第21話共和国大使side
「君の兄を密告した裏切り者は既に死んでいる。いや、正確には殺されたのだが……。裏切り者は生活に困窮した平民階級の男だったよ。ははっ。驚くかい?地下組織とはボランティアのようなものだ。政権打倒を掲げた組織とはいえ給料がもらえる訳ではないからな。元々が政治に不満を持つ者達の寄せ集まりだった。それが次第に拡大していったんだ。組織の中には富裕層も多くいたが、彼らの場合は組織に資金を渡すだけの者が多い。その資金も組織運営に使うためのもので個人に支給されることもない。仕事も満足には見つからない者から見ると別世界の人間が優雅に抗議活動していれば鬱憤が溜まることもある。君の兄を密告した男は難病の妹を抱えていた。妹を医者に診せるためには金がいる。だからといって医者にかかることも出来ない男にとって貧民街で暮らす仲間を見下すような貴族連中と同じ仕事をするなど我慢出来なかったのだ。分かるかね?君の兄を密告することで奴らは大金を得たということだ」
「奴ら?兄を密告したのは一人ではないんですか?!」
「そうさ。今日と明日を生きる金が欲しい人間にとっては君の兄は格好の獲物だったということだよ。しかも相手は貴族のお坊ちゃまときてる」
そんな……兄上。
私の中で何かが崩れ落ちる音が聞こえた気がした。
兄上、私の憧れであり目標だった。
誰よりも強くて、誰からも慕われる立派な人だと、私の誇り。兄上、あなたの背中を追いかけていたのにいつの間にか随分距離が出来てしまっていたようです。
私が知らなかっただけで、兄上は……。
「君の兄を裏切った者の何人かはまだ生き残っている」
その言葉を聞いた瞬間全身の血が沸騰する感覚を覚えた。
「今、なんと言ったのです?」
自分で発したはずの声なのに自分のものではないように感じるほど怒りに満ちた声だった。
身体中に熱いものが流れ、それが血管を通して心臓までも焦げ付かせているようだ。……殺してやる! その人間を一人残らず殺してやる!
「知りたいかい?」
「勿論です!」
「それが祖国を裏切ることになってもかい?」
「ええ!!」
即答していた。迷う理由など何処にもない!!
その日、私は帝国の密偵となった――
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