第66話 魔法のご利用は注意してください

「とりあえず木属性魔法を使ってみたらどうですか?」


「なんで?」


 急に木属性魔法を使うことを提案されたが、なぜ言われたのかはわからなかった。


「だって先輩呪文唱える時植物成長グロウアップって言ってましたよね」


 俺はどういった魔法かわかっていなかったが、桃乃はひょっとしたら気づいていたのだろう。


「多分、植物の成長を促す魔法だと思います」


 さすが魔法使いだ。うん……決して気づいてなかったわけではないぞ。


 植物成長グロウアップだもんな。


植物成長グロウアップ


 俺が種を持った状態で唱えると、少しずつ種はゴソゴソと動き、パカっと二つに割れた。


「えっ、動いたぞ」


 不気味に感じた俺は近くにある壁に投げると、種から蔓が飛び出てきた。


 あっという間に壁中に広がり、蔓は絡みついていた。その光景を見た俺達は驚いて、開いた口が塞がらない。


「……」


「先輩の魔法って結構すごいですね」


 俺もこんなことになるとは思ってもいなかった。突然蔓が伸びてきたら俺だってびっくりする。


 蔓を見ているとパッシブスキルが発動され、その正体がわかった。一度種が成長してしまえば、名前の表示が変わる仕組みらしい。


「こいつはプラントの種らしいぞ」


 どうやらプラントという植物型の魔物が飛ばす種らしい。まさかの収穫に俺はテンションが上がった。やっと魔法使いのような技を手に入れたのだ。


 ただ、種がないと使えないのが難点だ。


 それにしても種は存在するのに、プラントという魔物は一度も見たことがない。


「じゃあ、この種は先輩に渡しておきますね」


 桃乃も種を回収していたため、全ての種を俺が預かることになった。


「あれ、ももちゃんが持ってた種も違う種類だけど」


「えっ? どういうことですか?」


「いや、俺が使った種はプラントっていう魔物の種だけど、また名前が隠された種があってさ」


 桃乃に渡された種を確認していたら、また表示がされていない種があったのだ。


 俺はその種に再び魔法を使った。


植物成長グロウアップ


 今度も種が動き出すと種は割れ、中から蕾が出てきた。


「ん?」


 次第に蕾が大きくなり花が広がる。綺麗に満開の花が咲いたのだ。


「くっさ!?」


 俺はまた種……いや、花を投げてしまった。


「先輩、目が痛いです」


 どうやら刺激臭の元は突然大きくなった花から出ているようだ。


「今からここを出るぞ!」


 俺は桃乃にすぐこの場から離れるように伝えると、何者かに出口が封じられていた。


「ちょ、先輩が出した蔓が入口を塞いでいますよ」


 なんとプラントの種の蔓で入り口が塞がれていたのだ。めちゃくちゃ危機的な状態に俺達の判断はまともではなかった。


「うっ……ファイヤーボール」


 桃乃は火属性魔法を唱えて蔓を燃やした。植物だから火属性魔法に弱いらしく、すぐに燃え尽き通路は確保された。


 すぐに部屋から出ると目の前にキラーアント達がいた。その口には種を咥えている。


 きっと俺達がいたのは食料保管庫・・・・・だった。


「次から次へと問題を――」


「問題を作っているのは先輩の方ですよ?」


 原因は俺が勝手に魔法を使ったことで、魔物の種を成長させてた。若干桃乃の視線が痛いが仕方ない。


「はいはい、俺が倒しますとも」


 俺はキラーアントに向かって走り出した。それなのにあいつらは向かってこようとしない。


「えっ、なんでお前達も逃げるんだよ!」


 どうやらキラーアントは俺の力に恐れを感じ……いや、きっと後方の臭いだろう。


 意外にも蟻の嗅覚は発達していた。背後からの痛みに近い臭いが襲ってくる。


「ももちゃん逃げるぞ!」


 俺と桃乃はそのままキラーアントを追いかけるように悪臭から逃れた。





「はぁ……はぁ……」


 意外に悪臭は遠いところまで届いていた。ただの悪臭なら良いが刺激臭は問題外だ。


 臭いだけならどうにかなるが、とにかく目や鼻が痛いのだ。感覚としては違うが、スライムにあった下水路と似たような刺激だ。


「結局さっきの種はなんだったんですか?」


 俺は袋から種の名前を確認すると、一つだけ表示が変わっていた。


――ラフレアーの種


「ラフレアーっていうやつの種らしいよ?」


「ラフレア……ラフ……ラフレシアか!」


 桃乃は名前を何度も言っている、と何か閃いたようだった。


 ラフレシア……世界で一番大きな花と言われる反面、特徴は強烈な臭さが世界一と言われている花だ。


「そりゃー、臭いな」


「それで種は全部わかったんですか?」


 俺は袋の中を確認すると、まだ表示されていない種はあるようだ。


「まだ確認――」


 種を取り出して魔法を使おうと呪文を唱えるが、桃乃に手で口を塞がれた。


「いや、もうやめましょう。それにこの部屋なんか気持ち悪い感じがしますよ」


 逃げてきたこの部屋は、どこか不気味な感じがしていた。


 途中からキラーアントとは、別の道に進んだからこの部屋が何の部屋なのかもわからない。


 部屋の中からはたくさんの視線と音が聞こえてくる。俺達は武器を構え、少しずつ謎の物体に近づくことにした。

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