第14話 回復ポーション

 俺は夢の中で誰かが必死に走っている姿を見ていた。何かに追われているのか、後ろを振り返っては走り、立ち止まることはなかった。


 出口がない真っ暗な道をただ一生懸命走る姿に俺は心の中で応援していた。それでもいつまで走ればいいのかわからない男はゆっくりと歩き出し、次第に足を止めてしまった。


「もう少しがんばれ!」


 俺はその人を応援するように声をかけるとはまた走り出した。なぜ、俺はその人が男だと思ったのだろうか……。


「はぁ!?」


 俺は急な顔の痛みに意識を取り戻した。ここはどこなんだろうか。


 空を眺めていると視界の縁にあるカウントダウンが動いていた。


「ゴブリンはどこだ!?」


 少しずつ記憶が戻った俺は立ち上がり辺りを警戒した。しかし、周囲にはゴブリンの存在はなかった。残っている時間から見て、あれから2時間ほどは経っていた。俺は知らないうちに倒れていたのだ。


 近くにゴブリンが2体倒れていたため、ゴブリンを袋に回収し、現在ゴブリン討伐数は7体となっている。


 しばらくその場に座っていると今の現状を思い出す。そういえば女性を助けるためにゴブリンに立ち向かっていた。


 俺が倒れても生きているということは、女性が姿を表し自身が囮になったのだろう。実際隠れているだけでは逃げることができないからな……。


 俺ははやく女性を助けないといけないと思う反面、初めての攻撃に怖気付いていた。自分が思っていたよりもゴブリンの攻撃が重かったのだ。体は自分より小さく子どもぐらいの大きさなのに力は成人以上だった。


 それでもクエストを終えるにはホブゴブリンの討伐は必要だし、助けられるなら女性も助けたい。


 自分の偽善心だと言われたらそれでもいい。目の前で襲われている人間を見て見ぬ振りはできない。


 俺はスコップを持ちゆっくりと立ち上がった。殴られた衝撃でわずかに頭痛を感じるが、そこまで大きな外傷もなく体自体の痛みも少なかった。


「とりあえず、ホブゴブリンを討伐するか」


 俺はボブゴブリンを見つけるために歩き始めると、何か足元に辺り転がり落ちる音がした。そこはちょうどさっき女性が隠れていたところだった。


 コロコロと転がる瓶を持つと中には赤色の液体が入っていた。太陽に透かすと少し薄く、綺麗なルビー色をしている。


「なんだこれは?」


 俺は何度か確認すると急に手元から消えた。袋に収納される感じと似たような感覚だ。


 袋マークをタッチするがゴブリンの死体で得た耳などの名前しか書いていない。


 どこに消えたのかわからないルビー色の液体が入った瓶。


 視界に映る袋マークの反対側に目を向けると"アイテム"という欄が書いてあった。前回押したが特に何もなかった場所だ。


「ん? 回復ポーション?」


 俺は見たことない表示に指を触れると、いつのまにかさっき持っていた瓶が握られていた。どうやらさっきの瓶は回復ポーションというものらしい。


 きっと倒れた俺を心配して女性が置いて行ったのだろう。俺の心配をせずに自分で使えばいいものを……。


 頭痛はするが我慢するほどでもなかったため、俺はポーションを再びアイテム欄にしまった。正確に言えば蓋を開けずに待っていると自然と戻っていく仕組みだ。こういう普段とは違う現象が起きると異世界に居ると実感する。


 急に手に持っていた瓶が消えたらマジックだ。


「んじゃ、行きますか!」


 俺はとりあえずゴブリンが居そうなところを探し歩いた。基本的に数体いるため、狭い場所より広い場所を中心に見て回る。


 ホブゴブリンという名前からして、ゴブリンとは違う種類なんだろう。


 途中ゴブリンには遭遇したが、ホブゴブリンとさっきいた女性を見つけることはできなかった。


 もちろん、途中にいたゴブリンは討伐している。あいつらは金にしか見えない。


「中々いないもんだな」


 気づけばゴブリンの討伐数は12体となっていた。お金に計算したら36万円になっているだろう。


 俺はふと大きめの工場をみつけて中に入ることにした。流石に雨風避けられるところで生活をしているはずだ。壊れていない建物をアジトとして生活していてもおかしくない。


 ゆっくりと中を覗くと俺の思惑は当たっていた。建物の中でゴブリン達の声がした。数体ではなく数は全部で20体近くは集まっている。


 その中でも3体ほどは他のゴブリンとは体が異なる奴がいた。


 2体は大きく錆びれた剣を持ち、他のゴブリンより小さめのやつは身を隠すために布を頭から被り長い杖のような木を持っていた。


 遠くから目を凝らして見ていると、頭の上にホブゴブリンと表示されている。


「あいつらを殺せてっていうのかよ」


 あまりの数に俺は気が遠くなっていた。ホブゴブリンは他のゴブリンより、筋肉も発達しているため脳震盪では済まない可能性もあった。それぐらい見た目が違うのだ。


 俺が周りを見渡すと、どうやら工場自体は天井が高い構造になっていた。


 何か重機や機械でゴブリン達を一掃できないかと、淡い期待を持って俺は工場の中に入るのだった。

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