第18話 時間の管理
俺はパッシブスキルの影響か仕事効率が格段と早くなった。今まで作業にかかっていた時間の半分程度で仕事を終えることができるのだ。
感覚的に言うと考える時間が短くなり、考える時には手のタイピングが始まっている。常に手が動いている感じに近い。
「服部さん最近無双してますね」
「すごい気合が入ってるよな……」
どこかで俺の話をしているが、それに耳を傾けながらも仕事ができる。自分でも驚くぐらい自分の変化に追いつけない。
「お前らも仕事しろよー」
俺の話をしていたのは笹寺と桃乃だった。俺は笹寺と桃乃に話しかけながらもタイピングする手は止めない。
美男美女で側から見たら社内恋愛しているカップルに見えるだろう。
「服部ちょっといいか?」
「なんでしょうか」
俺は部長に呼ばれても止めなかった。むしろ、今が集中できている時だから、止めるつもりもさらさらない。
「おい、服部! 俺が話してるのになんだその態度」
やっぱりこいつは糞だ。何かあれば自分から持ってこればいいものを人を呼びつけて、結局は何か俺に頼み事があるのだろう。
俺は椅子から立ち上がり部長のところへ向かう。
「これ、お前の仕事だろ?」
そこには文字と数字が羅列しており、見にくくなっていた。
何かを打ち込む仕事だろうが、それにしても量が多い。部長のデスクには大量に同じような紙が散らばっている。
どれだけ溜め込めばここまでの量になるのだろうか。
せめてまとめてから渡してほしい。俺は部長のデスクにある紙を集めた。
「表に打ち込めばいいんですか?」
はっきりと言わないのもこの男の手法だ。手伝って欲しいと、言えばいいのに毎回遠回しに伝えて来るのだ。
それが"これお前がやったよな?"か"お前の仕事だよな?"ってパターンだ。
「さすが、服部だな。物分かりがいい」
馴れ馴れしく肩を組まないで欲しい。俺はそう思いながら資料に目を通した。すでに目を通しながら、どのようにまとめるか頭の中で想像し脳内で作成している。
「じゃあ、頼むな」
俺は部長から貰った資料を持って、自分のデスクに戻った。
周りからは仕事を押し付けられ、サービス残業が確定したやつに見えていたのだろう。
部長が休憩に行くと言ってから、オフィスから消えるとすぐに笹寺と桃乃が近づいてきた。
「服部、大丈夫か?」
「先輩、手伝いましょうか?」
「よし、すぐ出来そうだな。どうかしたか?」
俺はやっと2人に声をかけられたことに気づいた。
「お前……疲れ過ぎて壊れたのか?」
「先輩、もう帰りましょう。その仕事は私がやっておきます」
本当にこの2人は優しいやつらだ。容姿も優れているのに性格も良いとか、天は二物を与えずって言葉を知らないようだ。
そんな俺はなぜ心配をしているのかわからない。すぐに俺は再び仕事を始める。手が勝手に動く感覚に脳も慣れてしまった。
笹寺と桃乃はお互いに目を合わせて言葉を失っていた。
きっと俺のことをおかしくなったと思っているに違いない。いつもなら文句を言うが、その時間すら今は勿体ないのだ。
さっきの資料をすぐに脳内で構成したように表とグラフにまとめる。本当に手がスラスラと動くし、頭もはっきりしているからすぐにできそうだ。
――1時間後
たくさんあった資料の山は、30枚程度でまとめられた。以前なら倍以上の時間を要していたが、俺も驚く速さだった。
「ふぅ、やっと終わった!」
「えっ、先輩もう終わったんですか?」
隣で心配していた桃乃も俺の仕事の早さに驚いている。
本人が驚くぐらいだから他の人からすればもっとびっくりだろう。しかし、一番驚いていたのは俺達ではなかった。
「部長、終わったのでまとめた資料を置いておきますね」
部長のデスクにまとめた資料をそのまま置き、自分のデスクに戻る。
「はは、そんなに服部が早くできるはずがない……」
部長は資料を見ていくと、どんどんページを捲るスピードが速くなっていた。俺自身一度確認しているから間違いはないはずだ。
「特に問題ないと思いますが」
「ああ、そうだな」
部長は資料の中身を見て、何も言えなくなっていた。
腕時計を見ると、すでに退勤時間を過ぎていた。集中して仕事をしていると1日が早く感じてしまう。
「もう仕事終わったので先に帰りますね。お先に失礼します」
このままいても仕事が増えると思った俺は、仕事を終えたことを部長に伝えると、さらに驚きの顔をしていた。
「おい、部長の俺より先に帰るのか?」
本当に理由がくだらない。もう退勤時間はとっくに過ぎている。定時過ぎたら帰るのは個人の自由だ。
「自分の仕事も
後半を特に強調して言い放つと、部長は何も言えなさそうだ。本来自分の仕事もやってもらっているのだ。
俺は入社して初めて6時前に仕事を終えることが出来た。デスクに戻ると早々に荷物をまとめて帰る準備をした。
「先輩大丈夫ですか?」
そんな俺の姿を見ていた桃乃も驚いていたが、今日こそは気にせず帰ることにした。
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