第13話 魔物の叫び声

 俺はキョロキョロと甲高い声の持ち主を探す。前回も生まれたばかりのゴブリンの声に仲間を呼ばれ、数が増えていたことを俺は気を抜いて忘れていた。


 小さなゴブリンは隠れるように瓦礫の下にいた。  


 生まれたばかりで申し訳ないが、仲間のゴブリンを呼び寄せるわけにはいかない。小さなゴブリンを目掛けてスコップを差し込む。


 急いで小さなゴブリンと成熟した3体のゴブリンを袋に入れる。


 その時に心の奥からやましい気持ちが溢れてきた。こっちに来るゴブリンを全て倒せば、大金を得ることができるかもしれないと。


 俺は近くにある建物に身を隠して、しばらく待つことにした。


 初めはよかったがゴブリンが徐々に2体、3体と近寄って来た。だが、その増える頻度は早く、異様にゴブリンが集まってくる。


 気づいた時には、女性の死体の周りには20体近くのゴブリンが集まっていた。


 しかも、死体の女性に順番ずつ覆い被さっていく。小刻みに動かす体に、何をしているのかすぐに想像がついた。


 あまりの気持ち悪さに吐き気が止まらない。お金のためにゴブリンを殺している自分もおかしいが、それよりも目の前にいるゴブリンの本能があまりにも異常だ。


 俺はゆっくり立ち上がり、そのままその場を離れるように走った。今回は気づかれることもなく、逃げることができた。


 流石にあれだけの人数を一気に相手することはできない。


 逃げている最中もゴブリンの行動が頭から離れない。なぜ死体にも繁殖行為をしているのか。


 考えられることは2つあった。1つは自身の性欲を満たすためだ。人間と姿形は似ている。ある程度性欲があることを考慮すると、酷い話だが欲望のためにやっている可能性は考えられる。


 2つ目は、死体でも繁殖行為が出来るということだ。どういう構造かわからないが、ゴブリンの数を考えると明らかに出会った人間の数が少ない。


 仲間内で繁殖行為が出来るのであれば、人間を襲う必要性はないため、この考えも間違いではないだろう。


「どっちにしてもゴブリンって最悪だな」


 俺はスコップを握りしめ、今度こそ襲われている人を見つけたらすぐに助け出そうと思った。

 

「いやー!」


 そんな中、叫び声が聞こえて来た。明らかに女性の甲高い声だった。


 俺はとにかく必死に走った。またあの時と同じことが起こるって思うとやはり耐えられなかった。


 近づくとゴブリン5体に囲まれている女性がいた。


 女性は必死に抵抗しているが、服がはだけて胸が露わになっている。下はまだズボンを履いていることから、まだ襲われる前なんだろう。


 俺はさっきと同様に石を拾い思いっきり投げた。石は頭に当たりはしなかったが、ゴブリンの肩に当たり腕が垂れ下がっていた。


「グウォ!?」


 突然の痛みにゴブリンは誰かから襲撃されていることに気づいた。頭は少し使えるのか、女性を襲うのはやめて辺りを警戒している。


「はやく逃げろ!」


 咄嗟に声を出しゴブリンの注目を集めた。俺が声を出しながら詰め寄るとゴブリン達もそれに気付き俺に向かってきた。


 どうやらその間に女性は物陰に隠れることができたようだ。


 俺は安心してゴブリンを狩ることに集中する。数は多いが、1体ずつ倒せば問題ないはずだ。


 腕が垂れ下がったゴブリンは後回しにし、まずは近くにいたゴブリンの首を狙う。


 思った通りに1体目は倒すことができ、2体目に目掛けてスコップを振りかぶると、さっき石が当たったゴブリンが自身の体を盾にして仲間を庇っていた。


 思ったよりも仲間思いで頭が使えるようだ。だが、危機的状況に陥ったのは間違いない。


「おい、離れろって!」


 スコップはゴブリンの体に突き刺さり抜けなくなっていた。そもそもスコップを武器として使っていることがおかしい。


 刃が付いているわけでもなく、俺の力でごり押ししているのだ。


 その間に他の3体のゴブリンが俺に向かって攻撃を仕掛ける。速さが一般の人としか変わらない俺は避けることができても1、2発ぐらいだ。


 AGI素早さがステータスとして上がっていれば全て避けることができただろう。


 物理職のようなステータスの上がり方をしているため、大事な頭を守りながら攻撃を受け止める。


「意外にも弱いんだな」


 やはり思ったよりも攻撃は弱く、攻撃自体が軽い。


 だが、この油断が仇となる。隙を見て攻撃しようと手のガードを緩める。そのタイミングで横からゴブリンのパンチが顔面に入ってきた。


「うっ……」 


 顔面に入ったパンチはあごに当たってしまい次第に意識がぼんやりとしてしまう。脳震盪のうしんとうが起きたのだろう。


 このままでは俺はゴブリンに殺されてしまう。そう思った時には再び女性の高い声が聞こえてきた。


 ゴブリンは俺よりも本能的に女性の声に反応していた。腰に巻いている布越しからも、下半身が反応しているのが俺から見てもわかった。


 すぐにゴブリン達は俺から離れて、どこかへ走って行った。


 再び女性を助けることができず、今回に関しては助けられた立場だ。


「今度こそ倒してやる」


 ぼーっとする意識を俺はそのまま手放した。

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