第23話 称号
俺はコボルトに癒され、楽しい時間に浸っていた。するといつも通り脳内にアナウンスが流れてきた。
「あー、可愛かったな」
【コボルトの討伐お疲れ様でした。今回の報酬を計算します】
討伐していないのにお疲れ様でしたと言われるとどこか心苦しい。やはりアナウンスに知能はあまりないのだろう。
【コボルト討伐数0体、民間人死亡0人です】
やはり討伐をしていないためか討伐数は0だった。それにしても前は通れなかったはずの穴に、今回は戻ることができたのだろうか。
そんなことを考えていてもアナウンスは止まらない。
【それでは報酬の発表です。今回は特別報酬として、コボルト1体につき4万円となります】
特別報酬というアナウンスから聞いたことない言葉に俺は戸惑った。まさかの討伐クエストを失敗したのに報酬がもらえるとは思いもしなかった。
【コボルト20体手懐けたため合計点80万円となります】
ただコボルト達と遊んでいただけで、お金を稼ぐことができたのだ。後々考えれば今までの異世界副業の中で一番楽だった。
俺自身コボルトに癒されたからな。
【マジックバックの中身は売却しますか?】
俺はゴブリン達の素材を少し残して、いらない分を売ることにした。ホブゴブリンの素材が高いらしく、売却だけで96万円になった。
【今回のクエストで称号"犬に好かれる者"を習得しました】
また何かわからない言葉が出てきたが、どうやら俺は犬に好かれる者になったらしい。
【お疲れ様でした。またのご利用をお待ちしております】
これで全ての精算は済んだようだ。結局討伐は出来ていないものの、討伐ではない何か違う方法でもクエストをクリアできることがわかった。
倒すことが全てではない、ということを頭に入れておいて損はないだろう。
流石に今回はコボルトだったから良かったが、これがドラゴンとか魔王なら絶対に無理だったはずだ。
庭の異世界から戻った俺はお風呂に入り、ゆっくりしようとしたが、特に体も疲れていないため散歩しに行くことにした。
時間帯も夕方前のため、まだまだ寝るまでに時間もあった。
「今後どうするか決めないといけないな」
俺が考え事をしながら歩いていると、前から犬を散歩していた女性がこっちに向かって走ってきた。
正確にいうと犬に引っ張られて、女性は止まることができなさそうだ。
「ココアだめー!」
犬の走る速さに追いつけず、女性はリードを手放してしまった。
「ん? なんだ?」
俺がそんな様子を遠くから見ていると、どうやらココアと呼ばれている犬が尻尾を振りながら俺を目掛けて飛び込んできた。
「くぅーん」
さっきまでコボルトと遊んでいたからか、突然犬が飛びついてきたがどうも思わなかった。離れて少し寂しいと思っていたためちょうど良い
「ああ、よしよし」
俺がココアを撫でながら遊んでいると、飼い主の女性も遅れて走ってきた。
「すみません、大丈夫でしたか?」
思ったよりも美人な女性に、ココアを撫でる手が止まってしまった。
それに気づいたココアは自分で俺の手に体を擦りつけて、撫でるように強要してくる。
「ええ、特に問題ないですよ」
俺は視線をココアに戻し再び撫で回す。どこか女性を直視していると胸が熱くなってくる。
これはよくある
何となく知っている人に似ているが、誰かはわからない。きっと元カノとどこかが似ているのだろう。
「俺って中学生かよ!」
青春していた頃の気持ちが少し蘇ってくるようだ。
「あー、ごめんなさい」
声が後ろから聞こえ振り返ると、突如後ろから大きな物体が近づいていた。どうやら今度は大型犬のようだ。
「ちょっ、そんなに走ってどこに行くのよ」
どこからかまた声がすると思ったら、飼い主が犬に引っ張られていた。どうやら犬はこっちに向かってきているらしい。
気づいた時には、俺は犬達に囲まれていた。
どこかで見た光景だと思ったら、コボルト達に囲まれていた時を思い出す。
庭の異世界にいるコボルト達はどうやって生活をしているのだろう。
あいつらのことが心配になってきた。
コボルト達のことを考えていると、犬達はそれに気づいたのかもっと撫でるように強要してくる。
犬って嫉妬しやすい生き物なんだろうか。
飼い主達は普段とは異なる行動に驚きながらも、俺が撫で終わるのを待っていた。
次第に時間が経過し飼い主達も予定があるのか、強制的に犬を抱えて家に帰って行く。
流石に大型犬を抱えるのは大変そうだったが、飼い主達は慣れているのかみんな担いで行った。
「やっぱり犬って可愛いよな」
俺は犬達と遊ぶことに満足して散歩を途中から切り上げて家に帰ることにした。
この時称号の存在を気にすることもなかったが、後に称号の凄さを実感するのだった。
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《ステータス》
[名前]
[能力値] 投資信託1,150,000口
[固有スキル] 新人投資家
[パッシブスキル] 思考加速、並列思考、HP自動回復、疲労軽減、自動鑑定、自動翻訳
[称号] 犬に好かれる者
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