第2話 最弱から最強へ

俺はレックスの言う通り、夜逃げするべきだと思った。特に計画は無かった。ここは貧民街。たいそうな警備があるわけでもない。人一人逃げるくらい簡単だ。今まで逃げなかったのは、不安だったからだ。せっかく逃げても、スキルがないんじゃすぐに山賊か野生の魔物に襲われて死ぬだろう。でも今はスキルがある。だから逃げることにした。


夜になった。恐らく家主はもう寝ている。今だ。俺は小屋を抜け出した。見慣れた草むらに、雑木林を抜けて、ゴブリンたちの前を通った。ゴブリンたちはまだ起きていた。


俺はふと思った。俺一人だけ逃げちまっていいんだろうか? 鞭で打たれたりするのは俺だってつらい。こいつらだってつらいだろう。なら……。こいつらも一緒に連れていこう。


俺はゴブリンたちの小屋の扉を開けた。ゴブリンたちは次から次に外へ出てきた。


「さあお前らは自由だぞ。行け。」


俺はゴブリンたちに言った。俺はてっきり扉を開けた瞬間、ゴブリンたちは四方八方へ逃げていくと思った。しかしこいつらはどこへ行くこともなく、俺の周りに集まってきている。


「そうか。俺、ずっとお前らに餌やってたもんな。お前ら、俺に懐いちまったんだな。」


正直、嬉しかった。こんなに多くの生物に慕われるようになったのは現世でもなかった。


よし、お前ら。行くか。


俺は数十匹のゴブリンを引き連れて、貧民街を抜けた。とりあえずどこか住めそうなところを探しに行くことにした。俺たちは山道の方へ歩いていった。しばらく歩いていると数人の山賊が見えた。嫌な予感がした。 


「おいおい。ここは俺たちの縄張りだぜ。悪いがここを通るなら身ぐるみ全部置いてってもらうぜ。」


「あいにく俺たちは今なにも持ってない。それに追い剥ぎはやめた方がいいぜ。お前らは数人。俺たちは数十人(匹)はいる。」


「そうか。お前はスキルレベル25000の俺様に勝てると思ってるんだな。」


山賊はそう言うと俺に殴りかかった。あまりにも速かった。俺は全く反応できなかった。


「ガハッ、」


俺をかばったゴブリンが数メートル先まで吹っ飛ばされた。


「そんな!?」


俺はとにかくパニックになった。このままだと俺たちは全滅だ。


「くたばれ!! クソガキが。」


山賊は再び俺に殴りかかった。


「ウオオオッ!!」


俺の必殺技。グルグルパンチ。俺はがむしゃらに、とにかく手を回転させた。この技を使うのは小学三年生ぶりだ。怖かったから目をつぶっていた。


ガシャーン!!


とんでもない地響きが鳴り響いた。俺は目を開けた。山賊は倒れていた。山道全体がめちゃくちゃになっていた。他の山賊たちは腰を抜かしていたのかずっと動けずにいた。


「……。これ、俺がやったのか?」


俺はガチで最強になっていたようだ。


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