第46話 驚き桃の木山椒の木

 俺はわかる範囲で魔法について桃乃に伝えることにした。


「まずは体の中にある魔力を感じるそうだけど……感じるの?」


 俺自身が魔法を使えるわけじゃないため、魔力を感じることもできない。


「やってみますね」


 桃乃は目を瞑り集中すると、次第に何かを感じたのか目をゆっくりと開けた。


 さっきより表情が集中しており、真剣な顔をしていた。


「あとは魔法を放つように使うらしいよ?」


 自分でも思ったが、ものすごく大雑把な説明だった。ただ、俺の中で知っている記憶はこれだけしかない。


 こんな説明では使えないだろうと思い、桃乃を見ていると、掌から突然炎を出し、空中に漂わせている。


 よくある魔法とは違いぷかぷかと浮いているようだ。


「おっ、おー!!」


 何もないところから、急に出てきた炎に俺は興奮した。


 初めて見る魔法と、急に感じる異世界感に俺の中の隠してあった部分が溢れ出す。


「俺の右手が騒ぐぜ。聖なる炎よ、暗黒なる闇を我が炎で焼き尽くせ! とか言ってみて!」


 俺は冗談で伝えると、桃乃は魔法を飛ばすトリガーだと思ったのかそのまま続けて言い出した。


「わっ……私の右手がさわわ騒ぎます。聖なる炎よ、うふふ暗黒な闇を我が炎で……無理です!」


 桃乃は恥ずかしくなり途中で詠唱を辞めてしまった。


 詠唱というよりは俺が厨二病ぽいセリフを言わせたかっただけだ。

 

 これはパワハラになるのだろうか。最近問題になることが多いからな。


 しかし、俺達の思いとは別に魔法が発動する。


「えっ!? えー!!」


 急に炎の火力が強くなり、目の前の瓦礫に向かって飛んで行ったのだ。


 瓦礫に衝突したと同時に炎は小さく爆発し、瓦礫が飛び散っている。


「あのー、ももちゃん? 思ったより火力が凄いんですが……」


 俺は桃乃の魔法に驚き、空いた口が塞がらなかった。それよりも桃乃の方が驚いていた。


 本人も魔法が使えるとは思わなかったのだろう。


「先輩これ火傷しますよね?」


 第一声が真面目なのは桃乃らしい。確かに言われてみれば当たれば魔物を倒すことは可能だが、俺にも被害が出そうな気もする。


「とりあえず、威力はわかったからゴブリンを見つけたらやってみようか」


「お前達この辺にゴブリンはいるか?」


 さっきまで各々遊んでいたのに、俺の問いかけた途端に近寄ってきては、すぐにお座りして聞いている。


 やっと自分達の出番になると、コボルト達は尻尾を振っていた。


「ガウ?」


「ガウガウ!」


 コボルトだけがわかるコミュニケーションがあるのだろう。コボルト達が話し合うと、1体のコボルトが動き出した。どうやら仲間内でゴブリンの居場所を確認していたようだ。


 俺達は近くにある武器を手に取り、ついて行くことにした。どうやら桃乃の武器は少し大きめの木だった。


 見た目も少し魔法使いっぽい。


 俺の武器はスコップ・・・・なんだぞ!


 完全に見た目だけは農家の人だ。


 しばらくコボルトについていくと、そこにはゴブリンが5体が立っていた。ポイズンスネークの時も感じたが、コボルトの索敵能力はものすごく優れている。


 一番強い魔物はコボルトで決定だ。


「じゃあ、桃乃あいつらに向かって魔法をぶつけてみてくれ!」


 桃乃がしばらく瞑想すると、また空中に炎が浮いていた。


「私の右手が──」


 桃乃が恥ずかしそうに詠唱していると、すぐに炎はゴブリンに向かって飛んで行く。


 小さな爆発とともにゴブリン達は燃え上がり悶えていた。


「顔に似合わずグロいことするね……」


「いや、私の顔とは関係ないですよ」


 桃乃の魔法は強力だった。当たった瞬間小さく爆発するため、すぐに周りを巻き込み燃え尽くしてしまう。


 森の中で使ったらニュースになるぐらいの大火事になるだろう。


「ってか呪文唱えなくて飛ぶじゃないですか!」


 桃乃はついに気づいてしまった。詠唱がなくても魔法が使えてしまうことを。


 頭が良いのに浮いている炎を見て、詠唱なしでもいけるかもしれないと思わなかったのだろうか。


「まぁ、騙されたお前が悪いな」


 俺と桃乃はゴブリンが燃え尽きるのを待っていた。ゴブリン達もだんだん弱まり、次第に倒れていく。


 周囲には肉が焦げる匂いと残酷な姿があった。


「うっ……」


 桃乃はそんなゴブリンの姿を見て嘔吐している。俺も初めの頃は耐性がなかったが、改めて考えると中々のグロさだ。


「改めて自分が殺したことを実感しました」


「それだけは通らないといけない道だからな」


 俺はそっと桃乃の肩を叩き、ゴブリンの回収を始めた。


「あれ?」


 俺はゴブリンに触れるが袋に回収されることはなく、遺体は残ったままだ。


 一瞬、回収機能が壊れたのかと疑ったが、考えたら今回の戦闘に俺は参加していなかった。


「体調悪いところごめんな。ゴブリンを回収してくれないか?」


 俺はぐったりとしている桃乃に声をかけた。桃乃は俺の言っていることをすぐに理解できたのか、恐る恐るゴブリンの死体に触れると、すぐにゴブリンの姿は消えた。


 これでわかったことは、パーティーを組んでいても戦闘に参加しなければ回収できないってことだ。


 あとは貢献度などで回収時に素材がどれだけ入手出来ているかの違いも確認が必要そうだ。


「先輩もう大丈夫です」


 桃乃はこの間よりもはやく落ち着いていた。パッシブスキルの精神耐性による影響だろうか。


「次は目的のスライムを倒しに行きますか」


 俺と桃乃はまだ見ぬ最弱な魔物"スライム"を倒しに歩き出した。

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