007 何か詠唱したらカッコイイかも?

「10階ぐらいまでは行けそうかな?」


「大丈夫だろ。期限も別に今日中ってものはねぇし」


「じゃ、三つ受けよっと。受注してなくても納品依頼の物があれば、後でも達成になるって話だし」


 アカネが受注した依頼は、4階のフォレストディアの肉三つ、ホーンラビットの肉五つ、6階スリーピングシープの毛皮三つ。

 何故、人気がなかったのかの理由も、受付で受注前に訊く堅実ぶりだった。


 フォレストディアは角が厄介で大きい割に動きが速いため、戦闘が得意な冒険者でも注意が必要だから。

 ホーンラビットは更に素早く、手間取っていると群れになり、初級冒険者が怪我する魔物筆頭だから。

 スリーピングシープは眠気覚ましポーションが必須で、それが結構高いので割に合わないし、かさばるから。

 Fランクでも受けられる一つ上のEランク依頼なので、大した強さではない。


 シヴァとアカネは冒険者ギルドを出て市場の方へ向かった。

 まず行くのはポーションやアイテム、魔道具を売っている雑貨屋だ。武器防具以外の冒険者が必要な物はだいたい揃う。


「あ、これだ。『眠気覚ましポーション』」


 よく売れるらしく分かり易い場所にあり、アカネは早速買った。

 シヴァが持っているのだが、余計なことは言わない。

 他のアイテムや魔道具を見ても買わず、店を後にした。


「物は全体的に雑だね。何か可愛いアイテムでもあるのかと思ったのに」


「高ランク冒険者はだいたい作らせるからな。物の質で言えば、錬金術師のセラさんの店がいいけど、Fランク冒険者には中々買えない価格帯」


 アカネはシヴァがお金を渡したのでたっぷり持っているが、普通のFランク冒険者体験をしたいのかと思ったので、口出しはしなかったワケだ。


「目的の物はゲットしたんで、今度。市場で食べ歩きがしたい!」


「そう言うと思った」


 まだ九時半にもなっていないが、遅めの朝ご飯で食べに来る人、昼ご飯用に早めに買っておく人もいるため、そこそこ屋台は開いている。

 屋台は定番なので串焼きが多いが、サンドイッチやスープの屋台もある。食堂は朝の営業時間が終わったら仕込みに入り、昼からまたオープンの所が多い。


「食のレベルが高いね!」


 色々食べた結果のアカネの総合評価だった。

 朝食もちゃんと食べたし、全部食べていたら種類が食べられないので、アカネは少し食べて後は時間停止のマジックバッグに【チェンジ】で入れていた。


「そうなんだって。物作りは何でかなぁ?」


 需要はあるハズだが、コツコツと繊細な作業、というのが嫌いなのかもしれない。


「あ、でも、カルメ国…ここから三国ぐらい離れた北の国の食レベルは低い。ガーコ管轄の国だな」


「この国自体が豊かな国っていうのもあるんだね」


「だな。それと、食材ドロップが多いダンジョンの側なのもある」


「産地直送な感じなワケね」


 腹ごしらえと支度は出来たので、門の警備兵にアカネが作ったばかりの冒険者ギルドカードを見せて保証金を返してもらってから、ダンジョンに向かうことにした。

 門からアリョーシャダンジョンまで徒歩二十分だが、有料定期馬車も出ている。


「さて、アカネ、どうする?歩く?」


 そうもタイミングよく定期馬車はいない。


「歩いて二十分ぐらいだし、歩くのが普通じゃないの?」


「自転車がある」


「…え、この世界にあったの?物作りレベルはイマイチっぽいのに」


「おれが作ったからな。まだおおやけには出してねぇけど、試乗はさせた」


「だったら、しまっとこうよ。試乗の時はシヴァではないでしょ?」


「…そうだった。ズレてるなぁ、やっぱ。じゃ、飛行魔法練習ついでは?」


「すぐ魔力なくならない?」


「使わねぇといつまで経っても飛べねぇだろ」


「それもそっか。試した時は浮いたぐらいだしね。飛ぶって言ってもそう高い所じゃなくてもいいワケで」


「そ。何か詠唱したらカッコイイかも?……『我を重力から解き放ち、見えぬ翼を与えよ“FLYフライ”』とかって」


 それっぽいかも、とシヴァが言ってみると、アカネは笑ったが、自分で言うのは却下らしい。


「ヤダよ~中二病はとっくに卒業したし~」


「まぁ、そんな身構えなくても普通に飛べるって。ほら」


 シヴァは1mぐらい浮いてすーと平行移動した。5mぐらい先に行き振り返る。


「シヴァの普通は世間一般の普通じゃないと思うの」


 ツッコミを入れてからアカネもふんわりと1mぐらいの所で浮かび、シヴァの方に来る。別にバランスを崩したりもしないことから、しっかりとイメージは出来ているらしい。


「飛行魔法は重力魔法と風魔法の複合だから、進む時は帆船が進むイメージだと分かり易いかも。ジェットエンジンだと速過ぎだから」


「そんなの誰もイメージしないから!…あ、でも、帆船はマジで分かり易い」


 アカネはスイーッと最初よりスムーズに進み出した。30kmぐらいで。アカネの愛車の原付きスクーターの速度だ。


 シヴァは後ろからアカネのステータスチェックをしつつ、ついて行く。魔力がなくなる手前で止めないと、枯渇で気持ち悪い思いをするので。【浮遊魔力利用】スキルのおかげで、結構節約になっている。


 肩の力が抜けると、魔力の効率化も出来て来てスピードもアップし、慣れて来た頃にアリョーシャダンジョンに到着だ。何とかアカネの魔力が保った。


 シヴァが魔力チャージをしてやれば、MPポーションを飲み過ぎる弊害でトイレが近くなる心配もいらなくなるのだが、そこまで甘やかすのも怒られそうなので、気付いていても言わなかった。魔力が少なくなって来た時にどう戦うのか、というのも勉強になることもある。


 『カップらーめんやさん』の店舗内の人たちも行列を作ってる人たちも、シヴァとアカネに注目していたが、今更も今更なのでスルーしてダンジョンに入った。


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