第20話共和国大使side


「祖国は長年の戦争によって財政が切迫していた。税は上がり、民の暮らしは貧しくなる一方だった。……それは民衆だけではなく貴族階級にも影響した。領地を治めるためには莫大な費用がかかるからな」


 そう言って苦笑いする子爵の顔が、どこか自嘲気味に見えたのは私の気のせいではなかったはずだ。

 

「その当時、私はまだ若く未熟だった。そんな時だったのだ。……私が兄が大公家と何やら取引をしている事を知ったのは……。本当に偶然だった。大公が変装をして度々我が家に来ていた。私は慌てて兄を問い詰めたよ。だがその時の兄は妙に落ち着いた様子で言ったのだ。"心配はいらない。全て私がうまくやる。お前は何も知らない振りをしていればいい"、とな。私はその時初めて兄の様子がおかしいことに気づいた。そしてすぐに気づいたよ……。この国は内から腐り始めていることを……。それから間もなくだ。兄が妙な組織を密かに立ち上げたのは。そしてそれが徐々に国中に広がっていった」


 そこで子爵は深いため息をつくと話を続けた。

 

「その頃の私は、まだ若くてね。国の将来を案じた私は必死に訴えたものだ。このままではこの国が滅びるかもしれないと。だが兄は耳を貸そうとはしなかった。ま、それも当然なのだ。子爵家は没落寸前にまで追い込まれていた。兄は既に正常な判断ができなかったのだろう。それに元々あの組織は兄の理想を実現するためのものでもあったようだからね。……だから私も兄を見て見ぬふりをするしかなかった。兄は私を巻き込むつもりは無かったようだが……。暫くして兄が事故で亡くなり、私が子爵家を継いだ後は大公家や兄が作った組織とは関係ない生活を送っていたよ。それから数年、とある伯爵家の夜会に参加した時だった。君の兄から声を掛けられた。なんでも兄の組織に参加していると言うではないか。あんな大貴族の令息だと言うのに意外だったよ。初めは訝しんだが、話を聞くうちに兄の組織の素晴らしさを熱心に語ってくれたが、正直なところ私には良く理解できなかった。ただ、一つだけ言えることがあった。彼は本気で国を変えようとしていたんだということだけは伝わったよ。だから彼に言ったのだ。『もし何かあれば個人的な協力はできるから、いつでも言ってほしい』、と。すると彼は喜んでくれてね。それからだ。彼の友人関係になったのは。彼とはよく議論をしたものだった。彼が国を変えて行くためにどんな手を使うべきかについてよく話し合いをしたものだ。そして彼が私に見せてくれた資料があった。王家打倒、まさか彼がそんな恐ろしい事を考えて実行しようとしていたなんて夢にも思わなかったがね……。もっともその目論見は悉く潰され、彼は処刑されてしまったのだがね。君の兄はカリスマ的なリーダーだった。生きていればきっと素晴らしい政治家になっただろう」


「……兄が捕まったのは密告があったと噂になっていました。本当ですか?」


「……ああ。本当だ。仲間内から裏切りがでた」


 やはりそういうことだったのか。でもだとしたら誰が裏切り者なんだ?……そもそも何故密告なんかしたのだろうか?



 



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