第9話 頭に「け」のつく映画といえば?

 バタバタと忙しい日々を送っていると、


「あーあ、田舎に行って、農業とかやって毎日のんびり暮らしたいなあ……」  


 と、“日常から離れた非日常なハッピーライフ”をぼんやり夢想することがありますが、昔ながらの牧歌的な生活を、先祖から受け継いで、現在でも頑なに続けている集落が実在するとしたら、それは彼らにとっては非日常ではなく日常なのかもしれません。


 というわけで、今回は頭に「け」のつく映画、「刑事ジョン・ブック/目撃者」を紹介します。


 原題は「Witness」。「目撃者」という意味ですね。


 1985年のアメリカ映画。監督はピーター・ウィアー、出演はハリソン・フォード、ケリー・マクギリス、ルーカス・ハーツ、ジョセフ・ソマー、ダニー・グローヴァーほか。


 夫を亡くしたレイチェルと幼い息子のサミュエルは、故郷の村で葬儀を終えたあと、ボルティモアにいる親族のところへ出かけます。

 駅のトイレで、偶然にもサミュエル少年は、二人組の男が人を殺すのを目撃。


 事件を担当した刑事のジョン・ブックは、レイチェルとサミュエル母子を警察署に連れて行き、容疑者と思われる人物たちの面通しを行うのですが、そこには殺人犯の姿はありませんでした。

 しかし、署内の壁に掲示されていた新聞の切り抜きを、偶然見かけたサミュエルの態度から、ジョンが気づきました。

 

 その新聞記事に載っていたのは、署内の麻薬課のマクフィー刑事。


 刑事が殺人犯……ジョンは、すぐに本部長に相談しますが、その日のうちにマクフィー刑事の襲撃を受けてケガを負ってしまいました。

 マクフィー刑事と本部長はグルで、裏で繋がっていたのです。


 警察仲間は頼ることができない……。負傷したジョンは、レイチェルとサミュエル母子と共に、彼女たちの故郷であるアーミッシュの村に避難します。


 レイチェル宅でケガの療養をするジョン。

 アーミッシュの村で、大工など手伝い、村の生活にも馴染み、レイチェルとも親しくなっていくのですが、そこにも警察の追っ手がやってくるのです……というアクション・サスペンス。


 刑事である主人公が、警察関係者の犯罪を掴み、同僚に追われる立場になる……というサスペンスも盛り上がるのですが、私はこの映画で初めて「アーミッシュ」という文化を知りました。 


 レイチェルとサミュエル母子が暮らす村の「アーミッシュ」の生活というのは、現在でもアメリカやカナダの一部の州で実在する文化です。


 18世紀当時の生活を、宗教上の理由から守り続け、農業などで自給自足の暮らしを続ける一族。

 電気のある文明を避け、電話や家電品も所有しませんし、自動車も使いません。

 家での照明はローソクやランプですし、移動手段は主に馬車です。

 音楽も、一族に伝わる讃美歌を歌うくらいで、他の歌や音楽を聴くことも禁じられているとか。

 彼らが編む刺繍は地域のお土産として珍重されている他、アーミッシュの生活エリアは観光資源としての側面もあります。


 素朴で牧歌的、必要最低限の物しか持たないアーミッシュは、最近の言葉で言うなら「ミニマムな暮らしぶり」とでも表現できるでしょうか。


 アメリカのとあるドキュメンタリー番組で、

 「アーミッシュの十代の若者を、都会の娯楽に染めさせたらどうなるか?」

 という番組をやっていたのを見たことがあります。


 普段、テレビ番組どころかテレビ自体見たことがないようなアーミッシュの若者たち数人を、高層ビルが立ち並ぶアメリカの都市部で一か月近く生活させ、毎日のようにゲームやファッション、大量の情報の娯楽文化に触れさせて「それでも帰りたい? こっちに住みたくなった?」と聞く、なんとも意地の悪い内容。


 それでも彼らは「自分の親もずっと続けてきたことだし、帰りたい。こっちの生活は楽しかったけど、居場所はここじゃない」と言って、“帰ること”を選択するんですよね。少し寂しそうな彼らの表情が印象的でした。


 私だったら、テレビや、スマホや、パソコンやゲームなしの生活など、まるで想像できない……文明に染まっちまった悪いオトナだなあ。


 うーん、たまにはいいかもしれないけど……山奥の温泉旅館とかで、電波が届かないようなところで「デジタルデトックス」として一切周囲との連絡を絶つとか……。

 でもやっぱり、スマホが無い生活は、キツイかも。

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