第55話 わっふる

 店に戻った若月は、サニーから鍵の位置を教えてもらい店の中に入る。


 黒猫は「腹いっぱいにょ。」とお気に入りのミニソファーで丸くなる。

 気が付くとサニーが人型になり、BARカウンターに入り飲み物の確認をしていたため、若月は「何かお手伝いをしますよ」とサニーに伝える。


「料理などはされるのですか?」

 サニーから聞かれる。


「料理は作る機会が少なくて、得意な物があまりないのですよ。お菓子作りは好きでしたので、それくらいしか…。」

 若月は、あははと頭をかく。


「なら、お菓子を作りませんか?材料はあるもの使っちゃいましょう。ご主人様なら多少のことは笑って許してくれますよ?」

 サニーも甘いものを食べたいようで、食材庫を案内され色々と教えてくれた。


 丈二も、お菓子の研究を色々しているようで、八木達とこの世界の食材を調査し、小麦粉や重曹、バターが食在庫に用意してあった。更に、両面焼き用のフライパンまである。


 若月はそれがあればと、得意なお菓子を思いつく。


 ※ ※ ※ ※


 材料は次のとおり。

【材料】お1人様

 卵1個、砂糖30g、ミルク80cc、サラダ油少々

 小麦粉(薄力粉)100g、重曹5g、バター30g


 まず、卵と砂糖をこれでもかと掻き回し泡立てる。

 次に、ミルクを入れ掻き回す。その途中で薄力粉と重曹を3回に分けてダマにならないように更に掻き回す。


 火は魔道具のコンロを使うようで、使い方をサニーに教えてもらい焦がしバターを作ってみる。思いのほか使い勝手が良く上手くできた。それを、サラダ油と一緒に生地に入れて混ぜる。


 これで生地の完成だ。


 生地が出来たら、それを両面焼き用フライパンで挟み焼き。


 本当は凹凸のあるものであればと思うが、魔道具のコンロの火力調整が優秀なため、少し焦げはしたが美味しそうに作れたと、若月は自画自賛した。


――そう、作ったのは『ワッフル』。


 丈二がカクテル用にベリー系のジャムを作っていたため、バターとそれを掛ける。サニーの入れてくれたリンゴ茶をカップに入れて、特製ワッフルセットの出来上がり♪


「わぁわぁ。美味しそうですね~。帰ってくるのが遅いご主人様が悪いですよね?若月様。先に食べてしまいましょう。」

 サニーが大興奮で若月を急かす。


「そうしましょう♪そうしましょう♪」

「「いただきま・・・」」



「あ?何やっ!お前ら美味そうなもん食ってるなぁ?ワシにもよこせや!」


 突然の偽関西弁。

 振り向くと冒険者組合で頭を撫でてくれた竜人族の先輩がいる。


「お!ねえちゃんやないか?何や。糞粒猫の面倒を自分がみてん?」

「あ。はい。今日から当面。というか…一生。。。」


「はぁ?一生?こんなん一生面倒見たら禿げるでぇ?」

「いろいろありまして…。」


「まぁ。それは後でゆっくり聞くとして、自己紹介や!ワシはカットレイ。チーム(仮称)みたらし団子の団長、カットレイ・チョコガケや!」


「私は若月です。えーと、ワカツキ・ミヤムラです。昨日冒険者になった新参者です。よろしくお願いします。」


「おう。よろしゅうな!で、その美味そうなもんは何や?」

「ワッフルという私の国のお菓子です。」


 ほお~と、そのお菓子を見つめるカットレイの口元は涎がタラタラ流れている。


 お代わりを考え、4人分を作っていた為カットレイにも取り分けお茶を入れると、目を輝かせながら「ええ子やなぁ~ええ子やなぁ~。」と頭をまた撫でてくる。


「カットレイ様。私はもう我慢できませんので、早く食べましょう!」

 サニーの目が座りかけている。


「お…おお。サニーはん。すまへんでしたなぁ。じゃ~早速~~。」



「「「イタダキマス!」」」


 ※ ※ ※ ※


「こ…こ~れ~は~~!!!んまい!美味いでぇえええええ!!!」

 カットレイが、目と口から光を出して叫んでいる。


 サニーなんかは、もくもくと涙を流しながらワッフルを食べている。

 若月も、慣れないキッチンで、ここまで美味しく出来て感無量である。


 口からの光が消えたカットレイが言う。


「なぁ。これ…ヤバいなぁ。ワッフルええなぁ…。ワシ等のチーム名(仮称)なんよな~。ワッフルにしたくなってまったわぁ。どやろ?」


「どやろと私に言われましても…。」

「何やっ!!自分ギルド決まってるんか?なぁ?」


「いえいえ。今は、リリアさんにお願いをして、お師匠様を探しをしている最中でして。」

「おお。なら、ワシがその師匠になったるから。君、うちに入りぃな。な?」


「ふぇ?」


「うちに入る条件は、冒険者であること。もうひとつは、それ以外の特技があることなんや。例えば、これに掛かっとるジャムは、うちのAB氏アビーが作っとる。小麦粉とかはAD氏エイディが作った小麦や。」


「え。でも、私は何も作れませんよ?」

「はぁ?何いっとんのや!あほなんか?君。このワッフルを作ってるやないかぁ!十分やでっ!」


「え?えええ?恐らくこれマスターも作れますよ?」

「ん。その物言い。君もそっち系かいな。」


「はい。恐らくカットレイ様のお考えの通りかと。」

 と、迷い人と感づいたカットレイの質問にサニーが答える。


「なら、それだけでええやんか!おもろいで。」

「そんな簡単に決めていいのですか?私冒険者としては昨日デビューですよ?」


「それ言ったら、ワシ等とにいちゃんがチーム立ち上げたの冒険者デビューの日やで?しかも糞貴族のせいで、どっかのダンジョンのボスをペアで戦わせられて散々だった日やで?」

 彼女は、黒蜘蛛とのことを思い出し目が血走っている。


「ふ…ふぇえええ…。」


「ふん。まぁええ。でな?その時にもワシはにいちゃんに言ったんやが『往生際が悪いもう諦めぇ~』やでっ!」


「ふええええええ。」


 ※ ※ ※ ※


 その後、組合から帰ってきた丈二が、お代わりをしてワッフルを満喫しているカットレイから、「このねぇちゃんをチームに入れるで?」と聞かされ、諦めたように「折角の俺の育成プランが台無しだな…」とため息をついた。

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