心残り
ピーコ
心残り
私は、野良猫のミーコ。この公園に来てから、もう、ずいぶんになる。自分の年なんて知らない。小さい頃は、ペットショップにいた。飼い主の家族は、私を可愛がってくれた。でも、そこの子供が猫アレルギーなのが、わかると、私をこの公園に捨てに来た。
家猫が野良猫になるのは大変だった。皆、それぞれ縄張りがあるし、自分が生きていくので精一杯。でも、唯一、面倒見のいい、メス猫のせつ子さんが私の面倒を見てくれた。縄張りのこと、餌の取り方、野良猫としての苦労とか、いろいろ教えてくれた。私は、ずっと、せつ子さんと一緒にいて、本当のお母さんのように思っていた。でも、せつ子さんは、病気にかかり亡くなってしまった。私は、また、一人ぼっちになった。
その後、何年後かに初めての彼氏が出来た。ジョーだ。ジョーは、片方の目の上に斜めに傷が入ってるイケメンの猫。鳴き声もカッコよくて、メス猫にモテモテだ。ジョーは、誰にでも優しくて、浮気者。いろんなメスに、ちょっかいを出していた。わかっていたけど、一人になりたくなかったからジョーが来てくれる時は、一緒にいた。
ジョーとの間に子供も産まれた。でも、公園にやってくる人間に、子供達は、連れて行かれた。
ジョーも、いつしか見かけなくなった。
それから、何度か恋は、したが、ジョーほどイケメンな猫には、お目にかからなかった。私は長いこと一人だった。
ずっと寂しかった。そんな時、しんじに出会った。しんじは、人間だ。毎日、夜遅くに会いに来てくれる。「ミーコ」しんじが、優しく私を呼ぶ。しんじがつけてくれた名前だ。気に入っている。「ニャーーーン」しんじに呼ばれると、私は、とびっきり甘い声で答える。
「今日も可愛いね。大好きだよ。」しんじは、
いつも、こう言ってくれる。昔飼ってくれていた
飼い主を思い出す。いつも、こう言ってくれてたなー。しんじが、私の頭と背中を優しく撫でてくれる。私は、喉を鳴らして答える。
しんじの愛おしそうに私を見つめる目と
優しい声が大好きだ。しかも、しんじは、若くてイケメン、背が高くて、髪の毛がサラサラで目が大きくてまつ毛が長くて、鼻も高い。ジョーなんかと比べものにならないくらい。私は、幸せだ。
不思議に思うところがあった。会いに来るのが
夜遅いところ。遅くまで仕事してるからかなー。
あと、しんじの手が冷たいところ。人間の手は、
温かったはず。飼われていたのは、ずいぶん前だから、私の勘違いかなー。でも、優しくてイケメンだし、私のことを好きでいてくれるから、そんなこと関係ないか。
ある日、しんじが言った。「もう会いに来れないんだ」えー、どういうこと?私が思っていると、しんじが言った。
「僕は、少し前に治らない病気に、かかって亡くなったんだ。病気が、わかったのは大学を出てすぐだった。就職先も決まってたし、これからって時だった。僕は、父さんや母さんに、当たり散らした。どうして、こんな体に産んだんだよって母さんを責めて、泣かせた。ひどいことをしたよ。治療をいっぱいしてもらったけど、治らなかった。僕は、最後まで、父さんや母さんに、ひどい言葉を浴びせ続けた。亡くなる前に、ありがとうの一言でも言えばよかった。僕は、ひどい息子だ。」
しんじは、悲しそうな顔をして肩を落としている。私は、「ニャーーーン」と鳴いて、しんじのそばに寄り添った。
しんじが言った。「もう一つ心残りなことがあった。小学生の頃に飼ってた猫を捨てたこと。僕は、ずっと欲しかった猫を誕生日の日に
ペットショップで買ってもらった。うれしかったー。可愛い子猫だった。でも、飼って3ヶ月くらいした頃、僕に猫アレルギーが見つかったんだ。
顔が痒くなったり、咳も出た。ひどい猫アレルギーになってしまったんだ。周りの人で、猫を飼える人がいないか探したんだけど、見つからなかった。父さんと母さんは、仕方なく、ここの公園に捨てに来た。俺は、ずーっと心残りだった。」
私は、思い出した。私を飼ってくれていた男の子だ。しんじが、あの時の男の子だったんだ。私は、しんじのことを忘れていた。私に、ミーコと名前をつけてくれた。しんじ、ずっと覚えててくれたんだね。私は、嬉しくて、また、「ニャーーーン」と声を上げた。
しんじは、私を見つめ「思い出してくれたんだね。ありがとう。この公園にミーコを探しに来たんだよ。あれから何年も経ってるし、諦めていた。そしたら、大人になったミーコを見つけた。少し年は、取ったけど相変わらず可愛かった。僕のことは、忘れてたみたいだったけど。」
しんじは、笑った。
「ミーコ、あの時は捨ててしまってごめんなさい。寂しかっただろ。迎えに来て、また一緒に暮らしたかったけど、僕は亡くなってしまった。今度、生まれ変わったら、絶対に、ずっとそばに、いるからね。約束する。」
私は、「ニャーーーン」と返事をした。「よかった。最後に会えた。僕、もう行くね。天国で、ミーコのこと見守っているからね。」しんじの姿が、どんどん薄くなって、いつのまにか消えてしまった。「ニャーーーン、ニャーーーン」何度呼んでも、しんじは、もう現れなかった。
次の日、人間が、私の前に現れた。小学生くらいの女の子とお母さんだ。女の子は言った。「お母さん、この猫、飼いたい。お家連れて帰りたい。」
その子のお母さんは言った。「お世話ちゃんと出来るの?」女の子は大きな声で「うん」と言ってうなづいた。お母さんは、「わかった。ちゃんとお世話するのよ。」女の子は、「飼ってもいいの?飼ってもいいの?」と嬉しそうに、何度も聞いている。お母さんは、「うん、うん」と、うなづいてる。女の子は、それを聞いて大喜び。
女の子は、私を抱きかかえた。そして、お家に連れて帰ってくれた。女の子とお母さん、そして、お父さんは、私をすごく可愛がってくれた。
今も私は、幸せに暮らしている。「しんじ、私、幸せだよ。」
心残り ピーコ @maki0830
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