第130話 怒りの桃乃
俺は桃乃が待っていると思われるところに急いで向かう。
「おい、慧待てよー!」
その後ろをなぜか笹寺が追いかけてきていた。
オアシスの中にいたオークの数を桃乃一人では、倒しきれない可能性がある。そもそも魔法にはある程度詠唱する時間が必要のはずだ。
「なんでお前そんなに速いんだよ!」
「逆になんでここにいるのにそんなに遅いんだよ」
あまり難しいことを考えない笹寺はインデックスファンドに投資していたはず。少なからず異世界でパラメーターが増加しているし、道場で見たあの動きから元々の身体能力も高いはずだ。
それなのに実際は俺に追いつけずにいた。
笹寺も長いこと砂漠にいてこれだけ走れるのなら体力お化けだ。
きっと一人で数日間生き残っていたことを考慮すると、魔物を倒す力もあるはずだ。
ただ、道中では一度も魔物と戦っていないのが引っ掛かっている。
そんな中、笹寺の足元からサンドワームが飛び出してきた。
「うぉ!?」
サンドワームは体が大きいが、足がとにかく遅い。鋭い歯で攻撃してくるため、一度も捕まらなければゴブリンとさほど強さは変わらない相手だ。
基本的に単体で出現するため、相手の動きを見極めれば簡単に倒せる。
「おい、お前なら倒せるだろ!」
「いやいや、冗談言うなよ」
それでも笹寺はサンドワームの攻撃を避ける程度で、攻撃しようとしない。
「一回本気で殴ってみろよ」
あの道場の時に来た衝撃は俺でも驚くぐらいだった。桃乃みたいに魔法タイプでなければ、異世界でさらに力が強くなっているはず。
「ああ、わかった」
笹寺は右手に作った握り拳を見つめる。覚悟を決めたのだろう。
突撃してきたサンドワームを手であしらい、そのまま右手で強く殴る。
「ウギャー! ウギャ!?」
サンドワームは突然の衝撃に驚いているが、笹寺の攻撃はサンドワームには効いていないようだ。
「何が違うんだ?」
俺はそのまま魔刀の鋸で切り刻む。何かが俺達と違うのは確かだ。
「はぁ……はぁ……ちょっと休憩しないか?」
笹寺は疲れているのか息切れをしていた。桃乃のことを笹寺には伝えていない。
今ここで休憩していたら、桃乃が本当にオークに襲われてしまう。
俺は笹寺を抱きかかえた。
いわゆるお姫様抱っこの状態だ。
こっちの方が動くことを考えると速いし、魔物の攻撃を避けるだけで済む。
走り出そうとした瞬間、空に向かって突然大きな火柱が立った。燃え盛るその炎は長いこと燃えている。
すぐに桃乃の魔法だと気づいた俺は火柱に向かって走り出した。
俺は笹寺を抱えたまま桃乃がいるところへ向かった。
♢
俺がついた時にはその場は荒れ果てていた。
「アースクエイク」
オークが走ってくるタイミングに合わせて、砂漠の砂を固めることでオークの足を引っ掛けて転がっている。
「ファイヤーボール」
その後起き上がる時間も作らずに、火属性魔法が放たれる。しかも、ほぼ同時進行で土属性と火属性魔法が発動されていた。
「服部いつになったら来るんだよー! 私を見捨てやがっ――」
どうやら地面より桃乃の方が荒れていた。
「おーい、ももちゃーん!」
おいおい、笹寺よ。
今このタイミングで桃乃を呼んで俺の存在に気付かれたら……。
はい、こちらに気づいた桃乃の顔が怒っていました。
「服部おせーよ!」
「はい! すみません!」
俺の声は裏返り、周囲に響いていた。それにしても桃乃の性格は普段とは異なり、田舎のヤンキーみたいだ。
「くくく、慧怒られてやんの」
俺に抱えられている笹寺は小さな声で笑っている。
「そこ! イチャつく時間があったら働く!」
桃乃の圧が今まで感じたことないぐらい強く、全身が震え上がるほどだ。俺はその場で手を広げて笹寺を落とす。
「イエッサー!」
つい勝手に体が動き、敬礼をしていた。
「痛っ!?」
足元で何か聞こえたが、今はそれどころではない。桃乃の機嫌を収めることのほうが今は大事だろう。
怒った女性は手がつけられないからな。
俺は魔刀の鋸を出すと、すぐにオークの元へ向かう。
装備を装着していないオークは、ただの太った人間だ。打撃の衝撃は吸収しやすいが、刃物は通りやすい。
俺はそのままオークに向かって横に薙ぎ払う。
一度で倒れるものもいれば、倒しきれずに傷口を押さえるものもいた。
再びオークに近づき大きく振りかぶる。
「ファイヤーボール」
しかし、俺の真横を火の玉が通り過ぎ、オークを燃やし尽くす。
「おい、ももちゃんあぶな――」
「ふふふ、一緒に燃えればよかったのに……なんてね?」
桃乃はこちらを見て笑っていた。
悪魔のような微笑みに、持っていた鋸を落としてしまった。
「あのー桃乃さん?」
「早くお前は戦ってこい!」
「わかりましたああああ!」
俺は再びオークを抹殺しにいく。俺を狙っているかのような魔法を避けつつ、桃乃の怒りを鎮めるために素早くオークを片づける。
ひょっとしたら異世界のSM嬢は桃乃なのかもしれない。
ほら、今も杖を俺に向けている。
「俺が悪かったですぅー!」
俺の声は周囲に響いていた。
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