ますぷろ 〜ファンタジー世界で量産機しか乗れない俺だけど、プレイヤースキルで専用機やエース機や決戦兵器やドラゴンをブッ飛ばす!〜

紫炎

蒼い弾丸の章

001 雲海の戦い

 それは月の光が照らす真夜中、淡い緑の光が輝く雲海の上で起きていた。


「……ゴーラが撃ってきた」


 雲海のところどころで岩山の頭が出ているのが見えており、それらは地上から伸びた山脈の頭であった。そんな雲海の一角で発生した爆発によって放電する雲の柱が発生し、爆発時に発生した魔力光によってその場にある三隻の翼の生えた船の姿が照らされる。雲海に浮かぶその三隻は、一隻を二隻が追うような形で展開されており、追っている二隻から続けて光弾が放たれると、追われているのだろう船の近くまで接近した後、光の壁に阻まれて爆発して再び周囲の雲を散らしていく。


「ギア、状況はどう?」


 そして追われる側の船内にいる少女がそう口にした。

 彼女がいるのは狭い鉄の部屋の中であった。周囲には何かしらの情報を投射した光の板が複数並び、爆発音と共に反応を見せている。それらの情報を読み解き、少女は今の状況を的確に把握していく。


『リリか。追ってきているのはゴーラ武天領軍のサングリエ艦級二隻だ。こんな片田舎まで追ってくるとは、人気者は辛いな』


 落ち着いた男の声がスピーカーから返ってくる。その直後に再度爆発音が響き、別の男性の声も響いてくる。


『副長。待ち伏せだ。岩陰からの砲撃。ケニー機が撃墜されました』

『マジかよ、あのクソルーキー。あとで回収するからマーキングはしとけ。艦長、そろそろいいんじゃないっすか?』

『ああ、そうだな。リリ、行けるか?』

「うん、問題ない」


 リリと呼ばれた少女がそう返すと、目を細めながら自分の魔力を『彼女の乗っている機体』へと流し込んでいく。ソレは5メートルはあろう巨大な鉄の巨人であり、彼女は今、その中にいた。


『シーリス機が奇襲してきた三機と接敵。ッ……後方のサングリエ艦級からアーマーダイバー七機が出てきました』


 アーマーダイバー。足から機械の翼を生やしたソレは現在彼らが乗っている船と同じ様に、人を乗せて雲海を渡る機械人形の呼称であり、この雲海上での戦闘でもっとも使用されている兵器の名であった。


『奇襲が三、後方が七。サングリエ艦級一艦の搭載数は五機ですから、これで出切りましたかね艦長?』

『そうだな。リリ、ジェットはタイフーン号の護衛に回す。相手は七機と船二隻だ。ひとりでやれるな?』

「問題ないよギア」

『なら頼んだ。シーリスが片付いたらそちらに回す』

「了解。それまでにはカタがつくと思うけど」


 そう口にしたリリの声色からは興奮や緊張といったものが感じられない。ただ当然のことを当然のように行おうという淡々としたものだった。


「フレーヌ出るね」


 リリがそう口にすると機体を固定していたハンガーのロックが解除され、タイフーン号のガレージから船底に開いた穴へと落ちていく。


「ルミナスウィング起動」


 そして雲海の中でフレーヌの脚部から半透明をした光の翼が出ると、一気に雲海上へと浮上していく。


『オリジンダイバーが出てきたぞ』

『乗り手さえ無事なら機体を破壊しても構わん。オリジネーターの確保を優先しろ』


 対してリリの乗るフレーヌに迫るのは七機のアーマーダイバーだ。

 流線形の、細身の騎士のような形状をしているフレーヌと比較すると重装甲の戦士のような印象を持つソレらはゴーラ武天領で製造されているアーマーダイバーの量産機フォーコンタイプだ。


「さっさと終わりにしよう。シルフ、行って!」


 リリの言葉とともにフレーヌの背部に装着されていたパンケーキのような薄い円柱状の物体が四機飛び出した。

 その円柱は上部の装甲が開いて中から魔導銃が、下部の装甲が開いてプロペラのように回転するウィングを出現させて雲海の上を滑るように飛んでいく。フレーヌの専用兵装であるタレットドローン『シルフ』。リリの思考に従って高速で動く四機の移動砲台が雲海上を走り、ゴーラ武天領軍のアーマーダイバーを襲撃する。


『なんだ、これは?』

『情報にあっただろう。タレットドローンだ』

『しかしこれは速ッ ギャァア!?』


 四方より放たれる銃撃によってフォーコンタイプたちの動きは乱され、そこに魔導長銃を構えたフレーヌが一機、二機、三機と魔鋼弾を当てて雲海に沈めていく。


『チィ、リリ・テスタメントの実力を甘く見ていたか。集結し防御陣形だ。背を向かい合わせて敵の攻撃を……む?』


 落とされる部下たちの状況に苦い顔をしながら指示をしていたゴーラ武天領軍の隊長だが、けれども次の瞬間に白き光を目撃する。


「キャリバー。そこは全部私の間合い」


 一瞬で距離を詰めたフレーヌの持つ剣から伸びた50メートルはあろう光の刃が薙ぎ払われると、集まった四機をまとめて斬り裂いた。


『こちらシーリス、奇襲を仕掛けてきた二機は仕留めたよ。それで助けはいらないみたいだねリリ』

「うん。こちらリリ。残りは戦艦だけ……あ、白光弾が上がった」


 もはや敵側の戦力は軍艦のみ。けれどもアーマーダイバーなしでは落とされるのも時間の問題。そう察したのであろうサングリエ艦級はすぐさまその場で停止し、降参を示す信号弾を上げてきた。

 結果として戦闘は『風の機師団』と呼ばれるハンタークランの勝利に終わり、大破した自分たちの機体を回収するとその場を後にし、ルートを悟られぬようにいくつかの雲海流を経由しながら目的の天空島に到着した。そして……



「うわぁッ」


 とある雲海に浮かぶ天空島の港町でひとりの少年が目を覚ました。

 悪夢でも見ていたのだろう。ベッドから起き上がり、冷や汗をかきながら目を見開いている少年の名はルッタ・レゾンという。

 幼き頃に父と母を亡くし、両親の知己である老人に育てられている十二歳の少年は、『この世界のものではない記憶を持つ』という特異性を有してはいたが、地位も名誉もない、魔力も一般人並みにしかない、ただの市井の少年であった。


「ハァァアアア……またあの夢かよ」


 そして、この大きく息を吐いて額の汗を拭った未だ何者でもない少年がひとりの少女と出会うことにより物語は始まることとなる。その時はもう間も無く……

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