第137話 涙の定期券と駅前自転車置き場
わからないことをしようとする時はワクワクしたいが、いまはイライラする。
先日職業訓練コースのための最寄駅から授業を受ける駅までの定期券とやらを買ってみた。
ICカードかSuicaか、モバイルSuicaの場合は使った金額と移動区間がわかるものを提出せよ、とあった。
正直モバイルSuicaを普段、ここ数年電車に乗れるようになってからは使っていたからモバイルSuicaにしたかったのだが、プリンタが壊れてる以上向こうの欲しがっている情報を提供できない。
コンビニとかで印刷できるのか?
できるとしてもどうすれば希望されている情報を渡せるのか情報弱者の自分にはわからない。
結果定期券(Suica)を買うことにした。
ICカードとSuica何が違うんだろう?
プリントには二種類のカードが記載されていたように思う。
わたしには定期券と自転車置き場の件で両親に迷惑をかけた経歴がある。
高校入学時。
自律神経失調症で吐き気が止まらず、動悸がおさまらず、もう通えない、と入学してから木曜日だったか。とうとうバタンキューしてしまった。
母は抱きついて泣いた。「止水ちゃんおねがい、今日行けたら次金曜日だから、そしたらつぎはお休みだから、おねがい」毎日、中学二年の寒い時期になると具合が悪くなり辛かった。いつかみんなの前で嘔吐するのでは。給食は貧血なのか匂いだけで食べられなくて牛乳はパックなので飲めた。
おねがい、おねがい、お願いされても動けないことに涙を流して気づいてくれたのは父だった。
「もうだめだ、躁鬱とか、そういうのだ、これは」
入学して三日か四日で不登校になってしまった。
定期券と自転車置き場のお金はすぐに両親が払い戻しを頼みに行った。自転車置き場屋さんはすぐわかってくれたらしい。「行けなくなる子いるんだ」と。こういうことはある。
長い年月が経ち、今度は、ちゃんと半年通えるんだかわからないけれど一ヶ月の定期を自分自身で買った。この記入であっているんだろうか?更新する時はこのこの青い日付の文字は更新されるんだろうか?一度に一万五千円なんて気にならないくらいすんなり渡している。
「定期券をSuicaでください」
と言ったら怪訝な顔をされた。
「定期券が欲しいんですね?」
はい、と言ったら
「では、Suicaで発行します」
……なにがちがったんだ。
デジポットってなんか、損した気分だな、と思う。
五百円。
いつか、いじめられて辛かったこの町を出たい。
いじめてきたやつに謝らせて、反対にわたしがいじめてしまった人たちには彼ら彼女らが望むなら謝罪しようと思う。助けられなくてごめん。
いま、助かりようがない人生だ。
父に言われる。止水はもう、終わりを見ている。
当たり前の悲しいサガだ。
一個一個の目処を立てている余裕もないくらい、電車にも乗れず、いじめには苦しめられ、パワハラ耐性もなく、それでもなにか努力しているようにしなくては。つい最近まではそんなつもりではなかった。
この歳で勉強ができるのだからありがたいものだ、と。でも、いざ通うとなるとお薬のせいで起きられない自分に不安がある。半年のうちにパニック障害がでたら電車に乗ってられない。不安なんだ。そして、その不安が苛立ちになる。
どうしてこの職業訓練を受けなければならないんだろう。本気でやらないくらいの心算のほうが、傷つかなくていい。
小学生の頃の夢はバリキャリだった。家が貧乏ならわたしがバリバリ稼いで母や妹を助けにくる。父は知らない。
父はむかし、仕事をちょこちょこ休む人だったらしい。わたしが自分の症状を言うと「俺もそうだったのかもしれない」という。
しかし、父は精神科にはかからず、薬も必要としない。
もうすぐ入校式がある。その前にハローワークで書類の写しなども渡されるとおもう。
楽しんでけ。
十代で勉強できなかったんだから、半年くらい、学生気分で室内履きやジャージを用意して、生きていこう。もう、夜の十時だ。
近々借りていたアパートの鍵もエアコンクリーニング代とともに返す。封筒がなくてジップロックに鍵とお金を入れていて見た目があんまりなのでどうしようかとおもっている。
今日はお風呂に入れた。シャワーのみだけど。薬用サクセスで脂を落として、Luxでうねりを軽減。
前に入れたの何日前だっけ。次入れるのいつだろう。そんなことをかんがえている。考えてないか。
そのうちまた母からお風呂入ってください宣言がくると思う。
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