004-5 はじまりの国 3日目 さらばドンク



「無視された。ぼくはここにいるのに」


 唇を尖らせたピコバールは唖然としていた。ドンクとカザリアたちを静観し、出番をうかがっていたのだ。五職人ショクレンジャーは、みつけるどころか無視。とり巻き連中は素通りだ。


「おーい」と手をふってみたり、「ここだよー」窓ガラスをガンガン叩いて店内で暴れる奴らにアピールしたが、睨まれただけだった。


「ごほッ。迷信めいた言いがかりだな。子供が死んで町が助かるってんなら、いまごろ我が家は大金持ちだ。バカやってないで仕事にもどれ、ドンク」


 ドンクの説得を試みてるのは、カザリアに抱えられたレイヤー。意識を取り戻したのは何よりであるが。


「ひょっとしていまのぼくって、路傍の石」


 道端の石ころは、見えているのに認識されない。ピコバールは、服は黒っぽいドレスで頭から足まで身ぎれい。薄汚れたボロ小僧だった初日とは対局のリトルレディ。悪い笑顔になったピコバールは、こそこそ動きだした。ドンクら集団の背後にポジショニングしよいと、ひと抱えある立木の裏をまわっていく。


「王を取ったものだ勝つのだよ。ふっふっふ」


 ソローリ。

 ソローリ。

 あいむソーリ。


「ピコ! ピコ? どこにいくんだ」


 騒ぎに参加したそうに指を加えていたガオが、妙な歩き方をしてる相棒に、いまさら気づいた。


(……しーッ)


 口に指をあてて、黙れのジェスチャー。


「人差し指がどうした? 男たちの後ろにまわってなにする気だ?」


 万人に通じるシャラップの指サインが、よりによって相棒に通じない。


(口がないからって、前世を忘れすぎだろう!)


 分かりやすく大きく口をあけて、一語一語を区切って、口の形をかえる。


 だ・ま・れ


「な・ま・え? 何言ってんだピコ。オレはガオだよ」


 運搬車とドレス少女の、種族の垣根をこえたコミュニケーション。何人かがふり返ったが、あまり注意はひいてなかったが、ピコバールは、視られたと焦った。早く黙らせないと作戦が水の泡になる。


「でかい声をだすな! 探してる貴族の少女がぼくだってバレるだろうが!!」


 バレるだろうがーー

 るだろうがーー

 ろうがーー

 うがーー


 よく通る声が町に反響して、五職人ショクレンジャーの視線が集まった。


「んんん? まさかてめーが昨日のガキか、変装なんかしやかって」


 あっという間にピコバールは、立木ごと取り囲まれてしまった。


「こうなったら仕方ない!」


 背丈が倍近くある頑丈な大人たちは、10人はいるだろう。初級魔法少女は冷静になると、ポシェットに似せたホルダーからリボルバーを引きぬいた。


「おっと抵抗するのか? 弾がないのは知ってるぜ。大人しくお縄にかかれ」


「人を犯罪者みたいに」


 5人は、刺又のドンクを先頭に、職業道具をこれ見よがしにかまえた。少女は立木に縛られたように袋のネズミ。互いに目配せすると、包囲網を縮めていく。5人以外の大人たちも穴から漏らすまいと外周を固めていった。木材屋に使いをだすヤツがいるのは、つかまえしだい磔にかける算段か。


 全方位をふさぎ逃げだす隙は埋めた。拘束は時間の問題と、町の誰もが確信したとき。


 ズガン!


 足を撃たれて、ドンクが倒れた。


「っ痛ぇ! てめぇ、どこで弾を」


「無いなんって ぼくは言ってない」


 ズガン! ズガン! ズガン! ズガン!


 4人の仲間も次々に、手や足を撃たれて、のたうち回る。「次は誰?」と銃を構える少女に圧倒され、包囲の大人たちはひるんだ。


「ひるむな。そのリボルバーは6発だ」


 鼓舞するドンクは脂汗を流しながら片足で立ち上がる。ニタリと笑って刺又を握りなおすと、勝ちが決まったかのように、ここに当てて見せろと、胸板を誇示した。


「残りは1発。俺を撃って次はどうする」


「7発目を撃つだけだよ」


 ピコバールは銃を上に向けて、発砲する。


 ズガン! ズガン! ズガン!


 頭上の3本の枝に弾が当たった。破断し落下した3本は、どれも状態が違ってる、一本は破裂、一本はキレイに切断、そして一本には炎が燃えくすぶっていた。


「マニュアルは読んだ。こめた魔力で土でも火でも水でも撃てるぼくむきの魔道具だ。焼かれたい? 壊されたい? それとも溺死? 死に方を選ばせてやる」


「……てめぇ、魔法使いか!」


「町を封じこめるほどの貴族を捕まえるのだろう? 相応の反撃は覚悟のうえだよな」


 少女が、煙のでてない銃先にふっと息を吹きかけ、ジロリと睨んだ。


「殺される。に、逃げろ!」


 住民たちは、お助け―と叫びながら、四方に散らばるように逃げて行った。

 驚きで口がきけなくなったドンクは、あわわと、尻もちをついた。じたばたと逃げようとするが、撃たれた足が痛くて這うこともできない。


「忘れ物だ」


 ピコバールはその足を狙って撃った。


 ズガンっ


「ひぇっ」


 ドンクは、バネのように立ち上がると、痛みを忘れたように逃げていった。じっさい、痛みはなくなってるはずだ。リボルバーに込めた魔法は火でも土でもなかったのだから。


「光魔法。ヒール弾さ」


 荒野の一本杉にたたずんだガンマン。自らをそう設定したピコバールは、くるりと背をむけると、町から去っていった。向うのはすぐそこにある店だが。


「こうしてぼくを捕まえる会は散会したとさ。おしまい」


 どや顔で凱旋する相棒。軽戦車ガオは、横で見てるまに片付いてしまったことに不満顔だ。


「オレも暴れたかったのに!」


「ふっ。次回を待つんだな。それよりレイヤーは大丈夫か。助けないと」

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