繋がれた日々

たつろう

可愛い私の妹


 私の妹は地元の名士の息子と結婚した。妹は夫と非常に仲が良く、私はそれに嫉妬していた。まだ少し空に赤みが残っている朝方に、時折2人は庭先でロマンチックに抱き合っていた。それを見かけると、どうしようもなく心がざわついて目を逸らしてしまう。


 私の部屋も、妹夫婦の部屋も同じマンションにある。マンションは坂道の上にあり、眺めが良い。坂道は小さい車ならばやっと通れるほどに狭く、家は道を押し潰さんばかりに迫って建てられている。家の並びは坂道が終わったずっと先まで続いている。道なりに目線を伸ばして行けば海があり、陸地と海の境目は遠くはっきりせずぼんやりとしている。海に日が沈んで行くのか、辺りが徐々に淡い赤色に溶けていく。それをただ眺めていたら、私は眠りについていた。


 目が覚めた時、空は暗く星が瞬いていた。渇いているからか、喉がへばりついて痛む。窓を開けたままであったからだろう。エントランス横の自販機へ行こうと、眠気が残って重い体を動かす。

 自販機で飲み物を一気買いしていると、外から上機嫌な妹が帰って来た。私が声をかけるよりも先に、妹は断りの言葉もなく割り込んで自販機で飲み物を買うと、今日は飲んで来ていかに楽しかったかを語る。私は乾いた目のまま、口角だけを無理に上げて微笑む。体が重く感じられるのは、眠気だけが理由ではないと思う。


 翌朝、いつものように家に寄ると妹は震えていた。妹は庭先で佇む夫に近寄り、目に涙を溜めながら見つめる。夫もまた知っているのであるから、妹を何も言わずに抱きしめていた。慰めるようなその光景に、私は違和感を覚えた。


 私は妹が何に怯えているのかを知るのには、それから日はかからなかった。それ以来、同じような光景を見ても、いつもの様にどうしようもなく心をざわつかせて目を逸らすことはなかった。なぜならそこには、妹への劣等感も憧れも微塵も感じなかったからだ。


 妹は夕方になると理性がなくなり、欲望のままに誰彼構わず誘惑し、そのまま夜を明かすのである。その後朝になると理性を取り戻す。そして夜のことを忘れてしまうことはなく、自分の行為のおぞましさ、何よりも夫への不義理を感じて苦しむのである。

 私の妹への嫉妬心は失せた。昨夜の男が言い寄り、妹が顔も上げられずに縮こまっている様子を見ると、私は男を一喝して妹を助けるのだ。


 私は妹がとても可愛く思える。姉がたった一人の妹、それも可哀想な妹を可愛がることに、何の不思議があるのでしょうか?

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