第28話 穴がすごいんです
「まずは証券口座を作ってみますね」
俺と桃乃は投資の話で盛り上がっていた。
桃乃はやはり人の話を聞くのがうまいため、俺はついついペラペラとまだ足りない知識で話してしまった。
後々考えればお金の話をこんなに酔っている状態で話すべきではない。
「おいおい、俺だけ仲間外れにしないでくれよ」
未だ笹寺は会話に入れずにいた。初めは俺の話に頷いていたが、気づいた時には首をずっと傾けていた。
そのまま肩と頭がくっつきそうな勢いだ。
「お前に関しては勉強しろ」
俺は笹寺に強く言い放った。人に頼っているこいつに関しては、自身の責任になるが俺が勧めただけあって心配だ。
「私が勉強したら今度は笹寺さんにアウトプットしますね」
「さすができる後輩は違うな!」
笹寺は桃乃の肩をバンバン叩いていた。若干痛そうな顔をしていたが、それでも俺とは違い世の中に適応する能力は高いのだろう。
「お前、それセクハラと暴力で訴えられるぞ?」
俺の冷静な言葉に笹寺は震えていた。
「ももちゃん俺を訴えないよな? な?」
「さぁ? どうしましょうかね?」
桃乃の冗談もどんどんレベルを増している。演技派なのか一瞬俺でも違う意味でドキッとしてしまった。
気づいたらビールのおかわりを何杯もしていたのに頭が冷静になる。
「そういえば、お前やっぱりなんか変わったよな?」
「ん? 俺か?」
なぜか笹寺は俺の体をジロジロと上から下まで見渡していた。
「俺の体に興味があるのか?」
「おいおい、変な誤解を招くことを言うなよ」
冗談で言ったはずが笹寺の顔を見ると赤くなっていた。ああ、きっとこいつも酔っているのだろう。
「確かに私も最近不思議に思ってました。半年前ぐらいから少しずつ仕事のスピードも早くなって、体もがっしりしてきて何かあったんですか?」
桃乃の視野の広さに俺も驚いていた。ちょうど俺が2回目の異世界副業でパッシブスキルを得たのがちょうど半年前だった。
「よく覚えているな」
「あの時の部長の驚いた顔が忘れられなくて」
初めて早く仕事が終わって、その日の午前中に部長の仕事を終わらせた時だろう。
その時ぐらいから少しずつ仕事の効率も上がり、今では毎日定時に帰れるようになっている。
「この前覗いた時のお前ってめちゃくちゃ動きが早くなっていたけど、後輩が言うってことはそんなに仕事が早くなったんだな」
ちょくちょく笹寺も俺のオフィスを覗きに来ているが、その時に俺の仕事ぶりを見ていたのだろう。
俺も客観的に考えると恐ろしい動きをしていると思う。
「まぁ、あれだな……」
「あれとは?」
「
俺は酔っ払って来ているのか。穴の話をしてしまった。
「穴ですか?」
桃乃は首を傾げていたが、笹寺はなぜかニヤッと笑い、俺と肩を組んでいた。
「おお、ついに良い女をみつけたか」
なんとか笹寺は勘違いしてくれたのか、俺は彼女なんていなかったが、そういう話に落ち着いた。
いや、このままでは女性に対して穴と言う方が失礼だ。
「いや、女性のことではないぞ」
「ということは先輩に彼氏が出来たんですね! 私も彼氏が出来たら仕事が早くなりますか?」
必死にフォローするがどんどん違う方向にいってしまう。本気で悩んでいる桃乃には悪いが、俺は穴に入れと言いたい。
「穴に入れば大丈夫だ!」
思ったことをつい言ってしまった。知らない人が聞けば聞くに耐えない下ネタだ。
むしろ多くの女性や同性愛者に対して失礼だ。
「私穴には入れないですよ?」
「よし、この後風俗に行くか!」
酔っ払い三人の会話は辻褄の合わない何とも言えない
いや、なぜそんな展開になるんだと思ったが俺も酔っ払って頭が回っていない。
「いやいや、先輩彼氏がいるからダメですよ。女性の私でもいけるんですか?」
ああ、やっぱり桃乃はしっかりしているなと思ったが彼女も酔っ払っているようだ。
考えることを放棄した俺は次第に瞼が閉じていく。
「おい、お前は行くよ……な?」
笹寺が振り返ったときには俺は寝かけていた。朝活で早起きしているから、すでに寝る時間だったのだろう。
「おいおい、お前良いときに寝るってどういうことだよ」
「ん? なんだ?」
俺の意識は曖昧になっていた。とりあえず俺はすぐに寝たかった。
「ああ、俺は寝る」
そのまま机に伏せそうになると桃乃が支えてくれた。
「先輩帰りましょうか。確か私の家と近かったですよね?」
「ちょっと財布の中開けるぞ。うぉ!? こいつめちゃくちゃ金持ってるからタクシーで帰っても大丈夫だぞ」
住所を確認するために勝手に俺の財布を笹寺は開けていた。そこに入っている財布の中身を見て驚いていたのだろう。
「あまり人の財布の中身を見ちゃダメですよ」
そんな笹寺を注意していたが、桃乃も中身を見て驚いていた。
確か証券口座にお金を入れるために、20万近く持ち歩いていたことを忘れていた。
「とりあえず電車にも乗れなさそうなので私が送っていきますね」
二人の肩を借りながら俺は家に帰るのだった。
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