第27話 頭に「ひ」のつく映画といえば?

 まず冒頭でお断りしておきますが、これから語る内容で「犯罪」を取り上げますが、助長・賛美する趣旨はありません。ご了承ください。


 と、マジメな序文で始めましたけれど、今回、頭に「ひ」のつく映画、「ひき逃げファミリー」を紹介します。


 1992年の邦画。監督は水谷俊之、出演は長塚京三、中尾ミエ、ちはる、橋本光成、大島蓉子、岩松了、大高洋夫、石井苗子、一条ゆかり、大杉漣、仲谷昇ほか。


 中年サラリーマンの元村は、会社の接待ゴルフを終えて、帰宅のために大雨の中で車を走らせていました。

 そんな中、疲れが出て注意力散漫になっていたせいか、誤って女性を轢いてしまいます。

 すぐに車から降りて手当てをするなり、病院に連れて行けばよかったのですが、動揺した元村は、そのまま逃走。


 帰宅した夫の様子がおかしい……普段と様子の違う元村に、妻の葉子が尋ねると、元村は「人を轢いて、逃げてしまった」真実を話します。

  

 気の弱い元村は「自首する」と決意するのですが、葉子は「家族はどうするのよ!」と反対します。


 元村家は5人暮らし。夫の元村裕史、妻の葉子、長女のあずさ、長男の陸王、元村の父親の義一郎。


 平和で、問題のない家庭……というわけではありませんでした。


 心配している妻の葉子も、普段はカラオケだテニスだと自分の趣味を優先して遊んでばかり。長女のあずさは職場の上司と不倫関係にあります。長男の陸王はイジメが原因で学校に行くことができず、登校拒否で引きこもり生活、時折家族に暴力を振るったりもします。父親の義一郎はボケ気味で、亡くなった妻に似ている女性を家に連れて帰ろうとするなど、目が離せません。


 そんな中、夫が犯罪者となってしまったら、完全に家庭が崩壊する……妻の葉子は恐れていました。


 家族で話し合った末に「隠蔽しよう」という結論に達します。


 轢いてしまった証拠が、この世から消えてなくなればいいのです。


 元村は、女性を轢いてしまった車と、まったく同じ車種、同じ色の車を買いました。


 そして、ぶつけた跡が残る「女性を轢いた車」は、家の中に入れて隠し、家族総出で分解・解体して、細かなパーツを少しずつ燃えないゴミの日に捨てることで、完全に証拠隠滅しようと計画するのです。


 家族崩壊を回避するため、この秘密は絶対に守り通すしかないんだ……。

 不思議なことに、その一念で家族が一丸となり、皆で協力し合います。

 ひき逃げを起こす前よりも、ひき逃げを起こした後の方が、家族としての絆の結びつきが強くなり、心が通じ合ったかのような……そんなブラックコメディーです。


 一般家庭の狭い居間の真ん中に車を置き、車の屋根をテーブル替わりに食事したり、というシュールな光景がインパクトあります。 


 当然ながら来客など迎え入れることができませんが、近隣の人にあやしまれたり、中でも近所の好奇心旺盛なおばちゃんがしょっちゅう様子を伺いに来たり、ボケ老人なおじいちゃんが事の重要性に気付かず、秘密を話してしまうのでは……とスリリングに盛り上げる一面もあります。


 心をひとつにして、懸命に車を解体していく家族たち、しかし罪の意識に苛まれた元村は、こっそりと会社に辞表を出し、警察に行こうとする……さあ、この「ひき逃げ」の隠蔽劇はどう幕を下ろすのか!?


 私がこの作品を初めて見たのは、地上波の深夜で放送していた1990年代のことでした。

 内容をまったく知らないまま、新聞のテレビ欄で「ひき逃げファミリー」というタイトルを見つけて興味を惹かれて、見た次第です。


 ブラックコメディが好きだった私は、その面白さに、「見た翌日に、レンタルビデオショップに行って、同作品をVHSでレンタルして、もう一回見返す」ということをした記憶があります。


 1994年には「ひき逃げファミリー2」も製作されましたが、ストーリー上の繋がりはありません。こちらは錦織一清・飯島直子主演で、当たり屋の男を轢いてしまった若いカップルが、車に男を積んでの逃走劇となっています。


 余談ですが、この「ひき逃げファミリー」という作品で長女を演じたちはるは、確か当時、ウッチャンナンチャンの番組で顔をオレンジ色に塗って「マモー・ミモー」のミモーだった頃で(笑)、そのギャップにびっくりしました。

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