第9話 ブラック企業
あれから仕事に追われて、気づいたら3ヶ月も経っていた。特に何事もなく普段通りブラック企業である会社に奴隷のように働かされていた。
「おい、最近鍛えたのか?」
休憩中に俺に声を掛けて来たのは同期の笹寺だった。相変わらず営業後なのか汗ばんでいる姿なのに爽やかな好青年だ。ゲームの世界に居たら完全に勇者タイプだろう。
「おい、聞いてるか?」
「ああ、ちょっと疲れてな」
ぼーっとしてるのがバレてしまった。ついさっきまで糞部長にこき使われていたから頭が
「また、あの糞野郎か?」
さすが戦友となりつつある同期だからこそ俺のことをよくわかっている。女ならすぐに結婚したいぐらいだ。
「ああ、今度は無理難題を押し付けやがって……。自分の仕事をやるの忘れて俺のせいにしやがった」
部長が任されていた仕事を俺に任せたと提出日になって言ってきやがったのだ。
だから今までその仕事に追われて、休憩せずに働き続けた。気づいた頃には時計を見たら16時になっていた。
ギリギリ間に合って良かったが、これで最後にして欲しい。
「ははは、それは災難だな。少し話が変わるが最近鍛えてるのか?」
笹寺は俺の胸を叩き出した。たしかに以前と比べたら痛くはないが、見た目はそこまで変わった感じはしない。
「んー、鍛えてはないけど疲れにくいな」
ステータスアップに伴って、以前より疲労感は感じにくい。
いつもテーブルには栄養ドリンクを置いていたが今は全く置いていない。
飲まないとやっていけなかった栄養ドリンク代は投資に回す予定だ。
「そんなに元気なら今日飲みに行かないか? 華金だから一杯付き合えよ」
「おお、酒でも浴びようか」
久々の笹寺の誘いに俺はすぐ返事をした。なんといっても明日は俺の休みだからな。
いくら飲んでも明日には影響……あっ、明日は庭の異世界に行く予定だった。
俺はあれから節約もして、資金を集めてその間にETFを買った。ちょうど値下がりしたタイミングで良かった。
「なら今日は20時に会社入り口集合でどうだ?」
「おー、どうにかなりそうだから死ぬ気でやってくるわ」
「そうか、頑張れよ! 俺も外回り行ってくる」
なんやかんやで笹寺も仕事が忙しいのだろう。最近イキイキしていると思ったら、大きい契約があったとも言っていた。
営業部は売った分だけ利益に反映されるから羨ましい限りだ。
「じゃあ、お互い頑張ろうな」
「おう!」
俺は笹寺と拳を打ち付けて、あの糞野郎がいるオフィスに戻った。
♢
オフィスに戻るとすぐに声をかけられた。せっかくの休憩時間にリフレッシュしたのに台無しだ。
「どこ行ってたんだ?」
「休憩です」
戻った瞬間に部長に声を掛けられた俺はイラついていた。あいつのせいで昼休憩ができなくて、終業時刻の数分前にやっと15分休憩しただけだ。
「ははは、自分の仕事も終わってないのに休憩か。君は本当に給料泥棒だね」
嫌味ったらしいこのハゲた頭を思いっきり殴ろうかと思ったが、必死の思いで止める。
俺の視界にも他にイライラとしている人達がいたからだ。
「早く仕事に戻りたまえ。私は先に仕事を終えたから帰るぞ! ははは、お疲れ様!」
そう言って汚い手を俺の肩に置いた部長は帰って行った。
居なくなった瞬間俺はすぐに手で肩を払った。あいつが俺を触ったと思っただけで、スーツに穴が開きそうだ。
「あー、やっぱ糞野郎だ」
俺はイライラしながら席に着くと、隣の席の後輩社員の
「先輩お疲れ様です」
「ああ、ももちゃんありがとう」
なんやかんやで一緒に頑張ってくれている可愛い後輩だ。
「その呼び方やめてくださいよ」
小柄なのと見た目も可愛らしいのも相まって、桃乃という名字からももちゃんと部署内では呼ばれている。
「ははは、もうみんな言ってるから仕方ないだろ」
「それはそうですけど……あっ、先輩明日休みですよね? 今日飲みに行きませんか?」
俺を気遣ってくれたのか飲みに誘ってくれる良い子だ。いや、ただ奢ってもらいたいだけなのかもしれない。
可愛い後輩と思えるあざとさを彼女は持っている。
「あー、今日は笹寺と飲みに行くことになったんだ」
「営業の笹寺さんですか!? んー、そこに私が混ざったら先輩の影が薄くなりますね」
「てめぇー!」
俺は桃乃の頭に軽くツッコミを入れる。これ以上やったらセクハラだと訴えられてしまう。
確かに容姿が優れている二人と俺では完璧に俺の存在感はないだろう。カップルに巻き込まれたモブ状態だ。
「先輩死ぬ死ぬ!」
「えっ?」
「先輩いつのまにそんなに力がついたんですか?」
桃乃も笹寺と同じようなことを言い出した。そんなにステータスアップの効果があるのだろうか。軽くツッコミを入れたはずが大ダメージが当たっていたのだろう。
「ごめんごめん」
「今度奢ってくださいね? そういえば早く仕事終わらせないと飲みに行けないですよ?」
桃乃はオフィスにある時計を指差す。すでに話してから10分は経過していた。
「じゃあ、高いお店探しておきますね」
そう言って桃乃も仕事に戻って行った。単に桃乃は絡みたかっただけなんだろう。
俺もすぐにパソコンに向かって作業を始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます