第十一話 黒うさぎを愛でる


 絶対変なことを考えてるな。


 目の前で百面相を浮かべているクリスティナに、ああ物語の中そのものなんだな、とどこか納得していた。


 本人は冷静に努めようと努力しても表情に感情が出やすいため、何を考えているかすぐに察せてしまう。

 あれは僕が本当にヴァニタスか疑っているな。

 まあ、推測は間違っていないが。


 母上と同じ鮮やかな金の髪、澄んだ水色の瞳は清楚な印象を受ける。

 シュッと締まったスレンダーな体型に慎ましい曲線カーブを描いた胸甲冑。

 まさに絵に書いたような女騎士。


 ヴァニタスが気にいるのもわかる。

 清楚で凛とした女騎士を自分のものに出来たなら、自慢し見せびらかしたくなるのも理解できる。

 ……もう僕のものだけどね。

 

 さて問題は彼女たちに元のヴァニタスがもういないことを伝えるかどうか。

 といっても悩む必要などない。

 彼女たちは奴隷であり、同時に将来の敵になり得る存在だが、これから生活を共にする仲間、いや家族だ。

 隠し事をしていては信頼は得られない。


 だがその前に……。


「……やはり気になるな。ラパーナ」

「は、はい」

「近くによれ」

「うぅ……」


 怯えきった表情のラパーナの細腕を引き、抱き寄せ膝に乗せる。


「あわわわ」

「主様! ご、ご無体なことはどうか……」


 クリスティナは僕がラパーナに乱暴なことでもするとでも思ったのか、声を張り上げ静止を願い出る。

 うーん、やはり信用すらされていない。


 しかし、それを半ば無視してそっとある場所に手を伸ばす。


「あ、あ…………あぁ……」

「ほう、いい毛並みだ。柔らかく……しっとりしている。ん? どうした緊張でもしているのか? もっと力を抜け」

「あう〜」


 やはり獣人の耳は一度は触って確かめないと。


「あ、主様……何を……。くっ……ラパーナも嫌がっています。お手をお離し下さい」

「む? 嫌がっているか?」

「あぅ、あう〜」

「嫌がっています! み、見ればお分かりになるでしょう? そんなに脱力して! 腰砕けになっているではありませんか!」


 む、当然だが尻尾もある。

 丸くふさふさとした尻尾。

 これ服はどうなってるんだ?

 紫のスカートの切れ目? からチョコンと飛び出る黒丸。


 ――――気になる。


「ああ、そこはっ!?」

「主様!!」

「わかった、わかった。そう声を荒げるな」

「ハァ、ハァ……主様、困ります」


 ちょっとクリスティナには刺激が強すぎたか?

 動揺と怒りがないまぜになった複雑な表情で僕をラパーナから強引に引き剥がす。


 む〜、もう少し手触りを確かめたかったのに。


「御用をお聞きします! 何か申し付けることがあったから私たちをお呼びになったのでしょう? お戯れは止めて下さい!」


 本題を話す前に警戒されてしまったようだ。

 どうしても欲求に逆らえなかった結果だから後悔はないが、この後の話し合いには注意が必要だな。


 それにしても、ずっと黙ったままのヒルデガルドが気になる。

 彼女の奔放な性格なら確実にいまのやり取りの間にも何かリアクションを起こしていたはずだが、沈黙する理由はなんだ?


 僕は不気味なヒルデガルドの反応を気にしつつ、話し始める。

 彼女たちの主はすでに変わってしまったことを。










奴隷三人娘の名前に間違いがありました。黒うさぎ獣人である彼女はラパーンではなくラパーナです。すみませんでした。


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