第11話 返してくれー!!
二日酔いで頭がぼーっとしている中、早起きをして準備をしていた。この日のためにETFを購入し、武器もいくつか購入しリュックサックに入れた。
中には、ナイフや包丁、スタンガンを用意した。他にもお腹が減った時のために、保存食や水分も入っている。
動きやすい格好に着替え終えた僕が玄関に向かうと、玄関のインターホンが鳴った。
「ひょっとして……」
リビングにある、カメラ付きのインターホンでモニターを見ると隣のおばさんが立っていた。
「またこの展開?」
確か前回も異世界に行った時に隣に住むおばさんが訪れた。休みのタイミングを把握しているのだろうか。
「はーい」
俺は急いで扉を開けると、今日も右手に袋を持っているおばさんがいた。どうやらまた差し入れを持ってきてくれたのだろう。
「おはようございます」
愛想を振り撒くように笑顔を作る。とりあえず、笑顔であれば問題ない。
「慧くんおはよう!」
さっそく朝からこのおばさんとのバトルが始まろうとしていた。前回は止まらぬ会話にうんざりしていた。
「今日も作りすぎたからよかったら食べてね!」
そう言っておばさんはすぐに去っていった。
今回は長話というバトルは何もなかった。きっと背中に背負っている鞄を見て、出かけるところに声をかけたと気づいたのだろう。
あまり良い人を悪くいうのはやめようと、俺は改めて気づいた。
袋の中を開けるといくつものお惣菜が入っていた。
「あー、肉じゃがだ」
そこには大好きな肉じゃがも入っている。全て冷蔵庫に入れて、再び荷物を持って玄関の扉を開けた。
「あら、慧くんどこへ行くの?」
「……」
不戦勝試合だと思っていたが、試合はまだ始まっていなかった。
なぜ、まだ庭先の前に立っているんだ。
少し時間を空ければよかったものの、すぐに外へ出るべきではなかった。まさか出てくるのを待っていたのだろうか。
「ちょっと出掛けてきます」
「あっ、そうなの? そういえば庭の穴はどうするつもり?」
やっぱりあの件について聞いてきた。確かに不自然に開いた穴はどこから見てもおかしい。穴が空いてからすでに3ヶ月も放置している。
外からは見えにくいが、隣の家に住んでいるおばさんの二階のベランダからは見えてしまう。
「しばらくはこのままにしておくつもりです。そういえば、お孫さんは元気ですか?」
俺は話を逸らして、孫の話を振るとすぐに食いついてきた。この年になれば孫が大好きなはずだ。きっと会話をするきっかけが欲しかったのだろう。
しかし、振る会話のネタを間違えてしまった。おばさんの新幹線のような止まらない孫話はそれから10分以上も続いた。
「あー、出掛けるのに声をかけてごめんね」
そう言っておばさんは家に戻って行った。異世界に行く前に少し疲れた。俺は前回と同様に穴の中に入りトンネルを潜っていく。
♢
やはり中はトンネル構造になっており、目的の場所まで壁を伝いながら歩いていく。しばらくすると前回と同じように頭の中にアナウンスが流れてきた。
【投資信託"全世界株式インデックス・ファンド"を所持しているため、一部パラメーターが上昇します】
前回より月50,000円を投資したため、合計で150,000点分はステータスが上がっているだろう。
【ETF内訳情報技術セクター20%保持。カテゴリーパッシブスキル"思考加速"と"並列思考"を獲得しました】
ETFはパッシブスキルとして能力を獲得するようだ。名前からして考える力に変化があることがわかる。
スキル名からして情報技術セクターは思考系のスキルを手に入れるようだ。もっといろんな能力を得られるように早く投資をしたい。
スマホからパッシブスキルについて調べると、RPGゲームとかで能動的に発動するものではなく、常時スキルが働いているものらしい。
常に考える力が働くのは良いこと。
「命がけだからそんなに呑気なことを言ってられないな」
今から始まるのは命懸けの副業だ。投資のリスクよりも死の危険が高い。
【今回の討伐対象はホブゴブリンです。制限時間は12時間です。それでは本日も頑張って家畜のように働きましょう】
相変わらず毒があるアナウンスが入り、一瞬で景色が変わった。
【あっ、忘れてましたがクエスト中の荷物は没収します!】
アナウンスも普通に話すんだと思った瞬間、急に肩が軽くなった。いつのまにか背負っていたリュックサックが消えていた。
「なにー!!」
必死に準備した荷物は意味もなく、武器や装備がない状態でクエストが始まった。
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《ステータス》
[名前]
[能力値] 投資信託1,150,000円
[固有スキル] 新人投資家
[パッシブスキル] 思考加速、並列思考
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