027 緑雷の盾を砕く

「シャァアアアアア」


 急接近してきたブルーバレットに動揺したガルダスティングレーがワンテンポ遅れて再度の雷撃を放つが、それをルッタは易々と避けていく。


(攻撃のタイミング、発射時の動作、ダメージを受けない距離。全部『見せてもらった』。そんな雷の殻に篭ってこれまで楽に倒せてこれたからパターンが決まっちゃったんだろうけどさ。ワンパターンの巨大ボスなんて)


「ただのデカい的だろうよ!」


 そして距離を詰めたルッタが魔導散弾銃のトリガーを引くと重弾が放たれた。


『無理だ。また弾かれる!?』

『直撃だとしてもアレは抜けないぞ』


 それを見ていた天領軍から漏れた言葉は正しい。彼らもプラズマスティングレーは攻略し、緑雷のシールドをはがす方法は把握している。けれどもガルダスティングレーの機動力を前に攻撃を集中してシールドを剥がすことができないでいたのだ。

 またルッタの放った銃弾は近距離であれば魔鋼砲弾に匹敵する威力はあるが所詮は一発。先ほどオルベインの放った魔鋼砲弾とは違って真正面からの直撃だったために弾が逸らされることはなかったが、爆発が起きてもシールドは剥がしきれず、ガルダスティングレー本体にはダメージが届かない。けれどもそれはルッタも織り込み済みのこと。


「俺の散弾銃は二連なんだよなぁ」


 続けてルッタが水平二連式の魔導散弾銃のもう一方のトリガーを引き、さらに重弾を撃ち放つ。巧みな操縦技術によって動き回るガルダスティングレーに並走していたブルーバレットからの二撃目は先ほど放った箇所への精密な射撃だ。その直撃によっても爆発が起こり、ガルダスティングレーの緑雷のシールドの一部が剥がされる。けれどもやはり本体までは届かない。


『まさか続けて当てるとは。だが、それでもダメージはないのか』

『いや、待て。アレは』


「ギュルァアアア!?」


 ガルダスティングレーから苦痛の叫びが木霊する。


「二発目で当たってないなら、三発目で当てりゃあいいだけだろ」


 緑雷を放つ魔力結晶が砕けたのだ。それは剥がれたシールドの先にあり、そして砕いたのは黒い剣であった。


「直撃二発でバリア解除、三度目でダメージは通ると。心の攻略メモに書いときますか」


 そう口にするルッタがブルーバレットの左手から伸びたワイヤーアンカーを引き戻すと、その先には黒牙剣が付いていた。魔導散弾銃二射でバリアを破壊した直後にルッタは黒牙剣を投擲していたのだ。

 そしてワイヤーアンカーを通じて魔力の通っている黒牙剣は魔力刃を纏っており、それは確かにガルダスティングレーの魔力結晶を打ち砕いていた。


「ギュェエエエエエエエエエエ」

「可愛くない声だな。うわぁあ!?」


 緑雷の雨が一斉にブルーバレットへと放たれる。


「ハッ」


 即座に弾を込めた散弾を撃って、複数の雷を相殺させる。どちらも魔力で構築されたモノである以上、シールドと同様に相互干渉により相殺されるのは道理であった。けれども初めてのダメージによって恐慌に駆られたガルダスティングレーの攻撃は続いていく。それははたから見ればあまりにも恐ろしい光景だ。


『不味いぞドラゴンスレイヤー』

『一旦退くんだ。死んでしまうぞ』

「退く? 逆だよ。ここは進めのタイミングさ!」


 警告の声を無視してルッタはブルーバレットを加速させ、散弾を撃って緑雷を相殺させながらガルダスティングレーへと突撃していった。その姿に騎士団から悲鳴があがる。


『な、何をしているのだアレは』

『自殺する気か!?』

『だが……動いている?』

「グガガガ、や、やっぱり、防御フィールドも薄くなってるよね。グゥッ」


 緑雷のダメージがコックピット内にまで響くがルッタは歯噛みして耐えながらアームグリップを振り切る。

 緑雷は効果範囲こそ広いが威力はそれほど高くはない。だからこそ天領軍も満身創痍でありながら辛うじて稼働している機体も多かったのだ。ましてや緑雷を放った攻撃は相殺し、内部の魔力結晶から雷撃を放っているシールドも薄くなっている。耐えることで対処が可能だと推測したルッタの考えは正しく、ついに刃は届いた。


「このまま潰していく。独楽斬り!」


 そしてルッタはテンキーもどきデバイスを操作してブルーバレットを独楽の如く回転させながら表皮を切り裂き、ガルダスティングレーの体から生えている魔力結晶をも次々と砕いていく。


「ううりゃぁああああああ」

「ギュガァアアア」


 ガルダスティングレーが咆哮し、体を捻ってエラの一撃をブルーバレットに見舞うが、ルッタは即座に距離を取ってそれを避ける。


「ハッ、ハァ。糞ッ、いったいなぁ。ダイバースーツがなきゃ死んでたんじゃないか? 機体の方は……問題はないか」


 大量に吹き出した汗を拭いながらルッタが自機のチェックを行う。

 コーシローが聞けば「問題大有りだ」と声を荒げたであろうほどに機体のダメージはあるが動作に関しては確かに問題はない。何よりも賭けた分に見合うだけの成果はあった。


「はっは。防御フィールドを解いたか。維持ができなくなったのかな?」


 笑うルッタの目の前には、全身を覆っていた緑雷のシールドが解けたガルダスティングレーの姿があった。そして、その全身からはまるで怒りが形となっているように噴き出ているオーラがルッタの目には映っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る