第67話 大量虐殺
辺りは薄暗く奥に進んでいくと、足元からパリパリと何かが割れる音が聞こえている。
俺がそれを手に取ると色は白く、軽く圧をかけるだけで割れるほど脆かった。
「先輩、これって卵の殻ですか?」
何か見たことある物だと思っていたが、言われてみれば卵の殻のような気がしてきた。
「ひょっとして、この視線って……」
奥から感じる視線はこの卵と関係しているのだろう。俺は急いで目線を視線がする方に向けた。
「キイェー!!」
急に側方からキラーアントが飛び出してきた。
俺は飛びついてきたキラーアントに向けて、魔刀の鋸を横に構えた。噛みつこうとしたキラーアントの大きく開けた口は魔刀の鋸の歯に噛み付いていた。
「ももちゃんよろしく!」
「ファイアーボール」
突然の魔法発動のため、また火属性魔法を使っていた。
いつも使っている癖が抜けないのだろう。だが、直接キラーアントに当たり、もがきながら息絶えていた。
「先輩すみま――」
「気を抜くな!」
俺の声はダンジョン内に響いた。まだ奥から俺達を狙ってるやつらがいる。
火属性魔法が発動した時のわずかな明かりと燃え上がるキラーアントが部屋の中を照らした。
その後ろには大量のキラーアントの幼虫が待機していた。
「うぎゃー!!」
俺は驚きのあまり燃えているキラーアントを幼虫に向かって蹴り飛ばした。
「キュー!」
幼虫達は自分達が燃えないように、こっちに向かって逃げ回っている。
「いやいや、俺幼虫だけは無理なんだよ」
俺は桃乃を盾に後ろに隠れた。こういう時こそ後輩の出番だ。
「……」
あれ?
桃乃の反応がないぞ?
「えっ、ももちゃん……?」
俺が桃乃の顔を見ると彼女は既に意識が飛んでいた。
どうやって立っているのか疑問に思ったが、まずは逃げることが先決だ。
「
俺はプラントの種をいくつか取り出し木属性魔法を唱えた。これ以上、幼虫が溢れて出てくるわけにはいかない。
「これでもくらっとけ!」
おもいっきりプラントの種を投げると、すぐに蔓が伸びていく。
蔓が伸びることで蔓の壁ができれば、こっちに来ることはないと想像していた。だが実際は異なっていた。
蔓が幼虫達に絡みつき、締め付け出したのだ。性質としては近くにある物体に蔓を絡めるのだろう。
俺はまだまだ未知数の種に頼るしかなかった。
「キュー!」
次第に幼虫から緑の液体が飛び散り、幼虫は絞め殺されていた。プラントの蔓から幼虫の液体が静かに垂れ落ちる。
「ああ、結構残酷だな」
それでもプラントの蔓は動きが止まらず、常に幼虫を追いかけていた。幼虫達の鳴き声が響く中、俺は入り口で静かに見守っていた。
♢
「はっ!?」
私はいつのまにか気を失っていた。どうやら精神耐性のおかげで意識を失っていても、体はそのまま立ち続けれていたのだろう。
もう少し投資すれば気絶しなくて済むのだろうか。パッシブスキルの不思議さを改めて知った。
「おっ、やっと目を覚ましたか」
私は隣に座っている先輩にもたれて座っていた。どこか疲れた顔をしているその姿にも魅力を感じてしまう。
そういえばさっき気持ち悪い何かを見た気がしたが、はっきりとは記憶には残っていない。
「なんでここに座ってたんですか?」
「ああ、まぁあんな感じになってるんだ」
私は先輩が顔を向けた先に目を向けると、プラントの蔓が貼り巡らされていた。その下には緑色の液体が溢れていた。
「先輩これなんですか?」
「ああ、あいつらの死体だ」
蔓の隙間を覗き込むとそこには大量に積み上げられた幼虫がいる。
「ひぃー!」
そのまま腰が抜けてしまった。元々幼虫とかは苦手な方だが、あんなに大量に見ると精神的に……。
再び意識がぼーっとしてしまう。頬を叩くが勝手に瞼が閉じていくような感じだ。
気づいて再び目を開けた時には先輩が私の体を支えていた。
「私って気を失ってました?」
先輩に尋ねると頷いていた。どうやら知らない間に気絶していたようだ。
精神耐性よ。ちゃんと働いてください。
先輩に迷惑をかけないようにしないといけないと思った矢先にこの展開だ。
「あれは封印だな」
「あれですか?」
私が再び倒れている間、プラントの蔓はあの後も先輩の方へ近づいたが、何かに反応してすぐにキラーアントや幼虫に向かって蔓を伸ばしていた。
先輩が近づこうとしても絡まることもなく、敵のみを蔓で縛り上げて絞め殺していたらしい。
幸い私は離れたところで寝かされていたため、こっちには蔓が伸びてこなかった。
プラントの種を投げて蔓の壁を作る予定が、幼虫だけを狙って無差別に殺戮する蔓になっていたそうだ。
「キュー」
今も僅かに動いている幼虫を狙って蔓がこれみよがしに動いている。
意思を持っている蔓なのか、それとも先輩が植物に好かれている人物なのかは不明だが、私がいないところでは良い味方なんだろう。
「そんなに凄いことになってたんですね」
どういう構造で誰を狙って動いているのかわからない存在に私と先輩は恐怖を感じるのだった。
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