの時と同様に。

 大型魔物との戦いもそこそこ分かって来たアカネなので、ライフルを使わなくても討伐出来るだろう。


 受験者のドロップ品の分け方は、当初は等分だったが、討伐数とドロップ率にかなり差があったので考え直すことになった。

 幸運Aのアカネのドロップはかなりいい。


 回復術師のラバーヌはどうしてもサポートになり、討伐は大してしていない。それに、マジックバッグを持っていない者(ガジャル、カラバッサ、シュタイン)もおり、普通なら放棄するドロップを大容量のマジックバッグを持つアカネが持って帰れるため、話し合った上でだいたいの割合になった。

 アカネ七割、他三割は試験官のフィヨルドを含めた六人の受験者で、ということで。

 討伐数とドロップのよさがそれ程隔たりがあったワケだ。

 それでも、普通にパーティでダンジョンに潜った分け前より多いのだから、文句があるワケがない。


 アカネもシヴァも思った以上に、一般的な冒険者たちの稼ぎが少ないことに驚いた程だが、よく考えてみれば当たり前だった。

 Cランクパーティであるダンたちは、ダンとボルグの時間停止で大容量のマジックバッグがあるからこそ、稼ぎがかなりいいのだ。

 ちなみに、その時間停止の大容量マジックバッグは、ダンジョンドロップではなく、シヴァが作ったものである。


 Cランク昇格試験受験者たちは、買取カウンターでドロップ品を換金して、それぞれに分けてギルドカードを更新してから、ようやく解散だ。

 一般のCランク冒険者としての力量は余裕で達成していたため、全員合格だった。


 朝食を食べてすぐ引き上げ、冒険者ギルドに直行したので、まだ九時半だ。受付カウンターももう大分空いている。

 今ならいっか、とシヴァはアカネの影からわざわざ冒険者ギルドの前に出て、それから中へ入った。

 やはり、静まり返る。


「シヴァ」


「おう。試験、終わった?」


「うん。ギルマスがパラゴダンジョン攻略したらAランクだって。ソロならSランクじゃないの?」


 アカネも内心ツッコミを入れてたらしい。


「そうだな。バジリスクに再生能力はないが、かなりの毒持ちのSランク魔物だ。また昇格試験を受けるのか?」


 一応、訊いてみた。攻略はするだろうが。


「ううん。もう別に昇格しなくていいと思う。メリットもなさそうだし」


「まぁな」


 アカネもアルと同じCランク冒険者の方が都合がいい。

 それに、数少ない女性冒険者なので、下手にBランクになると指名依頼が鬱陶しいことになることだろう。


「じゃ、またどこかで」


 呆然としたままの受験者たちに手を挙げたアカネは、シヴァと一緒に冒険者ギルドを出た。


「この後はどうする?」


「そうだなぁ。王都に行って遊んでご飯食べようよ」


 エレナーダダンジョンのエーコに顔見せで、街にはちらっとしか行ってないので、アカネは今度はゆっくり行きたかったらしい。


「騎竜で?」


「必要?神出鬼没って噂だから、もうよくない?」


「あ、面倒がったな。騎竜で行くと転移ポイントが置けるんだけど、アカネにはまだ無理か」


「そうでーす。距離伸ばしてる最中だしね。って、シヴァの予定はいいの?」


「ああ。王都エレナーダに行くんならちょうどいい」


「え?わたしを連れてて大丈夫?」


「一緒に来るなら影の中か隠蔽だな。おれの用事が終わるまで遊んでてもいいし」


 それで、アルとして行動することが伝わる。


「何か作ったの?」


「詳しい話は移動してから」


 物陰に入ってからシヴァはアカネを連れて、キエンダンジョンの自宅に転移した。


「え、これ柱時計?」


 大きいので外に置いてあった。


「そう。からくり時計」


「へぇ!見たい見たい」


 要望に応えてリモコンを操作し、からくりを見せる。

 朝六時、ヴィヴァルディの「四季・春」がオルゴールで流れる。

 柱時計の胴体の観音開きの扉が開き、舞台には蓄音機のようなラッパの付いた道具のハンドルを小人が回しており、花の妖精が出て来て、くるくると踊り出す。

 一分ぐらいの短い曲を踊ったら、舞台が戻って、妖精も時計に戻り、扉が閉まる。

 曲はショパンの「ノクターン」と迷ったので、こちらバージョンも入っている。


 昼十二時、魔道具キーボードにての合成音で、ハッチャトゥリアン「剣の舞」。

 運動会でお馴染み定番曲で、元気で賑やかな曲だ。

 扉が縦型のピアノの鍵盤に替わり、小さいにゃーこが跳びはね、少し経つと、扉が開き、シンバル、バイオリン、クラリネット、トランペットといった楽器を持った動物たちが参戦、ぶつかりあったりしながらも、やがて、一緒に演奏し出す。

 パーッとシャボン玉が出て扉を閉じて終わり。

 飛行カメラで投影して、プロジェクションマッピングも使ってあった。

 こちらも「天国と地獄」バージョンもある。


 夜六時、ミニにゃーこバンドによる有名人気曲。

 エレキ(魔道具)ギターと歌はシヴァだが、【ボイスチェンジャー】でアーティスト声だ。日本語ではなく、この世界の言葉に訳してある。

 これも扉を開いてステージを前に出し、プロジェクションマッピングでライブっぽく、ライトやスモーク演出でリズムを刻む。

 最後のシャウトでパンっと花火を打ち上げて終わり。危険がないよう結界内で打ち上げるので、誰も怪我しない。

 2分ぐらいのショートバージョンだ。


「…無茶苦茶凝ったね。うん、すご過ぎる…」


 アカネは拍手をしながらも、少々呆れも入ったらしい。

 ここまでやるか、と。


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