第63話 危険な果実? ※一部桃乃視点

 俺は桃乃と反対側で、池から右側へ回るように歩く。明らかにいつもより依頼の制限時間が長いため、桃乃の言う通り食料の確保は必要だ。


【植物の天使様どうされましたか?】


 突然俺の脳内に直接ドリアードの声が聞こえてきた。


 それにしても神々に選ばれし天使様が植物の天使様になっている。農家でもないのに、本当に木に関係することばかりだ。


「いや、食料とキラーアントの住処を探していて」


【私が教えた場所にキラーアントはいませんでしたか?】


「中々出てこないから違うところにいないかと今探しているところなんだ」


【そういうことですか。どちらもお手伝いしますね】


 ドリアードの声が聞こえなくなると、突然目の前に木が現れた。


 そこにはトレントと書いてあった。普段なら魔物のため、いつでも戦えるように準備するが、ドリアードに関係しているため、とりあえず様子見だ。


「ん? なんだ?」


 トレントは風に吹かれたように枝が揺れた。よく見ると自分自身で小刻みに揺れていた。


 木が揺れている光景はなんとも言えない気分になる。決してコボルト達みたいに可愛い姿とは言えない。


 揺れていると真上から果実が落ちてきた。どうやらトレントには、果実が実る種類もいるのだろう。


「ありがとう!」


 俺はトレントを撫でるとクネクネと動き、勢いよく去って行った。


 意外とトレントも可愛いかもと思ったのは、植物の天使と言われてるのと関係があるのだろうか。


「ん、なんだ?」


 トレントがいた足元には光り輝く葉が落ちていた。


 俺はその葉を拾うと、また脳内にドリアードの声が聞こえてきた。


【その果実はHPとMPが回復できる果実です。葉にはトレント達が集めたキラーアントの現在の巣の情報を入れておきました】


 俺は謎の葉を眺めていると地図のマークが点滅していた。


 一度タップすると前回はレ点が1つだけだったのが、無数の数が点在していた。まずは近くにあるレ点に俺は向かうことにした。






「おお、たくさんいるぞ」


 そこには巣から出てきたキラーアント達がたくさん出てきていた。きっと働き蟻なのか現実世界での俺を彷彿させる。


 隙を見て1体になったキラーアントに飛びかかる。


「お疲れ様です」


「キェ!?」


 蟻の魔物も鳴き声はあるらしい。キラーアントの声に驚いた。


 ゴブリンの時みたいに仲間を呼ばれると面倒なため、魔刀の鋸で体を斬りつける。だが、ゴブリンなどとは違い刃が全く通らない。


 キラーアントは俺を敵だと認識し、何かを吐き出したがバックステップし俺は避けた。


 吐き出したところを見るとそこには何かで溶けた木があった。どうやら酸を吐き出したのだろう。


「あいつらって遠距離型タイプなのか?」


 俺は酸に警戒すると、動きはそこまで速くないことに気づいた。


 体が硬い敵にはあれだけ無敵だと感じた魔刀の鋸も普通の鋸みたいだ。


 そんな中胴体部分をよく見ると、傷がついた胸部と傷がない腹部の境目は、何も守るところがないような見た目をしている。


 電車の車両同士の繋ぎ目のようなところだろう。


 俺はそこを狙って魔刀の鋸を振り下ろした。


 するとさっきは全く通らなかった刃が、スルッと通り、胸部と腹部は断裂していた。


 俺はそのまま頭部と腹部の間にも、振り下ろすとそこも簡単に刃が通った。


 どうやらキラーアントの弱点は、体の繋ぎ目部分にあるのだろう。


 俺はそのままキラーアントを回収すると、どうやら元々受けていた依頼は達成されていた。


 今の状態で家に帰っても失敗にはならないであろう。それだけでも気持ちが楽になった。


 俺は桃乃と分かれた池の中心部分に向かって歩き出した。





 俺が池に戻る頃には桃乃が先に着いていた。大きく手を振っている姿は怪我もなく無事そうだ。


「そっちはどうだった?」


「こっちにも穴がありました。キラーアントもいたので討伐しましたが、そっちはどうでしたか?」


「ああ、俺のとこもいたから戦ってみたけど、めちゃくちゃ硬かった」


 俺は袋からキラーアントから手に入れた甲羅を取り出した。


 その甲羅を地面に置き、魔刀の鋸で斬りつけるとそこには傷が少しできる程度だった。


「こんな感じに傷しかつかなかったわ」


「私も試したけどそんな感じですね」


 桃乃も水属性魔法を当ててみるが、魔刀の鋸と同様に少し傷が出来ていた。それよりも勢いで凹んでいたのが特徴的だった。


 鋸と同じ威力の水属性魔法もなかなかの高威力で使い勝手は良いだろう。


 車がぶつかったボディのように凹んでいる姿をみて、俺はまた魔法使いになりたいと思ってしまった。


「体のつなぎ目部分を切ってみたんだが、あそこだけ柔らかくて、命中できるのならそこを狙った方がいいぞ」


 俺はキラーアントの弱点を伝えた。桃乃はどうやら火属性魔法で燃やしたらしいが、穴の中では酸素も少ない恐れがあるため、火属性魔法を使うのは危険だろう。


「あとは速度が遅い分、酸を吐いてくるぞ」


「えっ? 私のところは酸は吐かなかったですが、逃げているスピードが早めでした」


 どうやらキラーアントの種類が様々あり、地面に絵を描いてもらうと、俺が遭遇したキラーアントは腹部が大きく、桃乃が遭遇したキラーアントは全体的に細長いようだ。


「あとは穴の場所が全部わかったぞ」


 俺の言葉に桃乃は驚いていた。俺もドリアードから教えてもらった時はかなり驚いたぐらいだ。


「どうしてわかったんですか?」


「ああ、ドリアードがトレントを通して教えてくれた」


「トレントってあのトレントですか?」


 桃乃は以前トレントの討伐を一緒に行っているため、トレントという魔物を知っている。


「ああ、それで穴の場所はわかったし、回復する果実をもらったぞ」


 俺が袋から回収した果実を取り出すと、桃乃も果実を取り出した。


「先輩が寝ていた時に取った果実と同じですね」


 どうやら桃乃も前から果実を集めていたようだ。それにしてもトレントから勝手に果実を取って、大丈夫なのか心配になった。


「トレントから勝手に取って大丈夫だったか?」


「ああ、あれトレントだったんですね……。襲われなくてよかったです」


 どうやら桃乃はトレントと木の区別がつかなかったが、襲われずに済んだらしい。


「じゃあ、今度はを一つずつ探索してみようか」


「そうですね。その前に回復する果実を食べてから行きましょう」


 俺と桃乃は果実を食べてから穴に入ることにした。


 果実はリンゴのような甘い蜜の味がして、梨のように水分をたくさん含んでいた。


 食べた瞬間から体が軽くなったのは、回復する果実の効果なんだろう。


 俺達は果実を食べ終わると、そのまま穴に向かって歩き出した。

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