魔物愛護者の奇妙な異世界生活

ポンコツ醤油

第一章 怪異征服編

第1話 ヘンテコトカゲ野郎

「ようこそ、小野田健一君。リムサムル帝国へ。」



その一言と共に俺の平穏な生活は終わった。



「私はリムサムルの魔導師、サリュートだ。まもなく我が国は戦争を起こす。そのために戦力が必要でね。君を召喚されて貰った。」



「は? 俺はあんたらの戦争のためにこんな変な世界に連れてこられたのかよ。」



「まあそういうことだな。すまないが手を出して貰えないか?君のスキルについて調べてみたいんだ。」



サリュートが俺に要求した。



「スキルって?」



「この世界に来た者は皆、スキルというものを使えるようになる。時を止めたり、幻術をかけたり、色々なことができるようになるんだ。君のスキル次第では我が国の大きな戦力になるかもしれないな。」



そんなソシャゲのガチャみたいな感覚で俺をこの世界に召喚したのかよ。



「手を出してくれ。」



俺は渋々手を出した。するとサリュートはスコープのようなもので俺の手を見てきた



「……。」



サリュートはしばらく沈黙した。もしかして俺のスキルがヤバすぎて言葉が出なくなったんじゃないか。



「お前……。無能力者だ。」



「え?」



何故か俺にはスキルがなかった。サリュートはお荷物になった俺を貧民街に売った。こうして俺の奴隷生活がはじまった。



俺は日中はずっと働かされた。家畜である魔物の世話。幸いなことに俺は動物好きだったので魔物の世話は苦ではなかった。ゴブリンだってよく見たらかわいいもんだ。



ただし日が出てから、日が暮れるまでの労働時間に薄汚れた小屋での生活、そして糞性格の悪い家主。苦痛でしかなかった。家主はよくゴブリンたちを鞭で叩いていた。止めようとした俺もよく鞭で叩かれた。



ある日、俺がゴブリンに餌をやっていると草影の方から物音がしてきた。何の音か気になった俺は見てみることにした。するとそこには、トカゲのような魔物がいた。



体長は1.5メートルくらい。緑色で頭部と胸部からかなり出血していた。恐らく野生の魔物で勇者か何かにやられてここまで逃げてきたのだろう。



「ひどい傷だな……。」



俺は思わずそう言った。可哀想に。助けてやりたいと思ったが、相手は野生の魔物。危険だし、助けたことがバレたら、あの糞家主に怒られそうだし……。俺は仕事に戻った。



日が暮れてきた。もうすぐ仕事も終わりだ。働くことってこんなに大変だったんだな。もう少し親孝行しとけばよかった。思い返せば俺はわがままばっか言ってた。



トカゲが欲しいって駄々こねて、そのトカゲもすぐ死んじまった。短い間だったが、かわいかったな。あのトカゲ。



「トカゲといったら、昼間のトカゲ野郎。」



俺はもう一度、昼間トカゲのようなやつがいた草むらに行ってみた。トカゲのようなやつはまだ生きていた。すごい生命力だ。



「こいつ、何て魔物なんだろう? よく分かんないけど、弱そうだなこいつ。このまま見殺しにするのも気が引けるな。」



俺はトカゲのようなやつを自分の小屋に連れていった。とりあえず、トカゲのようなやつの傷はその辺の葉っぱでふさいでおいた。出血がひどいのでツルで止血しといた。



ただでさえ少ない食料もこいつに与えてやった。このトカゲのようなやつは普段は目を開けすらしないのに、食料を口の前にやるとすぐに食いやがる。図々しいやつだ。



俺がトカゲのようなやつを小屋に連れてきてから一週間くらいたった日のことだ。俺が仕事を終えて小屋に戻ると、なんとトカゲのようなやつが立ち上がっていた。



「ハーッハッハッハッ。全知全能の竜の王。レックス様 完全復活だぁッ!!」



「……。え?」



俺は混乱していた。朝は昏睡状態だったのに、何でこんな元気になってんだろう……。っていうかこいつ……。全知全能の竜の王って言ってたよな。こんな弱そうなやつがか。



「いやぁ。お前が助けてくれたのか。世話になったぞ。この俺の看病をできるとはお前も運がいいなぁ。ガッハッハッハッ。」



こいつ……。めっちゃ上から目線だな。



「お前優しいやつだな。いくら竜の王とはいえ初対面のやつにあんなにも優しくしてくれるとは。お前に礼をしたい。そうだな……。ん? お前、スキルないのか?」



「何で……分かったの?」



「フンッ。俺は全知全能の竜の王だぞ。それくらい分かるわ。にしてもお前、スキルがないのは気の毒だな。うーん。そうだ。お前にスキルをやるよ。それも飛びっきりのだ。」



「くれるのか?」



「ああ。何て言ったってお前は俺の命の恩人だからな。」



「っていうかそもそもスキルって譲渡とかできるのか?」



「ま……。まあな……。そんなことはいいんだよ。さあ、目をつぶってくれ。」



こいつ……。怪しいぞ。俺のこと食おうとしてんじゃねえのか?



「いいから目をつぶってくれ。」



俺は目をつぶった。頭の辺りがなんだかムズムズする感覚がしてきた。



「終わったぞ。」



レックスに言われて俺は目を開けた。



「さあて。これで貸し借りはなしだ。それから最後に一つ言っといてやる。こんなとこにずっといてもいいことはないぞ。さっさと夜逃げでもしといた方が身のためだ。」



「じゃあ俺は用事あるから。」



そう言うとレックスは山の方へ走っていった。結局、何だったんだあいつは。まあスキルも手に入ったし、いいか。



……。あれ? スキルってどうやって使うんだろう?







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